四十一話「証拠探し」
2026/05/05 19:15現在
旧題「呪い発動まであと数年。それなのに今生でも王太子は聖女に夢中……。ならば私は田舎でのんびり暮らします。アデュー!」
から改題しました!
私の指示で、変装したルシフェルが城に潜入してから早数日。恩人を探すために城で働くという、少々強引な設定だったが、見た目の整った十八歳の青年が新たに加われば、同世代や上の世代の異性からは可愛がられると言う狙い通りの展開になっていた。その分、同性からは妬まれるので匙加減が必要だが、真面目に労働しているので今のところは滞りなく遂行中だという。
前王妃に仕えていた当時の侍女は八人おり、ベッドメイキング・清掃に二人、メイク・衣装に二人、配膳は一人、身の回りの世話役は三人と、それぞれ担当が決められていたらしい。十年前に勤めていた人々なので、名前と出身地を調べ上げるのに相当苦労したようだけど、ルシフェルは情報を持ち帰ってくれた。それを知った王太子は、特別手当として金貨を一枚支給した。その様子を、エリーゼが羨ましそうに眺めていたので、エリーゼには私の懐から渡した。
「この八人の中に、裏切り者がいるのか……」
名前と出身地を記したメモを眺める。八人中、五人の出身地は、王都やその近郊の街だった。一軒一軒当たるのはそこまで大変ではないだろう。
前王妃の侍女を買収し、あまつさえ手酷く裏切らせたというのに、現在も近隣に住んでいるとは到底思えなかったが、あえて近くで見張っている可能性も捨てきれない。一応、事情を聞くだけ聞いて回ることにした。
「王都近郊に住む元侍女から当たりましょう」
「そうだね」
エリーゼとともに探っていると、近隣に住む五人のうち四人は『白』だと判断できた。私の身分を明かした上で前王妃について尋ねるなり、顔色を変えることなく熱心に語ってくれたからだ。
前王妃は、誰にでも気さくで別け隔てなかったこと、使用人の家族が病気だと知るや否や見舞金と休暇をくれたこと、歌が上手いこと、料理が好きてジンジャーブレッドが得意だったこと、大事に育てていた草花のこと、王太子の成長を楽しみにしていたこと、そして、お腹に宿る第二子のために、一針一針丁寧に刺繍していた乳児用の布団のこと──。
四人とも、嘘を言っているとはどうしても思えなかった。私の勘だ。
不義密通という濡れ衣を着せられた件については、誰一人として口にすることはなかったものの、前王妃の無念を晴らしてほしいという、元侍女らの想いは伝わった。
王都やその近郊が出身だという五人のうち一人は、王都から引っ越したらしく、家を訪ねても別の家族が住んでいた。越してきて八年か九年になるという。前に住んでいた住民について聞いても、当然ながら面識は一切ないと言っていた。
仕方がないので一旦保留にし、王都から離れている三人を探すことにした。こちらはオーガストに運んでもらうつもりだ。町でどうしても買いたいものがあるんだと相談すると、快く引き受けてくれた。王太子のためだと正直に伝えれば、いい顔はしないのでそこは解決するまで黙っているつもりだ。
その三人の実家では、嫁ぎ先を教えてもらった。元侍女と対面したが、前王妃を裏切ったようには到底思えなかった。よって私は『白』だと判定した。
「八年か、九年前に引っ越した人が、今のところ一番怪しいですね」
「私もそう思う」
「でも、どうやって調べますか?」
「王妃の侍女は、誰それ構わず気軽になれるわけではないから、隣近所にも聞いてみて手がかりがないか探ってみようか」
「そうですね」
今度は左右の家や裏、お向かいなど虱潰しにして、引っ越し先を知らないか尋ねて回った。すると、引っ越す直前にその家の母親が、『娘がとんでもないことを仕出かしたから、遠くへ越さなきゃならなくなった』と嘆いているのを聞いた人物が現れた。地名は言ってなかったが、当時の季節が冬を迎える前の十一月だったので、雪が早めに降る北ではなく、比較的暖かい南へ向かったのではないか、と言っていた。
進捗を王太子に報告しに行くと、そこから先は任せてほしいと言われた。どうやら伝手があるらしい。
それからさらに数日。ついに前王妃を裏切った元侍女の引っ越し先が明らかになった。王都から南に五十キロほど離れた街だという。
「アルディオン様。現地に行くのなら、私も一緒に行きたいです」
「どうしても?」
「どうしても!」
付き添ってもなんの役に立たないことは承知の上だ。魔力量は少ないし、水魔法しか使えない。転移魔法も使えない。でも、乗りかかった船だし、傍で見守りたかった。それだけだ。別に、南方で美味しいものを色々食べたいとか、物色したいとか食が目的ではない。断じて違う。神に誓ってもいい。
「……わかった。ここで反対しても、オッペンハイム卿にお願いしてまで追ってくるだろう? そんなことをされたら、僕としても面白くないし、たまったもんじゃないから連れて行く」
「ありがとうございます!」
「明日、朝に迎えにくるから、寝坊しないように」
ここ数日は、奇跡的に早起きすることにも慣れてきたが、明日も時間通りに起きられるとは限らない。
「寝坊しても、置いて行かないでくださいね」
「……キミの寝顔を見ても怒らないなら、置いて行かない」
「それはちょっと…………嫌だなァ」
置いて行かれたくはないが、引き換えに出された条件を耳にして微妙な気持ちになった。無防備な姿はなるべく他人に曝したくない。それは相手が王太子でも同じだ。いや、王太子だから余計に嫌かもしれない。
「……どうしてだ?」
「だって涎とか、鼾とか、寝相とか、色々と心配じゃないですか。幻滅する要素だらけですし。なにより恥ずかしいです」
「エリスティア。数年後には僕たちは結婚する。いずれは一緒に住むんだ。今からでも、慣れておくべきだとは思わないか?」
婚約破棄をしないということは、数年後に城で暮らすことになる、ということだ。そうなれば嫌というほど曝け出すことになる。王太子妃の寝室は、王太子の寝室と続きになっていると耳にしていた。見られ放題だ。
「……それもそうですね。勝手に幻滅しないならいいですよ」
「ヨシッ!」
「……よし?」
「なんでもない」
右手で握りこぶしを作り「ヨシ!」といきなり叫んだので、思わず聞き返したところ大人しくなった。
***
一夜明け、なんとか王太子が公爵邸まで迎えにくるよりも先に起床したので、寝顔を見られずに済んだ。エリーゼに頼んでおいて助かった。頑張った。王太子の表情は、心なしか残念そうに見えなくもないけれど、あまり考えないようにして出発した。
「あ、あそこの家ですね。誰が行きますか? 王太子だと顔が割れて……といっても、八年か九年経っているなら平気ですかね」
「念のため、髪と目の色は変えてから行く」
「そうですね。私もお揃いにしてください。兄妹という設定でいきましょう」
六歳差なので同じ色にすれば兄妹に見えるだろう。我ながらいい提案だと思ったのに、王太子は眉間にしわを寄せ、なんとも渋い顔をして見せた。
「……それは嫌だ」
「え?」
「キミは妹じゃない。僕の婚約者だ。たとえ潜入のためとはいえ、それだけは譲れない」
唇を尖らせてわかりやすく拗ねている。用心して兄妹を装うだけなのに、それでも納得できないらしい。
「…………面倒だなァ」
「聞こえてるぞ」
ついつい本音が漏れてしまった。兄妹が嫌だというならば仕方ない。
「ふむ。それなら黒髪にしてください。侍女の振りをしますから」
「公爵令嬢を……侍女扱いしろと?」
「ええ。ご主人様」
「……わ……悪くないな」
こんなに簡単で大丈夫かな、と心配になりつつも、王太子は金髪碧眼、私は黒髪に変装した。方法は少々複雑で、水魔法に色をつけてまとわせているらしい。目には点眼していた。
元侍女の家を訪ね、王都に住んでいた頃に、近所に住んでいた人の息子だと名前を告げると、母親は笑顔で出迎えてくれたが、肝心の娘について尋ねると顔色を曇らせた。なんと、侍女をしていた娘は、数年前に病気で他界したと言われてしまった。手遅れだったようだ。ご丁寧にも墓の場所まで教えてくれた。
王都から離れているので、もしかすると生存しているかもと淡い期待をしていたが、証拠探しは困難を極めることになってしまった。
「ひとまず、お墓を確認しましょうか」
「……ああ」
王太子は落ち込んでしまったが、共同墓地まで見に行くと、教えられた墓石はひどく古びており、朽ちていた。娘が死んだというのに、果たしてここまで風化しかけた石を選ぶだろうか。
「この墓石だけ、どうして古いんですかね」
「……さあな。金をかけたくなかったんだろう」
「遠くから見ても目立ちますよね。名前もところどころ掠れて読めませんよ?」
「ファミリーネームは……あっているな」
「過去の私も庶民として生まれて、埋葬されたことは何度かありますけど、ここまで酷い石を使われたことはないですよ」
墓石に金をかけなかった理由がどうしても気になった。しかし、そんなことを母親に聞けるはずもなく。顰蹙を買うだけだ。
「数日間、張らせてみる」
「それがいいと思います。あと、同じ名前の婦人がこの街にいないか、探ってみてください」
「わかった」
あとから合流した側近に指示を出すと、せっかく来たんだからと街の散策に繰り出した。
2026/5/5 41話の推敲をしていましたが、途中で眠気に襲われたので支離滅裂なままだったらごめんなさい。
このあと42話にも取りかかります。
完結予定日は5/9になります。
推敲は一度しただけなので、タイトルやらなんやら後から色々と直す場合もございます。
よろしくお願いします。




