四十九話「新しい家族」
エリスティア・オッペンハイム──十九歳の春。私は、男女の双子を出産した。双生児は難産になると産婆に注意されていたので、森林に拠点を移した聖女セラフィナに頼んで付き添ってもらった。母体と胎児に治癒を施してもらっていたおかげで、なんとか耐えられた。
生まれたばかりの赤子を二人同時に抱いた王太子は、感極まったのかぽろぽろと涙を流して喜んだ。結婚してからの彼は、喜怒哀楽を私にもわかりやすく表現してくれるようになった。
産婆によって先に取り出された、漆黒の髪に菫色の瞳をした女児を姉とし、次に出てきたピンクゴールドの髪に、菫色の瞳をした男児を弟とした。どちらも、目鼻立ちすっきりとした可愛らしい容姿だ。
「女の子はアルディ、男の子は私が名前をつけるのは、どう?」
「うん。それでかまわないよ、ティア」
愛称で王太子のことを呼ぶと、王太子も愛称で呼んでくれた。
顔を見て決めようと話し合っていたので、そこまで悩むことはなかった。王太子は女児に『エレノア』と名づけ、私は『レイノール』と命名した。似合っているし、気に入っている。
念のためにと一週間も滞在してくれた聖女セラフィナは、もう心配はいらないと確信してから、意気揚々と帰って行った。土地の浄化や、今回のように急を要する場合は自ら出向き、それ以外は森林に訪ねてもらい、治癒する方法で現在は落ち着いている。彼女は、騎士をしていた無骨な大男と結ばれ、森林にて仲睦まじく暮らしている。母親と、二人の娘も一緒だ。
「エレノアもレイノールも、聖女の加護を受けながら生まれたから、きっと強い子に育つはずだ」
「そうだね。この子たちは、どの精霊に好かれるかな」
「水に選ばれるかもな。なにせ、親が水に好かれた僕とキミだから」
まだ生後一週間と気が早い話だが、どちらも菫色の瞳をしているので魔力については心配していない。たとえ契約できなくとも、出来る限り支えるつもりだ。
「水の調節なら、多少は教えてあげられるけど、でも双子だから、お互いが手本になって切磋琢磨するはず。私は必要ないかもね」
「そんなことはない。魔力は膨大でも、僕のように調節は苦手かもしれない」
「ふふ。そうかな?」
小さなベッドですやすやと、並んで眠っている双子の頬を突きながら、ああでもない、こうでもないと話しているこのひと時が楽しい。毎日、一時間くらいしか取れなくとも、この団欒が待ち遠しい。これが『愛おしい』ということなんだと、今ならわかる。気づくのがだいぶ遅くなってしまったけれどね。
普段は、ベテランの乳母三人が交代しながら面倒を見てくれるので、私は決められた時間に母乳を与えるだけだ。周囲が手厚くサポートしてくれる。
王太子は、公務や執務の合間に子ども部屋まで様子を見に来るし、なんと時折、早朝を狙ったジェフリー国王陛下も、王妃を連れて孫の顔を眺めているらしい。起こしてくれてもいいのに、私を呼びに行こうとする乳母を止めるのかまったく知らなかった。
「もう少し暖かくなったら、双子を連れて湖畔にでも行かないか? もちろん、乳母同伴で」
「いいよ。色んな所に行きたいね」
「ああ。アルベルトとエイミーや、四人の子どもたちにも会わせようか。きっと喜んでくれるだろうから」
「うん」
北方にある村で世話になってから、九年の歳月が過ぎようとしているが、現在も交流が続いている。村長の息子夫婦のもとには、長男、長女、次女、次男と四人の子宝に恵まれ、いつ会いに行っても賑やかだ。
あれから何度か水不足に陥ることはあったものの、せいぜい一週間程度と水魔法を要請されたことはない。
以前、王太子が私の義兄であるオーガストに指摘した、妹を村に留めるために風を使って雲を流していたのでは、という一言の信憑性が増してしまった。それでも、今となってはいい思い出だが。
王太子、十六歳の誕生日──当日。勘違いが原因で逃げてしまい、彼が悪夢に悩まされるほど睡眠不足に陥っているとは露知らず、申し訳なかったが、村で過ごしたあの二か月間はとても充実していた。毎日、色んな村民が声をかけてくれた。それは雨が降るようになってからも変わらなかった。有り難かった。
「あ、笑った」
「本当だ。私にはあまり感情がないから、私に似たらどうしようって心配していたけど、これなら平気かも」
生後間もないというのに、声をかけると双子はよく笑顔を見せた。王太子に似たのかもしれない。
「僕がいるから大丈夫だって」
「え? そうかな」
「うん。キミの考えなら正確に読めるから」
「ふうん。じゃあ、今の私はどう? 当ててみてよ」
そう問いかけると、王太子は私の顔をじーっと見つめた。至近距離から見つめられ、菫色の瞳から視線を逸らせない。ちょっとだけ恥ずかしい。それほど待たずになにか閃いたのか、王太子は口角を上げて目を細めた。
「そうだな……お腹が空いた、だろう?」
「…………」
本当に読めると思っていただけに、空腹を指摘されて呆気に取られてしまった。
「あれ、不正解か?」
「……正解だよ、アルディ。でも、もう昼時だから、お腹は誰でも減るよ?」
もともと私の食欲は人よりもある方だったけれど、妊娠中も、出産してからも、いつも以上に空腹を感じやすくなったので、身内なら誰でも気づくだろう。だから呆れてしまった。
「それでも、合っていただろう? ああ、そういえば、さっきエリーゼと遭遇したよ。大きな鍋に野菜のポタージュをたくさん作ったから、キミに伝えてほしい、と」
「それ、本当!? 無くなる前に行かなきゃ」
「早々には無くならないだろうけど、エリーゼの手料理は評判だから、双子は乳母に任せて行こうか」
いい匂いに釣られて、今頃、鍋の前には行列ができていても不思議ではない。にこにこ機嫌をよくしている双子を乳母に任せると、一階の食堂まで急いだ。
案の定、エリーゼの作った鍋の前にはすでに何名か並んでいた。私が並ぼうとすると、王太子に座っているように言われたので、お言葉に甘えて座って待つことにした。大きな丼にポタージュを二杯も運んでくれたので、私は思う存分堪能した。もちろん、それだけでは足りないので、また並んでもらった。たっぷり三回もおかわりした。
本日の夕方に50話投稿します。
よろしくお願いします。




