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魔女の呪いで転生十回目! エリスティア・オッペンハイムは今度こそ婚約破棄して悠々自適に暮らしたい  作者: ゆずまめ鯉


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二十九話「和解」

 転移魔法の使い過ぎで魔力を限界まで消耗した王太子は、一時期、昏睡状態に陥りながらも数時間後には目を覚ました。これでもう心配ないだろう。ベッドの上で起き上がろうとしたので、そっと手を添えて支えた。


「体調はどうですか?」

「うん……悪くない。キミが助けてくれたのか? エリスティア」

「大したことはしていないです」

「そんなことはない。ありがとう」


 礼を告げられ、くすぐったさを感じた。王太子を助けたい純粋な気持ちも当然あったけれど、一番に浮かんだのはやはり村民の顔だ。彼の身になにかあれば、多くの命が失われるため、巻き添えにしないように奮闘した。それを正直に伝えてしまうと、顔色を曇らせる気がしたので言わないことにした。


「それより、私の魔力量では、転移魔法は使えないでしょうし、誰か呼びましょうか?」

「その必要はない。もういるからな」

「はいはい。ここにいますよ」


 今の今までどこにいたのか、彼の側近のうちの一人がしれっと顔を出した。学校から出席していないと連絡を受けているはずなのに、慌てた様子はなく悠長にしている。王太子の最も身近にいる従者で、彼が剣を使った鍛練中にかすり傷一つ負っただけで、大慌てで司祭を連れてこようとするくらいだ。そんな性格をしているのに、こんなに余裕があるのはおかしい。

 恐らく、王太子に魔力を注いでいる人物が私だったので、気配を消して隠れていたに違いない。そうではないとタイミングがよすぎる。どうやら側近は、王妃とは異なり聖女セラフィナ推しではないようだ。


「遅かったですね?」

「いえいえ。そんなことはないですよ。今、来たばかりです!」


 見え透いた嘘を吐かれたが、あえて突っ込まないことにした。


「それにしてもアルディオン様が、ここまで疲弊するのってなかなかないんですよ。鍛えてるのもありますけど、無尽蔵ですからね。知ってましたか?」


 今来たばかりといいながら、王太子が魔力を枯渇させてしまったことにはすぐに気づいたらしい。


「余計なことは言わなくていい」

「はーい、すいませーん」

「それより、彼女と二人きりにしてほしい」

「はいはい。来いって言ったり、引けと言ったり、人使いが荒いですよね、我が君主は」


 側近はぶつぶつと文句を言っている。そんな側近の背中を、エリーゼは押しながら歩いた。


「なに言ってるんですか? ほら、行きますよ」


 エリーゼに連れられた側近は、部屋を後にした。

 王太子と二人にされてしまった。三日前の朝に、話し合いの場を設けるはずが、エリーゼとルシフェルの一件で、それどころではなくなってしまった。


「エリーゼとルシフェルの件だが……あの二人を手配したのは確かに僕だ。でも、それは監視するためではない。キミを守るためだ」

「……どういうことですか?」

「僕には敵が多い。二歳のキミを婚約者に指名すれば、キミを狙う者も自ずと現れるだろう。そのために、当時十歳ながら、剣術大会で優勝した大人顔負けの実力を誇るルシフェルと、惜しくも準優勝だったエリーゼの二人を選び、エリスティアの護衛に採用したんだ」


 王都ヴァランクールでは、剣術大会が定期的に開催されており、王都に住んでいてもいなくても、老若男女問わず参加できるという。上位三名には賞金も出る。魔力を使うことは禁止で、純粋に剣術と身のこなしで勝敗が決まる。

 ぎりぎりまで逃げ回り、相手の隙を突くものもいれば、一振りで場外へと吹き飛ばして勝つものもいる。優秀なものは、王族や貴族が護衛としてスカウトしたり、まだ十代と若ければ騎士養成学校で剣術の基礎や、礼儀作法、マナーなどを学ばせ、ゆくゆくは王立騎士団に配属したり、この国の軍事力を高めることが目的だ。


「あの二人がそれほど優秀だったのなら、一介の従者にすることに反対した人もいたのでは?」

「ああ、やたらと煩いのがいたよ。王都ヴァランクールのためには、この若き才能は絶対に無駄にしてはならん! 多大なる損失に繋がる! ぜひ私に育成させてほしい! とかなんとか。無視したけどな」

「やっぱり……」


 容易に想像できた。才能のある若者を支援し、頭角を現してから「あの若者は私が育てたんだ!」と酒を飲みながら自慢したがる貴族は多い。


「でも、こちら側から強制したわけではなく、本人の意思だよ。護衛をするか、養成学校で学びの機会を得るか。実際にキミのことを見てもらってから質問すると、二人ともキミを選んだんだ。僕たちが対面を果たしてすぐ、前王妃がお茶会に招いただろう? その時だよ」


 婚約者に指名された数日後。王太子の実母だった前王妃に、宮廷に招かれ面会する機会があった。オーガストとともに挨拶した記憶がある。


「……そうだったんですね」

「オッペンハイム公爵家も知っている。オーガストにでも聞いてみるといい」


 わざわざ確かめなくとも、事実だろうことは察した。王太子は嘘を吐かないからだ。少なくとも、私には嘘を吐いたことはない。たぶん。


「そうそう、それともう一つ。仮にキミのことを監視していたのなら、どうして僕は、ここに辿り着くまで一か月もかかったんだろうね?」

「……それも作戦のうちでは?」

「キミの居場所を耳にしたのなら、真っ先に連れ戻しに来ると思わないか? だって、六つ年下で、十歳の公爵令嬢に髪を切られて逃げられる王太子だなんて、格好の餌食だろう」


 そう指摘されて、それもそうかと納得した。多少なりとも外聞を気にする王室だ。事実無根ならまだしも、大勢に目撃されているだけに、あちらこちらで噂されているだろう。最善の策だと実行したけれど、まさか婚約破棄が成立しないなんて思わなかった。


「二人は、僕に居場所を悟られないように気をつけていたよ」

「では、つい先日の教会裏で、なぜ大金を渡していたんですか?」


 ついでに疑問をぶつけることにした。大量の銀貨を受け取っていた。だから、情報を売っていたのだと勘違いすることになった。


「報酬だよ」

「……報酬?」

「これだよ」


 王太子が取り出した光沢のある布に包まれていたのは、見覚えのある茶色い物体だった。パンと蜂蜜とスパイスで作る素朴な菓子だ。


「……ジンジャーブレッド?」

「そうだよ。これ、誰が作ったものだと思う?」


 先週の焼き日にも、大量に焼成している。二人には毎回、多めに作ってほしいと頼まれている。


「……ま、まさか……私?」

「正解。あの二人はね、キミが作った菓子を僕に売ってたんだ」

「えっ!?」


 さすがに想像の斜め上すぎた。若干、引いてしまった。私が焼いたものを、王太子に売りつけていただなんて、いくらなんでも見抜けるはずがない。


「ああ、言っておくけど、僕が命じたのは二つだけだからね。エリスティアの護衛と、手作りのものはすべて僕が買い取ると」

「で、でも、お花のお返しに渡しに行ったら、断りましたよね?」

「ああ、近くに王妃派の人間がいたんだ。あの場では泣く泣く断ったが、その日の夜にエリーゼから受け取っている」

「……し、知らなかった……」


 だから、エリーゼはジンジャーブレッドを作るように背中を押してくるんだとようやく気がついた。作れば作るほど、王太子が買うので収益に繋がる。率先して素材を準備してくれていた理由もそこだろう。まさか、王族に売りつけていたとは……。


「ちなみに、最初に買い取ることを提案したのは僕だ。あの二人から持ちかけられたわけではないから、誤解しないように」

「……そうでしょうね」

「エリーゼ、ルシフェルの二人と仲直りしてくれるか?」


 二人のことが、どうしても信じられず家から追い出す形になってしまったが、避けるような要因は一つもなかった。


「………………いいですよ。まさか、私の焼き菓子で、売買が成立しているとは思っても見ませんでしたけどね」

「頭の回転が速くて商売上手なんだよ、あの二人。騎士にならなくて正解だ。僕から搾り取る方が儲けられるからね」

「……そのジョークは笑えないです」


 呪いについては聞けなかったが、隣の部屋で待っていたエリーゼとルシフェル、そして側近を呼ぶと、ことの顛末を説明した。二人は驚いていたが、ほっとしたような表情を浮かべた。また私の従者として、エリーゼとルシフェルがつくことになった。

2026/4/24現在 35話を執筆中で推敲は29話まで終わっております。

5月中に50話まで書けるように頑張ります。

推敲は一度しただけなので、タイトルやらなんやら後から色々と直す場合もございます。

よろしくお願いします。

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