表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福の道標~悪魔は聖女の妹に「聖女よ、ふさわしいものを手に入れろ」と囁いた。ピカッと光らないタイプの聖女様が起こす奇跡の物語~  作者: 赤林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/15

10.聖女様のお言葉が世界を変える

 わたくしはただの侯爵家の次女だから、王妃殿下と会えることなんて滅多にないの。この機会を逃してはならないわ!


「王妃殿下に申し上げたいことがございます」


 わたくしはマリア王妃殿下に近寄り、ひざまずいた。


「あら、わたくし!? いいのよ! 立って立って!」


 マリア王妃殿下は、わたくしの手をとって立たせてくれた。すごく気さくな方だわ。


「なにかしら!? ニーナ嬢って、本当にかわいいのね!」


「お褒めいただき、ありがとうございます。わたくし、聖女様なので、貧民窟をなんとかしたいと思っているんです……」


 わたくしは顔が赤くなるのを感じた。聖女様だと名乗れるほどのことは、まだ一つもやっていない。それなのに聖女様を名乗るのは、だいぶ恥ずかしいわ……。


「貧民窟?」


「王都の外れの孤児院があるあたりです」


 ヴィクトル騎士団長が説明してくれた。


「とっても不潔な人が多くて……。ちょっと臭うんです……。だから、みんな、お風呂に入ったりできたらって……。不潔にしていると、病気になりやすいらしいんです。それに……、お仕事がない人もいるみたいで……。大きなお風呂を作って、そこで働いてもらったらどうかなって……」


 わたくしが自分の考えを言うと、マリア王妃殿下は真剣な顔をされた。


「つまり、わたくしに温泉を作ってほしいということよね?」


「温泉……?」


 初めて聞く言葉だわ。


「いえ、ニーナ嬢は、公衆衛生や雇用創出について話しています」


 ヴィクトル騎士団長が難しい言葉で説明してくれた。


「そうそう、そういうことを考えているんです」


 わたくしも一生懸命にうなずいた。


「温泉かあ……! そうね! そういえば、そんなものもあったわ! わたくしの守備範囲外だと思っていたけれど……。思えば、王立学院を卒業して王妃になってからは、ずっと退屈だったのよね……」


「それはどういう……?」


 国王陛下が心配そうにマリア王妃殿下に訊いた。


「困っている民を助ける話よ! わたくし、温泉を作るようなスローライフ系って、辺境に行かないとできないと思っていたわ! わたくしはヒロイン! 王都にいたって、やればできる! やる気がみなぎってきたわ!」


 マリア王妃殿下がなにを言っているのか、さっぱりわからないわ。わたくしは助けを求めてヴィクトル騎士団長を見た。


 ヴィクトル騎士団長もわからないようで、困惑した顔をしてマリア王妃殿下を見ていた。


 マリア王妃殿下は興奮した様子で、わたくしの両手を強く握った。


「聖女様のお言葉に従い、民のために温泉を作るわ! この人生、まだまだ面白くなりそうよ!」


 マリア王妃殿下は国王陛下のところに行くと、王都の貧しい民のために働きたいというお話をしてくれた。


 マリア王妃殿下のお話を聞いた感じ、どうやら温泉というのは、地面からお湯が湧き出てきて、そのお湯で大きなお風呂を作ることみたい。


「温泉が完成したら、名前は『聖女ニーナちゃん温泉』にするわね! 辺境でエカテリーナが温泉を作っていたわ。エカテリーナを王都に呼び寄せて、温泉の作り方を聞いてみる!」


 エカテリーナ様というのは、辺境伯夫人のことよ。


 エカテリーナ様は、マリア王妃殿下とは王立学院の同級生だったの。元は国王陛下の婚約者だったのだけれど、国王陛下が妹のアンナ様ばかり優先するから、怒って辺境伯家に嫁いでいってしまったのよ。


「私の妻となる方の名前を冠されるのは……、ちょっとどうかと……」


 ヴィクトル騎士団長が、とても嫌そうになさっているわ。


 わたくしも、いくら聖女様とはいえ……。自分の名前が温泉に付けられるのは、ちょっと恥ずかしいわ……。


「嫌なの? じゃあ、温泉の名前は、完成してから考えるわ!」


 マリア王妃殿下はそう言い残し、元気に白馬で王宮に帰って行かれた。


 国王陛下も、お父様とお母様を連れて、騎士団の詰所に行かれるらしい。


「アンナ、レオニード、キートパー筆頭公爵、後は任せたぞ」


 国王陛下は、護衛騎士の馬に乗って帰って行かれた。


 ――国王陛下も、王妃殿下も、あれでいいのかしら……?


 ちょっとわからないけれど、ご本人たちが好きでやっているんだもの。いいのよね。


 キートパー筆頭公爵閣下がカーネリア侯爵家の使用人たちに、次々と指示を出してくれた。わたくしのドレスは、洗って片付けてもらえるみたい。


 お姉様のことは、レオニード殿下がまた黒い馬に乗せて、王宮に連れて行った。


 そして、わたくしも、キートパー筆頭公爵ご夫妻とヴィクトル騎士団長と共に、キートパー筆頭公爵家のお城に行ったのだった。



 わたくしは、キートパー筆頭公爵家から王立学院に通うことになったの。ヴィクトル騎士団長の婚約者として、キートパー筆頭公爵家で行儀見習いをしているという設定よ。


 温泉という大きなお風呂作りは、マリア王妃殿下が張り切って進めてくださっている。思い切ってお願いしていてみて良かったわ。


 わたくしは、お父様とお母様の行く末について考えていた。


 お母様は、辺境医療修道院で治療してもらっているから良いとして……。


 鉱山のお仕事って、すごく大変らしいのよね……。


 お父様は罰として送られたのだから、劣悪な環境で働かされても仕方ないと思うんだけど……。


 元から鉱山で働いている方々って、鉱山のご近所に住んでいる普通の民よね?


『罰を受けているから』とかで働いているんじゃないと思うの。


 それなのに、劣悪な環境なのは問題だと思うわ……。


 ――鉱山にも、聖女様の助けを必要としている民がいるんだわ!


 わたくしは居ても立っても居られなくなって、ヴィクトル様に相談することにした。


 王立学院での授業が終わると、すぐに教室を飛び出して、馬車に乗り込む。


 そのまま、まっすぐ騎士団の詰所に行ったんだけど……。


 ヴィクトル様はいなかったの……。王女殿下に呼ばれて、王宮に行ったんですって……。


 王女殿下というのは、レオニード殿下の妹のカタリナ殿下よ。


 ヴィクトル様とは従兄妹同士だから、仲が良いのかしら……?


 わたくしはマリア王妃殿下から、『いつでも王宮に遊びに来てね!』というお手紙をもらったの。今では王宮への出入りが自由なのよ。


 わたくしは鉱山にいる民がとっても心配で、馬車を王宮に向かわせた。


 わたくしが王宮の正門に到着すると、ヴィクトル様は白馬の横に立ち、騎士団の詰所に戻ろうとしているみたいだった。


「ニーナ嬢!? なぜこちらへ!?」


 ヴィクトル様はとても驚いて、わたくしのところにいらした。


 そんなヴィクトル様のお隣には、カタリナ殿下が立っておられた。金髪に青い瞳で、とっても美しい王女殿下よ。レオニード殿下とお顔が少し似ているの。


 ちょうどいいわ。カタリナ殿下にも、相談にのってもらえるじゃないの。


「わたくし、心配なことがあって……。居ても立っても居られなくなって、来てしまったんです……」


 わたくしは鉱山で苦しんでいる民のことを考えて、目がウルウルとしてきてしまった。


 飲み水はたっぷりあるのかしら……? 食事はきちんと取れているの……? 休憩時間はたくさんある……? 排泄物の処理は……?


「それはその……、どういった内容でしょうか……?」


 ヴィクトル様はわたくしに問いかけながら、心配そうにカタリナ殿下を見た。


 カタリナ殿下がヴィクトル様の腕に抱きつく。


「やめてください、カタリナ殿下! 私はニーナ嬢を大切に思っています! もうニーナ嬢に悲しい思いも、不安な思いもさせたくないのです!」


 ヴィクトル様はカタリナ殿下の手をふり払った。けれど、カタリナ殿下はまたヴィクトル様の腕に抱きついた。


「アンナ様に無理強いされたんでしょう?」


「最初はそうでしたが、今は違います! 私はやめてくれと言っているのです! ニーナ嬢を傷つけたくない!」


 お二人は何回も同じことをくり返した。そして、ついにヴィクトル様は疲れた顔をして、カタリナ殿下を腕に抱きつかせたままにした。


「素直になりなさいよ、ヴィクトル!」


 お二人はとっても仲良しなのね。どちらも遠慮なしで言い争っていたわ。兄妹同然というのは、こんな感じなのかしら?


 ……ああ、でも、今は、そんなことどうだっていいのよ!


 わたくしには、守るべき民がいるんですもの!


「あなたがニーナ嬢ね。急に横から出てきて、ヴィクトルの婚約者ですって?」


 カタリナ殿下が質問してきた。まるで今になって、わたくしがここにいると気づいたみたいなご様子よ。


 それにしても、横って?


 どこなのかしら……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ