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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十二章 アルヌス山脈
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4.久々の教会(依頼)

 しばらくして、玄関の方から元気な声が聞こえてきた。

 「おはようございます!」

 「カザマは、今、反省中ですよ……」

 レベッカさんが来たみたいだが、玄関の方でヘーベの声が聞こえる。

 (俺の目と耳が優れているのを忘れているのか? それとも、知っていて分かる様に話しているのか……)

 大分落ち着きを取り戻し、声に出さず呟いていると礼拝堂の扉が開いた。

 久々にレベッカさんを見たが、目尻を吊り上げ凄い剣幕で近づいてくる。

 「カザマ、良くも一ヶ月近く、私の前からいなくなったわね! この前、マメに顔を出す様にと……それから報奨金を受け取りに来る様にと言ったわよね! もしかして、私の気のせいだったかしら?」

 落ち着き掛けていた俺の心は再び折れ、ドゲザをしたままレベッカさんに謝った。

 「ご、ごめんなさい。色々あって忘れてました……」

 「今回はヘーベさんから懺悔をしていたと聞いたから、このくらいで止めておくわ……でも、次からは本当に頼むわよ!」

 「はい、気をつけます……」

 レベッカさんが俺の前まで歩いてくると、俯いている俺の肩を叩く。

 先程までの厳しい表情から、いつもの明るい笑顔に変わっている。

 そして、報奨金の入った袋を渡してくれたが、今回も五十万ゴールド入っていた――。


 ヘーベは、一通り俺とレベッカさんのやり取りを見届けると、

 「さて、レベッカさんとの話が落ち着いたところで、カザマに最後の宝石の場所を伝えるわ」

 さらりと新たなクエストを告げた。

 「えっ!? もう分かっているのですか?」

 幾ら何でも早過ぎると思ったが、ヘーベに会ったのは一ヶ月ぶりくらいである。

 残りの在り処を調べていても不自然ではない。

 「それで最後の一つはどこにあるのですか?」

 「それは……アルヌス山脈のドラゴンが持っているわ」

 冷静を装っていた俺の相貌は、ヘーベの言葉で驚愕に変わる。

 「はあっ? はああああああああああああああ――っ!? そ、そんなの、どうやって取り戻せと! 俺に死ねと言っているんですか!」

 俺は興奮して立ち上がると、両手を振って激しく抗議した。

 ヘーベは取り乱す俺を静かに見つめていたが、

 「カザマ、落ち着いて! アルヌス山脈のドラゴンは強大な力を持っているけど、非常に高い知性もあるわ。きっと、カザマが一生懸命説明すれば分かってくれると思うの」

 口端を吊り上げ、悪戯っ娘の様な笑みを浮かべる。

 そして、そんな時だからであろうか。

 胸を張り腰に両手を添え、堂々とした佇まいをしている。

 俺は顔を真っ赤にして興奮し、思わずヘーベに対して、

 「ち、ちょっと、おまっ!? ヘーベさま……適当な事を言うのは止めて下さい……」

 『お前』と言いそうになり、力強く切り出した言葉が弱くなり、再び屈んで床に膝を着けた。

 以前の子供の姿の時は遠慮しなかった。

 だが、流石に自分より年上に見えるヘーベを相手に、そこまで強気になれない。

 ヘーベは俺の顔を見つめると、初めて会った時の人形の様に、表情が平坦に変わった。

 「今、私に対して、ぞんざいな表現で呼ぼうとしなかったかしら?」

 「いえ、決して、そんなことはありません……ヘーベが俺に対して、ぞんざいな扱いをしようとしているから、その様に聞えたのではないでしょうか?」

 俺は全身から汗を噴き出しながら、震える身体に鞭打って言葉を紡ぐ。

 「相変わらず口だけは良く回るわね……兎に角、決定事項よ! これからレベッカさんの案内で、ドラゴンの所に行ってもらいます!」

 ヘーベは俺を冷ややかな視線で見つめていたが、急に表情を引き締めると言葉にも力を込めた。

 俺はまさかと不意を衝かれ、すでに取り繕う余裕がない。

 「えっ!? これから……そんなに、急がなければいけないのですか? 何の準備もなしにですか? それに、どうして今回は、レベッカさんも一緒に付いて来るのですか? そんな、危険な所に……」

 ヘーベの突然の決定事項に戸惑ったが、レベッカさんが一緒というのが引っ掛かる。

 そんな俺の取り乱しように、ヘーベは熱く、俺に言い放つ。

 「きっと大丈夫よ! どうせ準備しても、大して変わらないわ! これで最後になるけど、頑張ったらお礼をするつもりよ! それではレベッカさん、よろしくお願いしますね」

 動揺している俺に対して、ヘーベは明るい口調で無責任としかいい様がない励ましをした。

 それでも、何故かレベッカさんに対しては、いつも通りのやり取りに見える。

 レベッカさんも黙って頷いた。

 俺はしばらく呆然としていたが、不意に気づいてしまう。

 「あっ!? 今、お礼と言いましたよね! 女神さまのお礼って……どんなものなのでしょうか?」

 「今までも、私の加護の力が増していた筈だけど……カザマは何か欲しいものや、私にして欲しいことがあるのかしら?」

 ヘーベは首を傾げて不思議そうな様子で俺を見つめていたが、急に何かを思い出したかの様に笑みを漏らした。

 そんな様子を下から眺めていた俺は口が開いて、頬が緩む。

 俺の顔の前には、二つの果実の様な美しい双丘が揺れている。

 「お、おっ……はっ!? 俺の頬にキスとか……」

 俺の視線が、自分の顔より下がっていることに気付いたヘーベの表情が険しくなり、俺は咄嗟に思ってもいないことを口にしてしまった。

 「そ、そう……カザマが、どうしてもというなら、いいわ……」

 俺はとんでもない事を口走ってしまったが、ヘーベは怒らない。

 寧ろ、乙女の様に恥じらって見える。

 俺はどうリアクションすれば良いか、困ってしまい頬を掻いた。

 先程から妙に静かなコテツが気になる。

 コテツに視線を送ると、何事もないかの様に床の上で眠っていた……。


 しばらくして、ドラゴン探検隊は出発する。

 「カザマ、出発するわよ! どうせ荷物は、身に着けているものだけでしょう?」

 俺とコテツ、付き添いのレベッカさんだけであるが……レベッカさんは、まるでピクニックに行く様な気楽さに見えた。

 レベッカさんの振る舞いに違和感を抱いたが、勢いに流されるまま教会の外に移動する。

 (レベッカさんは、これからドラゴンの所に行くのに怖くないのだろうか? もしかして、途中で俺だけになるのでは……コテツは見捨てないよな……)

 あまりに急な展開に俺は顔を引き攣らせて、時間を稼ごうとした。

 「あ、あのーっ……もう少し戦力が必要だと思うのですが……」

 「あらっ? カザマは危険な所に……女の子の友達を連れて行くつもりかしら? そんな男らしくない事は考えてないわよね?」

 レベッカさんは、笑顔で俺の意見を退ける。

 (そんな事を言われたら、何も言えないじゃないか……でも、確かにその通りだよな……)

 レベッカさんの言葉に渋々だが頷き、やっと気持ちが高まってきた。

 「やっとやる気になった様ですね。やっぱり、ご褒美が目当てなのかしら……。それでは我が従者、カザママサヨシに青春を!」

 ヘーベのご褒美が気になったが、既に定番になったセリフで見送られる。

 俺とコテツは、レベッカさんと一緒に厩舎の方に向かう――。


 俺とレベッカさんの後ろ姿が小さくなった頃、ヘーベの背後にはいつもの男が立っていた。

 「あいつは、いつも賑やかで楽しそうですね。でも、今回は大丈夫でしょうか……」

 「ええ、きっと大丈夫です。レベッカさんも付いてますから……」

 ヘーベの返事を聞いて、男は苦笑を浮かべた――。

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