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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十三章 王都ペンドラゴン
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5.王宮

 ――昼食後。

 俺たちは馬車に乗って王宮の門を通った。

 重厚な作りの門を通過して、今更ながら場違いな所に来てしまったと感じる。

 俺は案内役の衛兵の指示に従って、みんなを途中で降ろして衛兵に馬車を預けた。

 俺もみんなと一緒に中に入るつもりだったが、四兄弟の名馬たちは微動だにしない。

 結局、俺は自分で馬車を厩舎まで移動させ、遅れて宮殿に入った。

 宮殿に入ると、出入り口付近にいた衛兵に尋ねる。

 「みんなは、どこに行ったのですか?」

 「!? 今、確認しますので、ここで待っていてもらえますか?」

 俺は宮殿に入って早々に、一人で待たされることになった。

 コテツとリヴァイはいざとなったら念話で呼ぶことが出来るので、みんなの護衛に付き添いをお願いしてある……。

 独りで呆然としていると、聞き覚えのある声が背後からした。

 「カザマ、そこで何をしているのだ?」

 「モーガン先生? どうしてここいるのですか?」

 「な、何だと……ワシが宮殿に出入りするのが、そんなに変か? ワシは賢者だと何度も言ったし、王都に行ったりと色々と忙しいとも話した。それから、ワシも今回呼ばれていると、ヘーベさんから聞いたであろう?」

 「あっ!? 確かに、そんなことを言ってましたね……!? それなら、どうして後から出発した先生が、ここにいるのですか?」

 「ワシは賢者だ。自分で登録した場所へは、転移魔法で移動出来る」

 「えっ!? それなら、初めから先生が転移魔法で、俺たちと一緒に移動してくれたら良かったではないですか?」

 「馬鹿者! お前は師匠を何だと思っているのだ! それから、どこに行くにも初めは自分の足で移動するのが鉄則だ」

 「スミマセン……確かに冒険者として鉄則ですよね」

 俺は先生と宮殿の入り口付近で話していたが、久々に冒険者らしい言葉を口にして頷く。

 「お前、偉そうに言っているが……最近のカザマは冒険者じゃなくて、商人か料理人のようだぞ」

 俺が先に、先生に失礼なことを言ったかもしれない。

 だが先生は、俺に言ってはならないことを言ってしまった。

 俺は悔しくて、奥歯を噛んで身体を震わせる。

 「そんな酷いことを言うのは止めて下さいよ! 前から気にしていたんですよ……俺は先生が思いも付かない様な、酷い目に毎回遭わされているんです。戦闘もしてないのに、ステータスが更新するくらい過酷な日々を過ごしているのですから……それに、今回の王都までの移動は、手の掛かる人たちのお世話をして気苦労ばかりか、死に掛けたんですよ!」

 「そ、そんな泣きそうな顔をしなくても良いだろう。ワシが言い過ぎたから……それより、早く国王の所に行くぞ……」

 モーガン先生は顔を引き攣らせ、額の汗を拭うと俺を連れて先に進んで行く。

 俺は案内役の衛兵とみんなのことを忘れ、先生と先へ進む。

 「賢者モーガン殿、中へ……!? 従者の方は、ここからは入れません」

 「ち、違います! 俺は従者じゃありません! モーガン先生の弟子ですが、今回は王さまに呼ばれて来ました」

 モーガン先生はちらりと俺の顔を見て小さく笑み見せると、扉の前に立つ衛兵たちに顔を向けた。

 「ここにいる者はワシの弟子のカザマだ。確かに国王から招かれている。ワシよりも主賓だぞ」

 「し、失礼しました! モーガン殿が言われるのでしたら……」

 俺は先生の従者と間違えられて、ここでも差別されたと不快に感じる。

 しかし、モーガン先生が説明してくれたお陰で、俺も中に入れることになった。

 (宮殿の中の衛兵といったら、近衛兵とか……だよな? 幾ら先生の言葉があったとはいえ、確認もしないで中に通しても良いのだろうか……)

 俺は衛兵の顔を見ながら首を傾げたが、先生の後に続き国王と謁見することになる。


 ――国王の間。

 俺とモーガン先生は扉の中に入った。

 広い部屋には身分が高そうな衛兵が数人と、同じ様に身分が高そうな貴族が数人いる。

 部屋の奥が数段高くなって、豪奢な椅子には漆黒のローブを纏ったヒトが座っていた。

 俺は遠くからじろじろ見つめるのも失礼だと思い、視線を下げて先生の後ろについて部屋の奥に足を進める。

 国王の椅子の手前、段差の前で先生が腰を落として膝を着いたので、俺も真似る様に膝を床に着けた。

 「モーガン殿、多忙だと思うが呼び出してすまない」

 「いえ、今回のご用件は……」

 「ふむ、それを言う前に……何故、今、カザマがいるのだ……」

 俺は先生に合わせて目線を下げていたが、名前を呼ばれて思わず顔を上げてしまう。

 俺の目の前に黒い靄が漂い始め、周りにいた身分の高そうな人たちが震えている。

 「あのーっ……宮殿に入る前に馬車を厩舎へ移動させていたら、俺だけ取り残されてしまいました。それで、入り口付近で迎えを待っていたら、偶然モーガン先生に会って案内してもらったんです」

 モーガン先生が顔を引き攣らせ、額から汗を流す。

 そして俺の方を見ながら、目で何か合図していている。

 だが、良く分からず首を捻り周りを見渡した。

 身分の高そうな人たちは、益々震えが強くなり怯えているようである。

 俺は状況を理解出来ずに首を傾げていた。

 「な、何だと……お前たちは、私が呼んだ客を従者の様に扱い……挙句、一番の賓客を取り残して、置き去りにしたのか?」

 王さまは黒い靄を漂わせ、俺の話をしばらく黙って聞いていたが。

 口を開いた途端、周囲に重圧を発した。

 決して怒鳴っている訳ではないのが、凄まじい怒りの波動が伝わる。

 俺は首筋から汗が流れ、身体が震えているのを感じた。

 『ヒィイイイイイイ――! 申し訳ありません!』

 周りの身分の高そうな人たちは、声にならない様な悲鳴を上げるとみんな同時に王さまに謝罪して、膝を床に着けて頭を下げる。

 (な、何だ? この状況は……珍しく俺が大切に扱われているのは分かるが……王さまの口調は、それ程怒っている様には感じない。この漂う黒いオーラはいったい……)

 俺は首を傾げながら、再び先生の方を見た。

 「カザマ、国王の前だぞ。キョロキョロするな。見っとも無い。それから、王の許しがないのに勝手にしゃべるな……」

 モーガン先生は、いつもの豪快な口調が嘘の様に、小声で俺を叱り付ける。

 俺は、普段自分がアウラを叱る様な口調をされて、イラっとしたが我慢して俯く。

 「ふむ、モーガン殿、気にしなくても良い。カザマとは、後から皆と一緒に会うつもりであった」

 「あのーっ……それは、カトレアさんやエリカのことですか?」

 意外にも気さくに話し掛けてくれる王さまに、俺はみんなの中でも特に知名度が高そうな仲間の名前を出した。

 「お、お前は!? 勝手にしゃべるなと言っただろう! お前は子供か?」

 モーガン先生は眉間に皺を寄せ、またも小声で俺を叱った。しかし、最後の言葉は、更にイラっとしたが我慢する。

 「カザマ、ドラゴンを撃退したと聞いたが、手強かったのか?」

 「えっ!? あ、はい……正確には撃退したのではなく、手合わせをしてもらった感じですね。とてつもなく強大な力を感じました。けれど邪悪な印象はなく、そっとしていれば問題ないと感じました」

 俺は王さまから訊ねられて、レベッカさんのお父さんのことを思い出した。

 モーガン先生は諦めたかのように、俯いて何も言わなくなる。

 「実際に、腕を切り落として持ち帰ったと聞いたが……」

 『はあ――っ!?』

 俺が返事をしようとしたら、周りの偉い人たちが下げていた頭を上げ、驚きの声を発するが……そのまま腰を抜かす様に、しゃがみ込んでしまった。

 他の人たちは、俺がドラゴンと戦ったことを知らなかったようだ。

 「はい、正確には指を一本だけですが……戦った褒美にと貰い受けました。今は、村の鍛冶屋に預けて、新しい武器を作ってもらっている最中です」

 「ふむ、随分謙虚なのだな? 私の前に現れる人間の多くは、事実よりも過大に語る者が大半なのだが……お前は違うようだな……」

 「いえ、俺は謙虚な訳ではなく、ただ嘘をつくのが嫌いなだけです。嘘をつくと大抵、後から碌でもない目に遭うので……」

 俺は王さまと話しながら頬を掻き、過去の出来事を思い出し冷や汗を流した。

 「そうか……お前たちも聞いたであろう。少しは、この若い冒険者を見習って、謹厳実直に働け!」

 王さまは、周囲の偉い人に向かって声を上げる。

 みんな腰を抜かした様にしていたが、再び姿勢を正すと床に頭を着ける様に頭を下げた。

 (俺は何か、余計なことを言っただろうか……)

 俺はそっとモーガン先生の方を見たら、引き攣った笑顔を浮かべて、力強く拳が握られている。

 俺は何か間違えたと思い息を呑む。

 「――では、約束の褒美だが……何か欲しいものがあるか?」

 俺が余計なことを言ったかもしれないと心配していたら、王さまは突然思い掛けないことを言ってきた。

 「えっ!? すみません……王さまと会うのは初めてで、何も約束して……!? も、も、もしかして……」

 俺は驚愕し、王さまを見上げて口篭るが……言葉が出なくなる。

 「ふむ、初めてではないであろう」

 「……!? はい、その節は大変ご迷惑を……いえ、お世話になりました」

 俺は周りの偉い人たちと同じ様に頭を床に着けたが、両足をしっかり床に着けて正座し、ドゲザをした。

 『おおおおおおおおおおおおおお――!?』 

 俺のドゲザ姿を見た周りの偉い人たちは驚きの声を上げる。

 それから互いに顔を見合わせると、俺と同じ様にドゲザをした――。

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