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魔女の呪いで転生十回目! エリスティア・オッペンハイムは今度こそ婚約破棄して悠々自適に暮らしたい  作者: ゆずまめ鯉


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四十二話「断罪」

 栗や柿など、秋の味覚に舌鼓を打つ十月。私の好きな季節でもある。暑くも寒くもないし、冬ごもりの準備期間ではあるものの、そこまでは忙しくない季節だ。

 王都ヴァランクールでは、王太子であるアルディオン・ルーエンベルクから、国民に向けて直々に発表したいことがあると三日前からお触れが出ていた。出自を問わず、シルヴァーフォード城に招くという。

 巷では、聖女セラフィナとの婚約を正式に発表するのではないかと真しやかに噂されていた。聖女セラフィナが浄化や治療している場に、王太子が積極的に顔を出していたからだ。

 王都以外でも呼ばれれば足を運び、地方でも活躍しており、それは巡り巡って王都の地位と名声を上げるためではないかと大盛り上がりしていた。聖女セラフィナは現王妃の血縁者だ。姪であることにも拍車をかけ、自尊心の塊である王妃は、優越感に浸りながら周囲に自慢していた。

 私が王都に戻ってからは、とにかく目立たないように表向きは大人しくしていた。王太子との接触も、転移魔法を駆使してもらい不用意に目撃されないように徹底した。

 その代わりに、聖女セラフィナと王太子の接触をわざと増やし、噂で持ち切りになるように仕向けた。相談したわけでも、計画を打ち明けてもいないのに、なぜかセラフィナは協力的だった。エリーゼは、寝首を掻くためではないかと警戒していたが、私はそうとは思えなかった。ただの勘だ。

 ほかにも、兄であるオーガストに協力を仰ぎ、学校や街中、シルヴァーフォード城、社交パーティーの会場など、至るところで王太子と喧嘩してもらった。近々、私と王太子が婚約破棄をするという話題に信憑性を持たせるためだ。オーガストは生き生きしていたので、王太子は『そこまで兄君に嫌われていたのか……』と肩を落としていた。彼に悪いとは思いつつも、笑ってしまった。

 今日はなにも予定がなかったので、自室で衣装合わせをしていた。


「お嬢様。今回はどの色で参列されるおつもりですか?」

「決めてないよ。何色がいいと思う?」

「何色でも似合いますけど……そうですね、緑以外がいいですね。あれはあれで、似合っていましたけどね」

「知ってた? あの緑の衣装、どうやら王太子にも好評だったらしいよ?」


 目の前で断髪したあの日は、ショックを受けすぎてしばらく動けず、翌日からは悪夢に悩まされるようになり、睡眠不足に陥って大変だったと切々と訴えられた。そこまで傷つけてしまったとは思いもよらなかった。首を傾げて『ごめんね?』と謝ったところ、あっさり許してくれた。緑色の格好が可愛かったからだと言われたが、楽勝すぎて少し心配になった。


「王太子なら、お嬢様が人前でも露出しない限り、なんだって褒めると思いますけどね。まあ、お嬢様はなにを着ても似合うし、可愛いですけど!」

「ありがとう。緑以外なら……そうだな、白にしようか」


 立食の予定があるならば、汚しそうな色は極力避けているけれど、食事に招待されたわけではない。久しぶりに着たくなった。


「いいですね! ピンクゴールドの髪に純白の装い……もうお嬢様は天使になるのでは!? そうだ、背中につけるために、大きな羽根を用意するのはどうでしょうか!?」

「……エリーゼ、落ち着いて。また悪目立ちしちゃうでしょ、羽根なんかつけたら」

「ええ~? そんなことないですよ! 絶対、似合うし可愛らしいのになァ」


 ここでうっかり『うん』と頷いてしまえば、王都のあちらこちらを駆け回ってでも用意してしまうだろう。白い大きな羽根は貴重で早々手に入らないというのに、だ。まだ緑色で装った方がましな気さえしてくる。

 二つや三つの幼児ならまだしも、十歳で背中に羽根をつけてしまえば、お笑い種だ。貴族たちの酒の肴になるのは、あの一度で十分だよ。

 王太子の試みが成功するかどうかは、当日を迎えるまではなんとも言えない。失敗する可能性もある。それでも、自分たちの将来のためにも、今は前だけを見ることにした。


***


 それから数日経ち、シルヴァーフォード城のエントランスホールは、大勢の人々で賑わっていた。入り口で身体検査を受けてから、大広間に移動する。

 王太子は、今でもエントランスを通りがかると、私に断髪された瞬間を思い出して足が竦みそうになると言っていた。だから裏口を使っているという。このままでは申し訳ないので、色々と片付いたらお詫びしようかな。


「いよいよですね、お嬢様」

「……うん」


 髪に結ばれたリボンから靴まで、全身真っ白の装いで、私はエリーゼ付き添いのもとエントランスホールを歩く。羽根を断っておいてよかった。おかげでそこまで注目を浴びていない。

 先に潜入していたルシフェルは、顔が割れているので本日は使用人ではなく、兵士として何食わぬ顔で紛れている。手引きをしたのはもちろん王太子だ。

 断髪からは三か月近く経った。当時とはまったく状況が異なるので、不思議な気分だ。


「あ、聖女セラフィナ様よ!」

「まあ、相変わらず素敵ね!」

「楽しみだわ!」


 聖女セラフィナが登場するなり、エントランスホールはより一層、盛り上がりを見せ、人々は興奮に包まれた。聖女の神々しい姿をひと目だけでも見ようと、みな彼女に釘付けになっている。

 聖女セラフィナは、人を掻き分け螺旋階段の下まで進むと、王太子がゆっくり降りて来るのを待った。


「あ、あれを見て! 王太子だわ! いよいよ発表するのかしら……ドキドキするわね!」

「そうね!」


 十代後半くらいのどこかの令嬢が、羨望の眼差しを王太子と聖女セラフィナに向けていた。年齢も二歳差なので、やっぱりお似合いだなと思う。けれど、それを正直に告げてしまうと、王太子はあからさまに拗ねて大変なことになるので、もう二度と言うつもりはないが。

 この場にいる全員を大広間に案内してから、王太子は本題に入るべく話し始めた。隣には聖女がいるので、人々は期待に満ちた眼差しを向けていた。


「僕が国民のみなさんに話したいことは、十年前のことです」


 十年前に公妾だった現王妃が、前王妃になにをしたのか。王太子は順を追って説明した。てっきり、聖女セラフィナとの婚約発表だと思っていた国民は初めのうちは動揺していたが、王室のスキャンダルには興味があるらしく黙って耳を傾けていた。


「現王妃は、公妾だった十年前。僕の母上である前王妃の侍女を買収し、不義密通があったと虚偽の報告をさせた。でも、私の母は無実だった。腹の子も、父との子だったというのに……。母はどんどんと衰弱しました。元侍女を使って、母の食事に、気力を奪う薬草かなにか混ぜたのでは?」

「そ、そ、そんなのは嘘よ!! そんな命令『は』下していないわ!!」

「今、王妃は、そんな命令『は』と言いましたよね? みなさん、聞きましたか?」


 そう問いかけると、辺りはざわついた。会場に呼ばれた国民は、近くにいる人とひそひそ話をしている。この調子だ。

 薬草の下りは王太子の提案だ。墓穴を掘らせるために、一つ虚偽を混ぜると言っていた。案の定、現王妃は引っかかった。


「そ、そんなの、ちょっと言い間違えただけじゃない!」

「では、どんな命令を下したんですか?」

「だ、だから、違うって言ってるじゃない!」


 まずいと思ったのか、王妃は従者に指示を出し、すぐにやめさせようとしたが、大勢招待していたのでなかなか辿り着けないようだ。その間にも、話しはどんどん進む。


「証人もいます。遠方に引っ越しをさせられた、当事者でもある元侍女を探し出し、この場に連れて来ました」

「い、いないわよ! そんな人!」


 洗いざらい打ち明けているというのに、案の定、王妃は否定した。十年前にそんなことはしていないと、しきりに繰り返している。


「こちらへどうぞ」

「…………はい」

「あ、あなた、誰よ!? し、し知らないわ!」


 側近に連れられて、一人の婦人が姿を現した。王妃を見るなり怯えて縮こまっている。元侍女は生存していた。

 引っ越し先を訪ねたところ、娘は他界したと墓石の場所を教えられた。ところが、調査を続けた結果、それらは母親の妄言だと判明した。朽ち果てそうな墓石だったのは、元侍女の祖母が眠っている墓だったからだ。

 度重なる心労が原因で心の病にかかり、娘は生きているのに時折、死んだと言ってしまうらしい。王都での一件以来、不安と罪悪感で暮らせなくなり、母親の実家がある南方で暮らすことになったという。

 随分、身勝手に感じるが、すべての元凶は企んだ人物だ。

 元侍女はあらいざらい白状した。前王妃は潔白だったことと、公妾だった現王妃から指示されて仕方なく加担したのだと。脅迫されていたとはいえ、取り返しのつかないことをして後悔していると、涙ながらに打ち明けた。

 王太子の摘発と元侍女の証言から、もう一度精査することとなった。

2026/5/5 42話を推敲中に累計文字数が目標の15万文字を突破してました!

よかったです。1話3000文字で50話を目標に書いてました。徐々に伸ばしてゆくゆくは100万文字を書いてみたいです。

完結予定日は5/9になります。

推敲は一度しただけなので、タイトルやらなんやら後から色々と直す場合もございます。

よろしくお願いします。

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