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魔女の呪いで転生十回目! エリスティア・オッペンハイムは今度こそ婚約破棄して悠々自適に暮らしたい  作者: ゆずまめ鯉


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二十二話「豊作」

 夜通し消火活動に尽力してから数日後。私がひたすら頑張ったおかげで、なんとか全焼は免れたけれど、使用人が寝ていた屋根裏部屋や、村長、夫人の私室があった二階部分はほとんど焼けてしまった。現物は留めていても、水浸しの上、燃えた木の残骸があるので、宝石や陶器以外は使い物にならないだろう。

 火災の原因については、酔っ払った村長が倒した蝋燭の火ではないか、との見解だった。目撃した使用人らの証言と、実際に消火にあたった私が、激しく燃えていた位置を照らし合わせたところ、その部屋は村長の私室だった。使用人の出入りは、全面的に禁止にしているという。ほぼ間違いない。

 仮に村長の不注意ではなく、使用人が腹いせや出来心で放火した場合、賠償やらなんやらでとんでもないことになる。最悪なケースも考えられるので、真犯人が見つかるような事態は望んでいない。

 焼け焦げた匂いや脆くなった骨組みが剥き出しになっていることから、そのまま住み続けるには適さないため、突貫で建て直すことが決まった。教会の増設現場を知る者より、オーガストらの協力を仰げないだろうかと打診されたが、生憎、王都に帰還している。今後、村に戻るようなことがあれば、村長宅の修繕を手伝ってもらえないか、私から頼むことで納得してもらえた。

 次から次へとお願いされてしまうが、やむを得ない。

 村長の家が燃えるという、思いもよらないことで叩き起こされてしまったが、村に流れ着いてから約一か月。待ちに待ったこの日が、とうとうやってきた。そう──収穫だ。

 逸る気持ちで村を散策すれば、顔見知りの農夫やその妻が、額に汗を浮かべて一生懸命野菜を摘んでいた。あちらこちらでは本格的な収穫が始まり、カブ、エンドウマメ、ニンジン、キャベツなど山積みになっている。リーキやソラマメ、タマネギはもう少し先らしく、比較的早めに採れるものが中心だ。

 もうすぐ昼というタイミングで、泥で服を汚した村民が次から次へと現れた。収穫した野菜のお裾分けだ。もらったものを手篭に収めると、二篭分になっていた。大量だ。


「豊作でよかったね」

「そうですね。お野菜がいっぱいで家計も助かります」

「うん。これだけあるし、ポタージュが食べたいな」

「作りましょうか。お嬢様も手伝ってください」

「いいよ」


 魔力を調節して水を撒く作業は、慣れるまでは苦労も多かった。設備の整えられた王都──しかも公爵家では、水魔法を使う機会はそこまでなかったからだ。

 だから、水を撒く際に少なすぎたり、出しすぎたりと反省点もあった。でも、次第にうまく出せるようになったし、人の役に立てただけでなく、こうして形になって返ってきた野菜を手に取ると、やってよかったという気持ちになれた。

 野菜を擦り潰して煮込んでくれるというので、水魔法で野菜を綺麗に洗浄したり、水がほしいと言われればすぐに出したり、話し相手になったりと協力した。エリーゼは、あっという間に美味しいポタージュを完成させた。


「どうですか?」

「うん。悪くないね」

「よかったです」


 鍋いっぱい作ってくれたので、何度かおかわりすると喜んでくれた。ルシフェルも負けじと食べていた。

 あれだけ降らなかった雨も、今ではすっかり降るようになったし、もう心配はいらないだろう。そろそろ次を考える頃合いだ。

 村長の息子であるアルベルトとエイミーの祝言は、収穫祭と同時に執り行うと聞いていたので、もう一か月は先になると踏んでいる。時間がある。焼き日はまだだし、明日はなにをしようか。村の子どもたちと遊んでもいいかもね。


「そうそうお嬢様。明日は、月に二度開かれるマーケットの日で、収穫した野菜や果物、婦人の縫った衣服、刺繍など、大々的に売るそうですよ。普段とは違い、広場を埋め尽くすほどの品物が並ぶそうで、近隣の村からも大勢訪れると、裏手に住む奥方が言ってました」

「ふうん」

「行ってみますか?」

「うん。暇だし、覗いてみようかな」 


 月に何度か、広場に人が集まり賑わっていたことは気づいていたものの、連日、水撒きに明け暮れていたのでそれどころではなかった。この村に滞在するようになってからは、露店を覗く機会が減っていたので、どんなものが並ぶのか楽しみだった。




 朝食を軽く済ませた午前九時。エリーゼとルシフェルを連れて家を出ると、村の中心部にある広場を目指して歩く。近づくにつれて一人、二人と増え始め、到着した頃には右を見ても左を見ても人、人、人と身動きとれないほどだった。注意して歩かなければ、うっかりぶつかってしまいそうだ。

 この日のためにと準備してきた店主らは、布を敷いた地面に売り物を並べ、客を呼び止めようと必死に声を出している。道行く人々は、気になった商品の前で立ち止まるなり、手に取って一つ一つ吟味している。ざっと売り場を数えても、優に五十はあるので圧巻だ。普段はせいぜい十もあればいい方なので、王都さながらだ。


「すごいですね……お嬢様。なにから見ますか?」


 人ごみに突入する前に声をかけられたので立ち止まる。


「端から順番……と言いたいところだけど、日が暮れちゃいそうだね」

「そうですね。食品は、通りかかったついでに見るとして、まずは服からにしましょうか」

「いいよ。ルシフェルもそれでいい? それとも別行動する?」

「行く」

「わかった。じゃあ行こうか」


 エリーゼとルシフェルに似合いそうだなとペアの衣装を見繕ったり、試食をさせてもらった蜂蜜を一瓶買ったり、小麦粉を仕入れた。

 けれど、私の本命はそれではない。数日前に、エリーゼが用意してくれたアーモンドミルクと、隠し味として入れられた白ワインのパン粥が美味しかったので、その二つを探しているのに見当たらなかった。どこで入手したのか気になった。


「そこの小柄なお嬢ちゃん。さっきから気になってたんだけども、一体なにを探しているんだい?」


 食べ物を中心に回っていたところ、人のよさそうな笑みを浮かべた婦人に呼び止められた。容姿に見覚えはないので、別の村から来たのだろう。四、五十代くらいの年齢ゆえに、この辺りの流通にも詳しそうだ。

 エリーゼとルシフェルといえば、背後でまじまじと羊肉の塊を眺めており、店主が特別におまけしてくれると言い出したので、値切ろうとしている。しっかり者のエリーゼは、どこにいようとも逞しい。

 せっかく見ず知らずの婦人が気にかけてくれたので、ここは素直に聞いてみることにした。


「…………アーモンドと白ワイン」


 そう答えると、婦人は目をまん丸くさせて驚いた。


「アーモンドと白ブドウのワインだって? その二つなら、ここよりも王都に近くないと滅多に並ばないよ。並んだとしても秋以降だ」

「そうか。ありがとう」


 教えてもらったのに、商品を一つも買わずに立ち去るのは悪いかなと、リンゴに手を伸ばそうとしたところ別の客人が現れたので、邪魔にならないよう立ち去った。


「たくさん買えましたね」

「そうだね。明日からは、また質素に暮らそう……」


 予定よりも多く金を使ってしまったが、また節制すればいい。久しぶりに満足するまで買い物した。

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