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幸福の道標~悪魔は聖女の妹に「聖女よ、ふさわしいものを手に入れろ」と囁いた。ピカッと光らないタイプの聖女様が起こす奇跡の物語~  作者: 赤林檎


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14.悪魔レモラとの戦い

「お前は占い師に会って、『お嬢様は聖女様です。ふさわしいものを受け取り、ふさわしい座にお就きなさいませ』と言われただろう! その占い師は、この俺様が化けた姿だ!」


 悪魔レモラが叫んだ。だいぶイライラしているみたいだわ。


「たしかに言われたわ……。あの占い師って、あなただったの……?」


 わたくしは、なんだか不安になってきた。


「ああ、そうだ! この俺様があの時の占い師だ! お前は『悪魔の囁き』によって、偽聖女として覚醒したはすだろうがっ!」


 わたくしは悪魔レモラの言葉を整理して、一つ一つ考えてみた。


 そして、理解した。


 わたくしは悪魔に唆されて、自分を聖女様だと思い込んでいたのよ……。


「わたくし……、聖女様じゃなかったの……?」


「どこまで頭が悪いんだ! お前が聖女なわけないだろう! お前は聖女を虐げ、王太子を誘惑して虜にし、この国から聖女を追い払う。お前こそが、この国が滅びる原因を作る『滅びの悪女』ではないか!」


「そうなの……?」


 わたくしは、まったくピンとこなかった。


 だいたい『滅びの悪女』なんて初めて聞いたわ。


 お姉様を主に虐げていたのはお母様だし、レオニード殿下のことなんて好きじゃないし……。むしろレオニード殿下なんて嫌いだし……。


 この国が滅びたりしたら、みんなが困るじゃないの……。


「なにをキョトンとしてやがる! この国は『聖女の守り』を失ってねえじゃねえか! しかも、まだ赤ん坊の勇者は? 死んでねえだろう! 民はなんでおとなしく並んでるんだ? 民が王家を見放して、暴動を起こすはずだっただろう!? 俺様はな、荒れ果てたこの国で、民を魂ごと喰らい尽くし、魔王になるはずだったんだぞ! どうなってるんだよ!?」


「まだ赤ん坊の勇者様……?」


「王都の孤児院で死ぬはずだっただろうがっ!」


 孤児院にいた赤ん坊……。


 乳児院を作るきっかけになった、あの赤ちゃんのこと……?


 あのルカという男の子って、勇者様だったの……?


「この国の勇者は、孤児院で満足に世話されず、ついには疫病にかかり、雪の日の朝に死ぬ定めだっただろうが……!」


「ルカってそんな定めだったの……?」


 わたくしは、ソフィーの乳児院にいるルカの顔を思い出した。


 貧民窟が元のままだったら、たしかにルカは疫病で死んでいたかもしれないわ……。


 この世界に勇者様がいるとは知らなかったけれど、水晶玉に人の姿が映ったり、お姉様が聖女でピカッと光ったり、ユニコーンが助けに来てくれたり、悪魔が宙に浮いているんですもの。勇者様だって、いてもおかしくないわよね。


「偽聖女のくせして、余計なことばかりしやがって! 誰もお前のことなんか、聖女だなんて思っちゃいない! 高位貴族のお嬢様のお遊びに、みんな嫌々付き合っていただけだ!」


 悪魔レモラが、わたくしをにらみつけて叫んだ。


「そんな……、そんなこと……」


「みんな、陰では、お前の『聖女様ごっこ』をバカにして、ゲラゲラ笑っていただろうよ! 『またニーナ嬢がおかしなことを始めた』ってな!」


 悪魔レモラの言葉は、すごく本当っぽく聞こえた。


 わたくしは、たしかに聖女様ではなかったみたい……。ピカッと光れないしね……。


 わたくしが聖女様としてやってきたことって、みんなにバカにされ、笑われていたの……?


 わたくしはすごく悲しくなって、涙が出てきそうになった。


 その時――。


「……偽聖女というのは、我が妻にして、この国の聖女、ニーナのことだろうか?」


 わたくしの後ろで、ヴィクトル様の声がした。


 わたくしが驚いてふり返ると、ヴィクトル様はゆらりと立ち上がった。


「そうに決まってるだろうがっ! ケケケッ!」


 悪魔レモラは挑発するように言って、不愉快な笑い声を上げた。


「ニーナは紛うことなき聖女だ! 立派な聖女となるために、ニーナが日々どれだけ努力してきたと思っているのだ! ニーナを侮辱することは、この私が許さぬ!」


 ヴィクトル様が叫びながら大ジャンプをして、空中で悪魔レモラにレイピアで斬りかかった。


 銀のレイピアが、まるで大きな針のように見えるわ!


 聖女様をお助けしたユニコーンの角は、まるで銀色の針のようだったと本に書いてあった。


 ヴィクトル様は、やっぱりユニコーンなのよ!


「ニーナは聖女である! この国の王女カタリナが保証する!」


 馬車がひどく揺れて、騎士の白い儀礼服を着たカタリナ殿下が、わたくしの横に立っていた。


 カタリナ殿下はレイピアを抜き、わたくしを背後に庇ってくれた。


「そうだ! ニーナ様は聖女だ! おかしなことを言うな!」


 屈強な一人の男が、馬車の横に立っていた。カタリナ殿下の夫で、鉱山で鉱夫長をしているセルゲイよ。平凡な茶色の髪と瞳の平民なんだけど、とにかく筋肉がすごいの!


 カタリナ殿下は王族と民の融和を掲げて、セルゲイを夫に迎えたのよ。


「ヴィクトル、ニーナはわたくしたちで守るわ!」


「お願いします!」


 ヴィクトル様は、空中でこちらを見ずに答えた。


 ヴィクトル様って、宙に浮けたのね!


 ユニコーンだから飛べるんだわ!


「バカ共が、なにを言ってやがる! どう見たって、そいつは『滅びの悪女』だろうがっ!」


 悪魔レモラが、ヴィクトル様のレイピアの先をかわしながら怒鳴った。


「ニーナ様は聖女様だよっ!」


「聖女様を侮辱するなー!」


「がんばり屋さんの良いお嬢様さ!」


「あたしらは平民だけど、悪魔なんかに騙されないよ!」


 沿道にいる民たちも、悪魔レモラに言い返してくれている。


 悪魔レモラは、舌打ちをしながら民たちを見まわした。


 ――民たちが、わたくしを聖女様だと信じてくれているわ!


 わたくしはとってもうれしくなって、また涙が出てしまいそうになった。


 やっぱりピカッと光るタイプだけが聖女様ではないのよ!


「みんな、ありがとう!」


 わたくしは馬車の上で立ち上がって、民たちに両手を大きくふった。


「聖女様ー! 信じてるぞー!」


 鉱山から来てくれた鉱夫たちも。


「悪魔の言うことなんか、誰も信じちゃいないよー!」


 乳児院を手伝ってくれている、赤ちゃん連れの女性たちも。


「悪魔め! 我らを甘く見るな! そう簡単に惑わされたりせぬぞ!」


 パレードの護衛をしてくれている騎士たちも。


 みんな、みんな、わたくしを聖女様だと信じてくれていた。


 たくさんの人たちの声援が、わたくしの不安を打ち砕いてくれた。


「そうよ、わたくしは聖女様! この悪魔が嘘を吐いているのよ!」


 わたくしは悪魔レモラをビシッと指さして言った。


 みんなのおかげで目が覚めたわ!


 悪魔に騙されるところだった!


「どいつも、こいつも、バカばかりかよ!」


 悪魔レモラが黒いフォークをふり回し、ヴィクトル様が大きく後ろに飛んで避けた。


 ヴィクトル様がレイピアを突き出す。レイピアが悪魔レモラの左肩に突き刺さり、悪魔レモラがすごい悲鳴を上げた。


「貴様……! 貴様ら……! ふざけやがって……ッ!」


 悪魔レモラは肩から血を流しながら絶叫し、さらに黒いフォークをめちゃくちゃにふり回した。


 ヴィクトル様は身体を捻ったり、のけぞったりしながら空中で攻撃をかわす。


 悪魔レモラの攻撃は激しくて、わたくしにはヴィクトル様が押されているように見えた。


 わたくしのユニコーンが、わたくしのために必死で戦っている。


 なにか……、なにか、わたくしにもできることはないかしら……!?


「ヴィクトル様、がんばってー!」


 わたくしは、悪魔レモラと戦ってくれているヴィクトル様に声援を送った。


 民たちの信じる心が、わたくしに力をくれた。


 わたくしもヴィクトル様を応援するわ!


「騎士団長、やっちまえー!」


「俺らも応援してるぞー!」


「悪魔なんかに負けるなー!」


 民たちも、一緒になってヴィクトル様を応援してくれた。


 それでも、やっぱり悪魔レモラは強くて、今にもヴィクトル様が黒いフォークで刺されそうに見えた。


「死ねぇーっ!」


 という恐ろしい声と共に、悪魔レモラが黒いフォークを突き出した。


 ――声援だけじゃダメよ!


 このままでは、ヴィクトル様がやられてしまうわ!


「カタリナ殿下、ごめんなさい!」


 わたくしはかぶっていたティアラを頭からむしり取ると、悪魔レモラに向かって投げつけた。


 ティアラは悪魔レモラの頭にコツンとぶつかり、悪魔レモラはすごい形相でこちらを見た。


 ヴィクトル様はその隙を逃さず、悪魔レモラの胸をレイピアで貫いたのよ。

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