4.王都
陽が傾きかけると、大きな街が見えてきた。
真ん中の方には、大きな立派な建物が見えるが王宮であろうか。
これまで見たどの街よりも大きく赤い陽射しが幻想的に照らす。
高い街壁の門から王都に入ると、今まで通りの手順で貴族用の宿に止まった。
俺はここでも使用人が使う様な部屋に、コテツとリヴァイと共にいる。
「リヴァイもコテツも、王都では騒ぎを起こさないで下さいね。特にリヴァイは、空気は読めるのですから、余計なことも言わないで下さいよ。確かにレベッカさんに言ったことは間違っていませんが……あは……あはははははははははははは……」
「おい、お前、文句を言うのか笑うのかどちらかにしろ」
「うむ、カザマはリヴァイに余計なことを言うなと言ったが、お前はヒトのことを言えるのか?」
俺は召還した主として、保護者の様にリヴァイとコテツに注意を促そうとしたが失敗した。
途中でリヴァイの言葉を思い出し笑ってしまったため、逆に叱られてしまう――。
しばらくして、扉を叩く音とレベッカさんの声が聞こえた。
「カザマ、今、ちょっと良いかしら?」
扉を開けるとエリカと、レベッカさんが俯いて立っている。
俺は首を傾げつつもふたりを部屋に通す。
「あ、あの、この前はゴメンなさい! カッとなっていたとはいえ、カザマを危うく殺してしまうところだったわ……」
「い、いえ、過ぎたことですから、頭を上げてください」
レベッカさんは部屋に入ると、すぐに頭を下げて俺に謝ってきた。
俺は頬を掻きながら、レベッカさんに頭を上げる様に促す。
「ずっと傍にいても、何の侘びもしないヒトもいるのですから、気にしないで下さい」
「そうなの? 召還されておいて……あんなのことをしたのに? 意味が分からない言葉で人を馬鹿にしたり、常識というのが分からないのかしら?」
俺の話を聞いたレベッカさんが赤い瞳を細め、リヴァイの方をちらちら見ながら話した。
それを聞いたリヴァイはお子様の顔で眉を顰めると、俺からレベッカさんの方に視線を移す。
「おい、お前、オレは間違ったことを言ってないが……またオレに喧嘩を吹き掛けるつもりか?」
俺はふたりのドラゴンの問答に、頭を抱えてうな垂れそうになったが。
「ち、ちょっと……いい加減にして下さい! ふたりとも、俺は死に掛けたばかりなんですよ! 今はアリーシャとアウラもいないし、もう止めて下さい!」
「おい、カザマ……元はお前が、余計なことを言ったのが原因だろう? 何故偉そうに叫んでいる。そもそもオレは悪い事をしてないぞ。ドラゴン同士の争いは、邪魔しないのが常識だろう?」
俺が悲鳴に近い叫び声を上げてレベッカさんとリヴァイを止めようとしたが、リヴァイは怒りが収まったのか落ち着いた口調で答えた。
「えっ!? コテツ、今のリヴァイの話は本当ですか?」
「うむ、確かに常識だな……」
「エ、エリカ、お前も知ってたか?」
「えっ!? 私に聞くの? 私、ドラゴンのことは分からないけど……他人の決闘に割って入る方が無粋じゃないかしら? そういえばマー君、私がアリーシャに決闘を申し込んだ時も……横から割って入ったわよね?」
俺は大分この世界に慣れてきたが、この世界に来て二ヵ月半くらいしか経っていない。
こんな常識があると初めて知ったが、エリカに確認して今回も俺が悪者になりそうである。
「ところでレベッカさんは、この国の王さまのことを知ってますか? 以前、アウラに聞いたことがあるのですが……たった一人で、城を占領して悪い貴族たちを滅ぼしたと聞きましたが……」
俺はいい加減悪くもないのに悪者にされたくはないと思い、全く関係ない話題をレベッカさんにした。
関係ないと言ってもコテツから、ヘーベルタニア辺りを通過中に気をつける様に指摘された事である。
ギルド職員であるレベッカさんであれば、ある程度の情報があると思ったが。
「えっ!? ど、どうしたの? 急に……」
レベッカさんは驚いた様に、顔を引き攣らせて俺を見つめている。
「えっ!? 俺の方が聞きたいですよ? レベッカさんなら多少のことは知っているだろうと思ったのですが……」
「そ、そうなの? 噂くらいなら……とても強いと聞いたことがあるわ……!? さっき、王宮から使いの人が来てたわ! 明日の午後から王さまに会えるそうだから、お昼過ぎに、王宮に向かうわよ……」
俺はレベッカさんの驚いている様子に首を傾げたが、レベッカさんは噂話をすると王宮から使いがきたことを教えてくれた。
「あ、明日ですね? 王宮なんて生まれて初めて入るから緊張するな……。エリカも初めてだから、緊張してるだろう?」
「あっ!? ごめん……私はクラーケンを倒した時に、他の国の王宮に入ったわ」
俺はエリカの言葉を聞いてテンションが下がり、この話題をするのを止めた。
――異世界生活二ヶ月と十八日目。
翌朝、俺はいつもの様にビアンカを誘って散歩に出掛けた。
今日もビアンカと同室のアウラ、コテツとリヴァイも一緒である。
俺は前日の夕食の後で、カトレアさんにビアンカとアウラばかりと指摘された。
だが、ビアンカは人混みが苦手で、アウラは極度の恥かしがり屋のため。
付き添いがいなくては、外に出ることが出来ないと主張した。
他のみんなは、護衛にエリカとレベッカさんがいるので大丈夫であろうと……。
(最近、アリーシャとあまり話してないな……)
俺は散歩の最中でふと脳裏を過ぎる。
コテツとリヴァイは何か気になったのか、俺の顔を見たが何も言わなかった――。
改めて見ると、王都はどこの街よりも大きく、中心付近の王宮の城壁も厚くて高い。
外から見ても王宮はすぐに分かったが、城壁を越えると王都の中は建物でいっぱいだった。
中心付近に王宮があるが、王宮に近い程立派な建物が多くある様に見える。
有力貴族や富裕層が住んでいるのだろう。
俺たちは大きな建物が並ぶ中心部ではなくて、庶民が暮らしている様な街壁側に向かって歩いていた。
ビアンカが堅苦しい雰囲気を嫌い、アウラもフードを被った姿が目立つという理由がある。
「なあ、アウラは離れた場所を魔法で知ることが出来るだろう? どこか王都でお勧めな所はあるか?」
「そうね……私も詳しくは分からないけど、この辺りでも変わったものが売ってる店があるかもしれないわ」
俺はアウラの言葉を聞いて、露店だけでなく目に留まった店で何を扱っているのか探して歩いた。
王都は街や村よりも武器屋や防具屋がいくつもある。
しかし、今はエドナの父親に新しい刀を作ってもらっている最中で、防具もヘーベが女神さまの力で授けてくれたニンジャ服を装備していた。
武器と防具は必要ない。
他には衣類や装飾品を扱っている店が多く見られたが。
まだ店が開いてないので、後からみんなを誘って買い物をすることにした。
――朝食後。
俺は食事の後でみんなに声を掛けて、買い物に行きたい希望者を確認したが……。
俺たちは、先程の衣類を売っている店の前にいる。
だが、ここでも周囲の視線を浴びていた。
カトレアさんは庶民の衣類売り場に来ないと思ったが、青空教室の子供たちのお土産を購入すると言ったのだ。
こうして全員参加となり美女、美少女たちと白色の虎の子、見た目は可愛らしい男の子を連れた俺は目立ちまくっている。
村の商店通りでアウラとカトレアさんを連れて歩いた時のように、周囲から嫉妬の視線を浴びていたが、気を引き締めて買い物を始めた。
店が多い分だけ、取り扱っている物の中に安い物もあり、適当に下着や部屋着などを買い始める。
自分の分だけでなく、コテツとリヴァイの衣類も購入した。
アウラの弟のアルベルトのお土産やエドナとその幼馴染のマッコイとニコラス、他の子供たちの分も購入する。
カトレアさんも買うと言っていたが、ダブっても他の子供にあげればいいだろう。
「俺たちの分は買ったが、アウラとビアンカも気に入った物があったら言ってくれよ。お金のことは気にしなくていいから遠慮するなよ」
「えっ!? 本当に良いの……」
俺の話を聞いたアウラは両手を胸の前に合わせて、碧い瞳を輝かせた。
ビアンカが興味なそうにしていたので、俺はビアンカの手を引きながら適当に動き易く似合いそうな服とズボンを選んだ。
それから、大体のサイズが分かったので、ビアンカには内緒で可愛いワンピースを選んであげた……。
「アウラ、ちょっといいか?」
「何、お金が足りなくなったの?」
「ち、違う。お金は十分にあるが……ビアンカと一緒に下着を選んであげて欲しい。流石に、下着まで俺が選んであげるのは恥かしい……。少し離れた所で待ってるから、選び終えたら呼んでくれ。勿論、自分のものも遠慮なく選んでくれ」
アウラはさっきと同じ様に手を合わせて笑みを浮かべたが、下着と聞いて恥かしかったのか顔が赤くなる。
俺はビアンカをアウラに預けると、少し離れた所からコテツとリヴァイと一緒にみんなの様子を眺めていた。
そこで俺は、偶然アリーシャに目が留まったが、一人でいるようだ。
アリーシャは、服をいくつか手に取ったが悩んでいるようである。
俺はゆっくりアリーシャの背後に近づくと声を掛けた。
「何か悩んでいるのか?」
「あっ! カザマ、久しぶりですね……カザマの方から、私に話し掛けてくるのは……」
「えっ!? ち、ちょっと、その言い方はヒドクないか? 気絶していた日もあるし……アウラとビアンカは、誰か付き添ってあげないといけないだろう……」
「冗談です……うふふふふ……え、えーと……服なんですが、良い服は高いので、機能性で選ぶか、デザインで選ぶかで悩んでいたのです」
アリーシャは俺に冗談を言って困らせると、悪戯っ子の様に魅惑的な笑みを溢す。
そして恥らいながら、服を交互に身体の前に広げて見せた。
(か、可愛過ぎだろう! 最近、あまり話してなかったが、こんなに可愛かったか……)
「いつも色々とお世話になっているし……俺がプレゼントするから、好きな服を選んでいいぞ。――それから個人的に……ぜひこれも合わせてプレゼントしたい」
俺は赤く染めた頬を掻きながら、一着の洋服を渡した。
「えっ!? 本当にいいんですか……!? こ、これですか? 確かに動き易そうですが……これは、高くないですか?」
「ね、値段は気にしなくてもいいんだ。アリーシャがこれを着ている姿を見たいと……俺が勝手に思っているだけだから……」
「で、では、お願いします……」
アリーシャは顔を赤く染め頷く。
俺は結局、アリーシャが欲しがっていた服と俺が選んだメイド服を購入する。
こちらの世界に来て、カトレアさんの屋敷でクラッシクなデザインのメイド服を見て嬉しかった。
しかし、この店ではお洒落なメイド服が置いてあったのだ。
ボルーノの街にはユカタが売っていたので、ヘーベの設定で普段頑張っている俺へのご褒美だと気づいた。
俺は、その後でアウラとビアンカの下着代も払い、午前中に買い物を終わらせる――。




