↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十二章 アルヌス山脈
73/488

3.久々の教会(報告と懺悔)

 ――異世界生活二ヶ月と十二日目。

 周囲がまだ暗い夜明け前、いつもの様にビアンカの気配で目が覚めた。

 「おはようっす! コテツの兄ちゃんもおはようっす!」

 「うむ、私への挨拶はなくても良いから、次いでの様に……止めてくれんか。それから、兄ちゃんも……なくて良い」

 ビアンカに返事をしようすると、コテツは俺の返事を遮るかの様に不満を口にする。

 「ビアンカ、おはよう。挨拶は分けなくても、二人一緒に声を掛けてくれればいいぞ」

 「分かったっす! それじゃ、行くっすよ!」

 ビアンカは返事こそしっかりしたが、早く外に出ようとそわそわしている。

 頭の中は久々の狩りの事でいっぱいらしい。

 (久々で嬉しそうだな。エリカと一緒では、遠慮してストレスが溜まっていたのか? そういえば……モーガン先生が、昨晩話してたな……)

 久々にビアンカとの早朝の狩りを楽しんだが。

 コテツは身体を元の大きさに戻し、気配を消して付いて来てくれた。

 気配を消したのは狩りのためだが、不満はなさそうである。

 帰りは大きなイノシシをビアンカとふたりで担いで運んだ。

 初めの頃は必死だったが、今ではつい最近のことなのに懐かしい。

 自分の成長も感じて、良い気分転換になった。

 

 ――朝食。

 いつも通りというより、久しぶりのみんなとの朝食だ。

 しかし、食卓の雰囲気がぎこちない。

 アリーシャが、昨日の事を気にしている様子である。

 俺と話そうしないどころか、目を合わせようともしない。

 俺も何を話したら良いか分からず戸惑っていたが、他のみんなも同じ様な感じである。

 結局、アリーシャと話をしないまま、手短に朝食を終えた――。

 

 朝食後、カトレアさんの家に行き、久々にジャスティスに跨る。

 厩舎では、馬たちがコテツを見て怯えていたが、しばらくすると大人しくなった。

 コテツが、何か力を使ったのかもしれないが、気にしないことにする。

 ジャスティスに跨って走っている横を、並走しているコテツが唐突に訊ねてきた。

 「うむ、昨晩来客があってから気になっていたのだが、お前は気付いているのか?」

 ちなみに、コテツは村の外に出ると元の大きさに戻っている。

 俺は、コテツが何を言いたいのか分からずに首を傾げた。

 「アリーシャのことですか?」

 「うむ、大した話ではない……」

 コテツは何か言い掛けたが、途中から何も話さなくなった――。

 コテツは街の近くから、小さな姿に変わり俺の前に座る。

 街に入ると、久々にジャスティスを街の厩舎に預けた。

 ここでも厩舎の馬が怯えたが、しばらくすると大人しくなる。


 ――教会。

 教会の扉を開けようとして、ヘーベに会うのも久しぶりだと気づいた。

 (何だか、久々のせいか緊張するな……コテツを連れて来たが、どういう反応を示すだろうか……)

 そんなことを考えつつ、扉を開けて中に入る。

 そのままいつもの様に、何となく礼拝堂の方に足が向く。

 礼拝堂に入ると、祭壇の前で自身と同じ姿をした女神像を背景にヘーベが佇んでいる。

 「ああーっ、良く帰って来ましたね。我が従者カザマよ! アナタの活躍は聞いていますよ……さあ、取り戻した『憎』の宝石を私の胸のペンダントに嵌めて下さい」

 (久々に会ったけど、やっぱりこの人の綺麗さは別格だ。女神さまだけど……それより何が従者だよ……あれっ!? 前も同じ様に思ったよな……)

 色々と思い浮かび懐かしさを覚えたが、毎回同じことを考えている自分に呆れてしまう。

 それからヘーベに言われた様に、ペンダントに宝石を嵌めようと近づく。

 ヘーベの手前で屈み膝を床に着け、手を伸ばした。

 コテツは俺の後ろでお座りの姿勢で、大人しく見つめている。

 (以前はもっと起伏が小さくて、手が当たりそうでドキドキしたんだよな。今でもドキドキしてるけど……下から見上げると起伏が際立つな……)

 俺はゆっくりと『憎』の宝石をペンダントの窪みに嵌めた。

 ヘーベが眩しく輝き、両目を閉じる――。


 ゆっくり目を開けると、ヘーベが更に成長していた。

 身長は多少伸び、体型は起伏が目立つというより、身体のラインがより美しく感じた。

 年齢は俺より少し年上くらいか、カトレアさんと同じくらいだろうか。

 それよりも益々輝きを増した美しさに、驚愕させられる。

 「あのーっ……以前にも聞きましたが……まだ、成長されるのですか?」

 更に成長したヘーベに、戸惑いを覚えつつ尋ねた。

 「いえ、身体の成長は、然程変わりないと思いますよ。残りは後一つですから……うふふふふ……」

 ヘーベは大人の余裕を思わせる微笑を湛えている。

 

 しばらく呆然とヘーベを見つめていたが、

 「……はっ!? そうだ! まずは紹介します。エルフの集落の迷いの森で、俺が召還した白虎のコテツです。これから助けてくれることになりました。リヴァイのことも話しましたが、コテツは俺と対等な契約をしてくれました」

 慌ててコテツの事をヘーベに紹介した。

 コテツは俺の緊張を余所に落ち着いている。

 「うむ、初めまして……で良いのか」

 俺の紹介に対してコテツは謙る訳でもなく、無難に挨拶している様子だ。

 「はい、初めまして。我が従者がお世話になっています。カザマと対等な契約ということは、私とは……」

 それに対してヘーベは、悪戯っ娘の様な笑みを浮かべ、本当に悪戯っぽい言葉を発する。

 コテツは牙を剥き出しにして、ヘーベの話を途中で遮ると、

 「うむ、貴様の縄張りの立ち入りに関しては、貴様の従者との契約で十分な筈だ。それから、私は貴様に対して特別な感情はない」

 自らの意思をはっきり告げた。

 コテツの険しい表情にヘーベは微笑を湛えている。

 「はい、それで十分ですよ。私もコテツと呼んで良いかしら?」

 「うむ、では、私も貴様のことをヘーベと呼ぶことにしよう」

 ヘーベの子供っぽい挑発に、コテツは表情を緩め大人の対応を見せた。

 それには、ヘーベも満足そうに見える。

 俺はお互い良好な関係を築けそうだと安堵した。

 だが、気を抜いた俺に、ヘーベは矛先を変える。

 「コテツは、カザマと対等の契約をしたそうですが、カザマと違ってはっきりしてますね。私の従者は六にんの女性に色目を使って、はっきりさせていない様子ですが……」

 「うむ、私もそのヘタレっぷりな様子が、気になっていたのだが……」

 ヘーベの言葉にコテツまでも、急に仲が良くなったかのように乗っかった。

 そのやり取りを聞いて戸惑いつつも、慌てて声を上げる。

 「ち、ちょっと待って下さい! ふたりが仲良くなってくれるのは嬉しいです! でも、俺の悪口で盛り上がるのは、止めて貰えませんか!」

 (全くいつもいつも…!? 六にんって言ったよな。エリカとカトレアさんとアウラの三にんだけの筈だが……)

 俺が首を傾げていると、更にふたりは話を続けた。

 「私はカザマの悪口は言ってませんよ。私がそんな事を言う訳がないではありませんか。ただ、本当の事を言っているだけですよ」

 「うむ、私も少し気になっていたので……」

 ヘーベもコテツも、決して冗談で話している訳ではなさそうだ。

 俺はこの機会にと、今まで胸に秘めていた思いを伝える事にした。

 「えーっ……そこまで言われるのでしたら……女神さまの前なので、はっきり言います! 俺は、結婚はしたいと思います。ただ今は、その時期ではないと考えています。良いですか? これから俺の世界の常識の話をしますよ。――男一人に、残りが女の子の仲良しグループという設定に対して、ですね……男は、その中の特定の誰かに対し、恋愛するのはタブーとされているのです! 何故なら、それによって選ばれた方の遠慮や、選ばれなかった方の嫉妬で、ギクシャクした関係に変わるのです。それ故に、恋愛を行う時は覚悟を決める必要があるのです。俺は今まで、親しい友人がいませんでした! 初めて出来た友人たちです! せめて、もうしばらくの間、恋愛でなくて友情を大切にさせて下さい……」

 昂る自分の思いを熱く語ると、ヘーベの前で膝を着いたまま頭を下げる。


 しばらく真剣な表情で俺を見つめていたヘーベが口を開いた。

 「カザマの気持ちは分かりました。友情も、また青春ですからね……」

 ヘーベは少し潤んだ瞳で、優しい笑みを浮かべる。

 「わ、分かってくれましたか!」

 俺は破顔したが、ヘーベは首を横に振った。

 「はい……但し、私はカザマの気持ちだけを尊重することは出来ません。あなたの友人たちの思いもありますよね……カザマは何度か、十八歳の誕生日と言ってましたね? その時までに、友人たちの気持ちに応えてあげて下さい。友人思いのカザマですから、女性の婚期を考えると……分かりますよね?」

 俺の喜びの笑顔は、すぐに霧散する。

 ヘーベは優しくもあり、厳しい口調で俺を問い質したのだ。

 「はい、分かりました。今まで自分本意過ぎたかもしれません。自分だけでなく、みんなのためと思っていましたが……決して、それだけが正しい訳ではないのですね……人それぞれに、幸せの形はあるのですね……」

 もしかして今度こそ、初めてヘーベに対し、女神さまらしく接しているのかもしれない。

 膝を床に着けた状態で、尊敬の眼差しをヘーベに送る――。


 俺の眼差しを受け佇んでいたヘーベは、優しい笑みから口端を吊り上げた。

 「さて、この話はひとまず良いですかね……」

 ヘーベは先程までの女神さまらしい微笑みから、悪戯っ娘の様な笑みに変わっている。

 俺は嫌な予感に襲われ、全身から汗が噴き出た。

 「えーっ……オーガの侵攻に対しての報告があります!」

 俺は何とか話題を変えようとオーガの件を皮切りに、これまでの経緯をすべてヘーベに説明し始める――。

 ヘーベは瞳を潤ませると、溜息を吐く様な落胆した声で答えた。

 「なる程……また他所の国から、ちょっかいを受けましたか……」

 その様子に、俺は即座に反応し、嫌な予感も忘れて、ヘーベに少しでも明るい話題を提供しようと考える。

 「オーガの集落での冷蔵庫作りは、今日か明日中に行きたいと考えています」

 「まあ、それは素晴らしいですね。カザマのお陰で、この国の北エリアの生活が豊かになっています。その内、ギルドからだけでなく、国からも何かしらの褒賞があるかもしれませんね……」

 俺は、決して見返りが欲しかった訳ではない。

 「えっ? 国からですか……」

 「そうです……ですが、その前に、大事なことを済ませておかなければなりません」

 ヘーベの表情から笑みが消えていき、真っ直ぐ俺を見つめていた視線を、俺の目の前に落とした。

 浮かれていた俺の表情は、瞬く間に戦慄に歪む。

 ヘーベの言いたいことを理解した俺は、ゆっくりともう片方の膝も床に着けて正座をした。

 「……コホン。では初めに……私の誕生日プレゼントは、そんなに不満だったのでしょうか? あなたは、私に何の相談もなく逃げましたよね? 今回はゴブリンとオークの集落での技術支援と、子供たちに学問を教えた功績で不問としますが……。それから、ウェアウルフの娘に対して、格好良い振る舞いでしたね……。何か色々と言ってましたが、確か……『俺は毎日、お前と修行をしていたんだぞ!』とか……『そもそも攻撃の時、冷静になれと言ったのはビアンカだろう!』……それから『そんな鈍らじゃなくて、いつもの切れのある攻撃をしてこい!』だったかしら。はーっ……次は、エルフの娘に対するセクハラですね。頬を突いた挙句、頬にキスを……」

 「イヤ――っ!! も、もう止めて下さい!! ごめんなさい! ごめんなさい……」

 俺は次々とヘーベの口から、俺が行ったことやセリフを暴露されて耐えられなくなる。

 ヘーベが話しを続ける途中で発狂して、謝り続けた。

 「ほ、本当は、今度こそビンタのひとつもと……私の従者として恥かしいわ……ま、まあ、今回も、このまましばらく反省してもらいましょうか……」

 ヘーベはそう言うと、コテツを連れて礼拝堂を後にする。

 また、いつも通り俺だけ取り残された――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。