表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/48

第六話 流動の時間

急報に慌てはしたけども、やる事も時間がないのも変わらなかったので、隊員たちには行動を開始してもらった。部屋には詳細を聞くためにフェルダナ男爵だけが残っている。


「で、ナズラの軍が進行してきてるって本当?」


「はい。なんせ偵察してのは僕の鳥ですから、この眼で確かめました」


 フェルダナ男爵の『憑依のギフト』は一度目こそ直接触れていないと無理だが、一度と取り憑いた動物なら、その距離が離れていようと、再び乗り移ることが出来る。それを利用して各方面に密偵としての、鳥達を住まわせているようだ。

 ごく稀にだが、情報収集部隊としてではなく、騎士としての任務として偵察任務に当たることがある。隣国の進軍ほどの重要任務なら、その情報を確かめるために、国中から密偵や偵察部隊が放たれたのだろう。


「国王暗殺事件から日が変わらない内に、隣国が攻めてくる……か……。そのナズラって国は強いのか?」


「十五年前に戦争になったことがあります。相手側からの侵攻で、何箇所かの村が襲われました。しかし、はっきり言いまして、ブロニアスの敵ではありませんでした。騎士団の錬度の差が歴然でしたので、終戦までに一月とかかりませんでし、おそらくその差が埋まっていることはないでしょう」


「つまり相手にならないほどの差があるのか。けど騎士団がこの街に集まっている今なら、それなりの成果が見込めるんじゃないか?」


「国境付近には、戦争専門の騎士団である『黒斧の騎士団』が駐在しています。彼らを瞬時に攻略できるような部隊は世界中を探しても存在しないでしょう。なんせ十五年前の戦役では七千からの軍の足止めを、近くに居たたった五百名で行い、結局大きな街が荒されることがありませんでしたから」


「なんだよその化け物集団は」


「バイアス公爵と同じ騎士団特別顧問のコーリン・マッケニアス氏は元はそこの団長だったんですけど、なんとギフトを軍略に組み込むという新しい戦法を導入しまして。その戦法は当代一と言われていますね」


「なら国王暗殺の依頼主は、ナズラ国では無さそうだな」


「なぜでしょう? タイミングから見ればあまりに良すぎると思いますが」


「いや、だって暗殺失敗してるじゃないか。もしあそこで王様や国賓なんかをしとめているのなら、混乱に乗じて侵攻すれば効果的だったかもしれないけど、結局誰も死ななかった。なら勝ち目の無い戦を態々するとも思えないし、やるなら改めて何かをやってからにするだろ」


「……確かに言われてみれば、侵攻の旨みは少ないですね。以前の戦乱の影響で、あそこと隣接する国境付近には黒斧の本隊が配備されていますし、人数も以前の三倍はいるはずです。七千で真正面から立ち向かっても、接戦どころか敗走すらしかねません」


「依頼主と繋がりがあるだろうけど……まあここから先は資料がそろってからだな。フェルダナ男爵はなるべく街中を見回っといてくれ、動きがあるところをとりあえず見といてくれればいいから」


「了解です」







 資料集めを開始して半日が経過し、日が昇りきったところで、再び会議室へと集合してもらった。


「まず資料の判別をする前に、今朝までにあった大きな動きがあったと情報ギルドから伝達が来ていますので、この場で報告させてもらいます」


 アリーゼちゃんが、資料片手に全員に報告を開始する。


「まずは隣国のナズラ国軍は国境を越える少し前の所で、布陣したままの状態となっております。抗議と共に真意を確かめる使者は出されましたが、まだ返答はないそうです。次に国内で三件の殺人がありました」


「それは今回の件に関係あるのか?」


「それが三人とも式典の舞台設置に関わった人物でして、犯行の協力者として上げられてたんですが、殺されてしまった為に口封じでは無いかと疑惑が深まっています。その影響で、舞台設置の責任者だった、ウェレス公爵に非難の声が寄せられています」


 三大公爵の一人で、確か国営に携わる人物としては最高年齢の人だったか。


「さらに一般市民の間では、今回の犯人は第一王子ではないかという噂が少ないですが流れ始めています」


「は? なんでだよ」


「王子は式典の前日になって諸事情により、街から離れておりまして、跡継ぎ問題が動機じゃないかって憶測ですね」


 王族の跡継ぎ問題できな臭い話があるのは分からなくもないけど。そんな疑問を浮かべているとフェルダナ男爵が、声を上げた。


「それはありえないでしょう。そもそも第一王子は現役の『蒼剣の騎士団』の騎士団長で、王様になるのは嫌がってるという話ですよ? 財務大臣である第二王子、外交大臣である第三王子のほうが、王様に向いていると公言するような人がする事ではないでしょう」


「噂だから仕方ないと言いたいけど、早く流れるにしては信憑性の無い話だな……」


「もしかして人為的な噂でしょうか……」


「有り得るな。情報ギルドに頼んで、噂の否定をして回ってもらうか。ほっといても混乱を招くだけだし、遺恨を残す場合もありえる」


「他国の国賓の方々は、今だお城の中に滞在中ですが、『蒼剣の騎士団』が帰り次第に、それぞれの国へと護送する予定のようです」


「他国の騎士団も来てますが、せめて国境を越えるまでは、我が国の責任問題になりかねませんからね」


 めんどくさい事が目白押しだな。大事件の影響で混乱するのも分かるが、あちらこちらで火の手が上がりすぎだろ。せめて犯人に関する続報の一つでも出れば、少しは納まるんだけどなー。


「よし! じゃあ早速資料から容疑者を選出していく。犯人というよりも関係していたかもしれない人物も書き出していって欲しい。とりあえず全員掛かりで夕方まで頑張りますか」


 机に山のように置かれた資料を、俺含め隊員すべてが手に取り目を通していった。







「あー目がしばしばする」


「おつかれさまです」


 フェルダナ男爵が、夕方まで資料を漁っていた俺に紅茶をだしてくれる。嬉しいけど、普通そこはアリーゼちゃんの役所じゃないの? 確かに紅茶を淹れるのはめちゃくちゃ旨いけどさ。


「過去二年間のルドラ関連が十一件。そこから疑わしき者でそれなりの財力を有している者が、百三十八名か。一件の事件につき、だいたい十二名ほどなんだけど……多いなぁ」


 関係していたかも、なんて範囲で候補に上げていくと、それこそ金持ちと呼ばれる人がづらっと並んでしまった。その中にはジーニーさんや、位の高い貴族の名前だってある。


「疑わしい順に絞込みをかけますけど……それには時間がいりますね」


「どれぐらいかかりそう?」


「詳細にやるなら……五日は必要ですね」


 うーむ仕方ないか……そもそも特定が困難だと放置していた案件だし、これはここが限界だな。


「じゃあここはフェルダナ男爵に任せます」


「どこかにいかれるんですか?」


「もしもの備えをするためと、一旦家の様子を見に行ってきます。犯人から目をつけられてるかもしれないんで」


「わかりました。緊急で何かありましたら連絡しますね」


「お願いします」


 なんだか仕事を増やすだけ増やして、俺だけ抜けるのは心苦しいけど、資料を纏めたりする戦力にあまりならないしな。やれるだけの事をやっとかないと、今回は凄惨な結果が待ち受けているかもしれない。







 不安な気持ちで自宅にたどり着いたが、どうやら何事も無かったようで、一旦安心できた。すこし安らいだ気持ちで、晩飯をみんなと一緒に食べることができた。

 みんなが寝静まってから、マイアとトウカに事件の経過を説明した。トウカにはヒーロー活動については説明してあり、ややこしい事件の時のアドバイザーとして手伝ってもらっている。


「――――というわけで特にめぼしい情報がないまま、状況はこんがらがっていくばかりだ。そういや傷の具合はもういいのかマイア」


「うむ、ミミルに一日付きっ切りで治癒してもらって、すでに完治済みじゃ。しかしボーゼは容態は安定したがしばらくは無理じゃの。人の治癒術では精霊の傷は癒せぬ。最上位のものなら効いたかもしれんが、無いものねだりじゃしの」


「私達のも危険が及ぶでしょうか?」


「予想でしかないけど、今のとこは大丈夫だと思う。事件が終結した後になるまでは、こちらに手を出すことは無いはずだ」


「まだ、なにかあるんでしょうか……」


「ある。それは間違いなく確実だ。あいつらの最終目標がどこを目指しているのかは分からないが、禄でもないものになるだろうね」


「そうだ、キドーよ。妾の肩の傷についても一つ忠告というか、問題点があるぞい」


 マイアが傷を受けた右肩をさすりながら、少し悩んだようなに話し出した。


「あの攻撃の、全く見えなんだのだ。道具を飛ばしたわけでもないというのに、妾の龍眼には何も映らなかったのじゃ」


「不可視の攻撃……それもギフトの力なんだろうか?」


「十中八九妾もそうだと思うぞ。そして、あのボーゼに傷を負わせた男の、不可解な力もそうなのだろう。両人ともかなりのギフト使いであるだろうな。恐ろしい話じゃが、あの巨体の男もギフトを使えるかもしれん」


「切れない物を斬り、見えたはずの物を消す力。さらに隠し札が伏せてある場合まであるのか…………」


 難敵だという覚悟はあったが、今までの敵とは脅威の次元が違う。







 それから二日、事件発生から三日後までは何事も無いままに時間が過ぎていった。そして四日目の夜に、ついに大きく事件が動こうとしていた。自宅にフェルダナ男爵の憑依した鳥が急報を知らせに訪れ、俺とマイアはフクロウ本部へと急いだ。


「騎士団がやつらの潜伏場所を突き止めたらしいです。今、封鎖網を敷いて、もうすぐ『紅玉の騎士団』が突撃を慣行すると思います」


「場所は?」


「南東の倉庫通りの方だとしかわかりませんね」


「…………」


 妙だな。そこは真っ先に逃走経路から疑いがかかった場所あたりで、最初に調べられた範囲のはずなのに、今更見つかるのか? そもそもあの食わせ者達が、根城を見つけさすなんて真似をするだろうか……。もしも見つかるとしても、向こうから動き出した時だと予測していたんだけど……ふむ…………。


「俺達も現場に入れないでしょうか?」


「え!? 行くんですか? 今回は騎士団の主力級が行くわけですし、元より実力行使はお任せする予定だったのでは?」


「明確な理由はないんだけど、騎士団がと聞いても悪い予感が拭えないんだよ」


「……わかりました。紅玉の騎士団はバイアス公の古巣ですから、名前を使う許可さえ貰えればなんとかなると思います」


「助かるよフェルダナ男爵」


「いいかげん付き合いも長くなってまいりましたし、フェズと読んでくれて結構ですよ」


 嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。


「……ありがとう、フェズさん」







 急いで公爵に許可を得て現場に向かいはしたものの、すでに現場は包囲が完了し、突撃を慣行する直前だった。


「そばに付き添うための交渉はできなさそうだな……フェズさん。何か飛ばして様子を見てくれますか?」


 俺の隣でフェルダナ男爵が頷いて、懐に忍ばしていた鼠を取り出した。


「勝手に入っていってしまえばいいではないか。これは雪辱の好機じゃぞ!」


「いやいや、俺らはあくまで裏方だし、目的は悪の成敗なんだから、それを騎士団がやるんだったら別に直接手を下さなくてもいいから」


 現に今まで物的証拠までを入手した犯罪に関しては、警備隊に任せた事件はいくつもある。それに俺とマイアは一応公認とはいえ、非合法な活動をしているわけなんであまり騎士団とかち合いたくわない。もちろんこの場にもいつものヒーロー衣装で来てますし。


「それは……そうなのじゃが……面倒くさいものじゃのぉ」


 せっかくの雪辱のチャンスではあったので残念そうに落ち込むマイアだが、ここは堪えてもらう。


「……もう踏み込むみたいですよ」


「では失礼して『ジョイント』」


「仕方あるまいか……『ジョイント』」


 フェズさんの視覚と聴覚を共有し、現場の状況を見守ることにしよう。願うことなら、騎士団が無事に捕縛してほしいところなんだが……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ