6.DCとは
国王の間の扉が開かれた。
俺と合流してから、王さまと会う予定だったみんなが国王の間に入って来る。
しかし、みんな入った途端、驚きの声を上げた。
『あ――っ!?』
みんな驚きのあまり呆然としていたが、レベッカさんはいち早く落ち着いたのか。
「ちょっと、カザマ、何やってるの? また、何かやらかしたの? 何で、近衛兵や貴族の方々が、カザマの真似をしてるの?」
俺の方に向かって歩きながら、赤い瞳を細め眉を顰める。
カトレアさんは美しい相貌を引き攣らせると、レベッカさんの気が動転したと思ったのか。
「レベッカさん、落ち着いて頂戴。国王の前ですよ……」
小声ながらそわそわしている様子が、必死だと伝わってる。
ビアンカは俺と同じ体勢をしている周りの人たちを眺めていたが、
「あーっ!? 『DC』のおじさんっすよ!」
王さまを指さして、とんでもない言葉を口走った。
ビアンカの言葉を聞いてリヴァイ以外は、周囲の空気が止まるかの様に身体を硬直させる。
王さまは微笑を浮かべ口を開く。
「ふむ、DCとは……何だ?」
「あっ!? そ、それは……少し、失礼してもよろしいでしょうか?」
俺は王さまの返事を待たず、後ろに向かって歩き出す。
隣にいたモーガン先生はビアンカの言葉を聞いて、余程驚いたのか硬直して身体だけでなく表情も固まったままである。
「ビ、ビアンカ、俺と一緒にドゲザして謝るぞ。きっと大丈夫だから……」
「ち、ちょっと、カザマ、待つっす! なんっすか? 突然……」
俺はビアンカの頭を押さえつけて、俺と一緒にドゲザさせた。
「ス、スミマセンでした! あ、後から言って聞かせますので……!? 先程、褒美と言われましたが、ビアンカの先程の言葉をなかったことにして頂けませんか?」
先程から周りの人たちは動きを止めたままである。
その様子が余計気になったのか、王さまは再び口を開く。
「ふむ、少し落ち着け……先程、DCとは何だと聞いたのだ」
「ヒィイイイイイイ――っ!? ディ、ディーシーとは、ドータコンの略でして……」
俺はどの様に答えたら良いのか困惑して口篭ってしまったが、
「おい、カザマ、俺が教えただろう。もう忘れたのか? シスコンやブラコン、マザコンがあるのなら、ドータコンがあっても可笑しくないだろう」
空気だけは読めると思っていたリヴァイが言ってはならないことを口走った。
俺は呆然として、ドゲザをしたまま王さまの顔を見つめたが。
「ふむ、レベッカはカザマの国に行ったことがなかったか? 私もその言葉は初めて聞いたが、確かにそうだな……わはははははははははは……」
王さまはレベッカさんに俺の国の事を話すと、言葉の意味を理解したのか大声で笑い出す。
レベッカさんはリヴァイの言葉を聞いて身体を震わせていたが、王さまに声を掛けられて首を傾げている。
俺は、どうして王さまが俺の国の事を知っているのか訝しさを覚えたが、
「えっ!? お、俺の国……!? お、王さま? お、怒ってないのですか……」
それよりも怒っているか、どうか気になり身体を震わせた。
だが、王さまは俺の言葉を聞き流したかの様に、リヴァイに顔を向ける。
「そこのお前は、リヴァイと名付けられたのだったな? お前も名前を付けられて、やっとハクが付いた様だが……面白いことを言うな」
王さまは寛大な態度で、子供のリヴァイに温かい言葉を掛けてくれた。
「おい、お前、俺が配慮しているのに随分態度が大きくないか? だがお前の娘は、俺の話を聞いて理解出来ずに怒ったが、お前は理解出来るだけの知識はある様だな……」
しかし、リヴァイは両腕を組んで胸を張り突っ立ったまま、いつも通り尊大な態度を示す。
「はっ!? ち、ちょっと、何言ってんだよ! アンタは大概にしてくれよ! これ以上、話をややこしくしないでくれ!」
俺は驚愕し、生きた心地がしない思いに身体を震わせ、リヴァイを叱り付けた。
「ふむ、カザマは落ち着けと言っているのに、私の言葉が理解できないのか? お前はモーガン殿から現在は魔導師クラス……近い将来、賢者クラスの魔法使いになると聞いていたのだが……」
王さまは先程から、俺に対して寛大である。
しかも、いつも酷い扱いばかり受けている俺の事を凄く認めてくれているようであるが、手の掛かる仲間たちのせいで台無しになりそうだ。
それでも王さまの話を聞いて、普段俺の様子を見ていないモーガン先生が、俺のことを高く評価してくれているのが分かり嬉しかった。
「いえ、俺はまだ修行中でたいしたことはありません。それより、先程失礼なことを言った仲間たちのことを許してくれるのですか?」
「ふむ、何を言っている。私は初めから怒ってはいない。お前は知っているだろう。私が怒れば、周囲がどの様な状態になるか……お前たちは、しばらく席を外せ」
俺は自分のことよりもビアンカとリヴァイのことを心配したが、王さまは気分を悪くするどころか、部屋にいる側近だろう衛兵や貴族たちを退出させてしまう――。
王さまは衛兵や貴族の人たちが退出すると、順番に褒賞を与える。
「邪魔な奴らがいなくなったが、先程から話が進んでなかったな……。カザマは保留にして、他の者たちに褒賞を与えよう。まずは、オルコット家はこれまで伯爵の爵位であったが、侯爵とする。これはカトレア殿が、カザマの指導や村の子供たちの教育を進めた功績が大きい。――モーガン殿は賢者のため正式な爵位はないが、これまでの男爵扱いから伯爵扱いとする。――エリカ殿はグラッドに次ぐ冒険者とのしての功績により、グラッドと同じく『カヴァリエーレ』とする。――他の者たちも、村の周辺やボルーノの街での功績に感謝する」
名前を呼ばれるとみんな返事をして、無事に表彰が終わった。
(カトレアさんの家は何となく分かるが、モーガン先生が貴族と同等扱いとは知らなかった。それよりも、グラッドがイギリスのナイトやフランスのシュヴァリエと同等のカヴァリエーレだとは驚きだ。今度酒場で冷やしてやるか……エリカもグラッドと同じということは、俺だけ庶民か……)
俺は王さまの話を感慨深く感じて、目を閉じて頷いていた。
「さて、褒賞を与えるだけでは、他の者たちに悪いので……今晩は、宮殿で夕食を馳走したい。夕食後も宮殿でゆっくり過ごすが良い。それでは、夕食を楽しみにしている」
王さまの話が終わり、俺たちは国王の間を後にする。
――夕食。
夕食では大きなテーブルに案内されて、順番にご馳走が運ばれてきた。
ビアンカとアウラは豪奢の部屋とご馳走に緊張しているのか俯き、食事に手をつけずに固まっている。
俺も緊張していたが、王さまがレベッカさんに叱られながら豪快に食べ始めると、場が和みビアンカとアウラも食事を始めた。
「いつも、こんな感じではないから……」
レベッカさんは恥かしそうにしていたが、王さまの配慮であろう。
ビアンカは夢中になって食べているが、アウラも幸せそうに笑みを浮かべ食べている。
エリカは日本で食べた料理と比較してか、料理評論家の様にみんなに語っている。
俺は、アリーシャがカトレアさんの様に落ち着き、テーブルマナーを当たり前の様にこなす姿が印象に残った。
他のみんなが、自由過ぎることもあったが……。
夕食が終わると、それぞれの部屋に戻った。
――宮殿の部屋。
俺は宮殿の大きなお風呂に入った後、部屋でくつろいでいた。
これまで従者用の部屋だったが、王宮らしい立派な広い部屋を借りている。
お風呂も王さまの専用なのか、日本の銭湯を豪奢にした様な作りだった。
今はビアンカのズボンとワンピースの尻尾の部分を加工している。
コテツとリヴァイは大きなベッドの上で横になっていた。
「コテツは、ビアンカとリヴァイが失礼なことを言った時、王さまが怒っていないと気づいていたのですか?」
「うむ、今更だが、あの男が言ったであろう。怒っていたら負のオーラを発していただろう。お前は実際に戦って怒らせたのだから分かるだろう。つまらん事に気をとらわれず、余計な事を言わない様に気をつけろ」
「おい、カザマ、コテツの言う通りだ。お前は本当に余計な事ばかり言って、情緒不安定にも程があるぞ。もっと落ち着けよ」
俺はみんなことを心配して行動したのに……またもコテツは、俺がアウラを叱る様な厳しい突っ込みを口にした。
リヴァイは俺に心配を掛けておいて、いつも通り失礼なことを言っている。
俺はイラっとしたが、周りに気を使い過ぎて怒る気力がなかった――。
部屋の扉を叩く音とレベッカさんの声が聞こえる。
「カザマ、ちょっと良いかしら?」
俺はレベッカさんを部屋に通して、用件を尋ねる。
「どうしたんですか? DCの事で、まだ怒っているのですか?」
「そ、それはお父さんから教えてもらったけど、恥かしいから言わないで! 確かにお父さんはその通りだと思うけど、分かるでしょう?」
「は、はい……俺も同じ立場なら、恥かしいです……」
俺は顔を赤く染めているレベッカさんに同情する。
「そ、その話じゃなくて……お父さんが、カザマに話があると言ってるの。一緒にお父さんの部屋に来て頂戴。それから、コテツと口の悪い子供も同席して良いみたいよ」
「おい、ドータコンの娘。口が悪いのはお前の方だろう! 俺が配慮してやってるのに、分からないのか」
「レ、レベッカさん……」
俺はレベッカさんとリヴァイが、また言い争いをし始めたのを見て声を掛けた。
「キャっ!? な、何、いきなり……」
そっとレベッカさんの耳元で、話をするつもりだったが。
レベッカさんは何を勘違いしたのか、両手で頬を押さえて恥らっている。
「ち、違います! ちょっと、内緒話をしようとしただけです!」
「そ、そうなの……カザマが、アウラにキスしようとしたのを思い出して……」
「ち、違いますよ! そ、それより、耳を貸して下さい……」
「わ、分かったわ……」
レベッカさんは誤解したままだったのか、顔を赤くしたまま俺の方に耳を傾けた。
リヴァイだけでなく、コテツも首を傾げ俺の様子を見つめる。
「レベッカさん、コテツは空気も読めて頭も良いみたいですが、リヴァイは空気は読めても……見た目通り頭は良くないみたいです。もう少し子供と接するように、大人の対応をして欲しいのですが……」
「ああ、そう……うん、確かにそうね。分かったわ」
レベッカさんは分かってくれたのか頷き、返事をしてくれた。
「おい、お前、聞えてるぞ。俺は頭が良くないのか?」
「えっ!? 何のことですか?」
内緒話のつもりが、これだけ目立っていては内緒にならないと気づく。
しかもコテツとリヴァイは、ヘーベと同じくらい俺の考えが分かるのを忘れていた。
俺はそれでもシラを切るが、リヴァイが意外にもこれ以上何も言わない事に訝しさを覚えた――。




