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きっと、そばに  作者: ミソラ


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ルノヴァン宮殿④2

 大勢の怒号と足音、逃げ惑う声。宮廷内は内乱の再来かと思われる騒ぎに揺れる。


 その喧騒は謁見の間から離れた王族の住まう宮まで届いた。


「アンジェルさま! こちらへ!」

「ランベール! なにがどうなっているの? 謁見の間の方が騒がしいわ。」

「……。」

 ランベールは眉間に皺を寄せ、アンジェルの手を引いた。


「急ぎ亡命を……!」

「亡命?」

「説明は後で。」


 そこからランベールは無言になり、アンジェルの部屋の奥のタイル状になった壁の一つを軽く押した。押したタイルがかたっと外れると、そこに垂れ下がっている紐が現れた。それを引っ張ると、壁の一部がギギギと開く。


 アンジェルの部屋から外へと通じる秘密の通路が現れ、小さなランプを頼りに足を踏み入れた。

「なぜあなたがこの通路を知っているの?」

「ローランド陛下から教えていただきました。なにかあれば殿下をお守りするようにと。」

「お兄さまが? お兄さまはどちらに?」

「……イーヴ・リオネルさまと話し合いをなさっておいでです。」

「イーヴですって?」


 話し合いでなぜ怒号が飛び交っているのか。そしてイーヴ・リオネル。亡き前王弟の息子でありローランドとアンジェルの従兄弟。


 そして第一王位継承者。


「……クーデター?」


 かつての内乱を思い出し、足が震える。

 それでも曲がりくねった通路を歩き、広大な宮殿の敷地の外にあるダミーの井戸につながる長い階段を登り、外へ出た。

 眩しさに目が眩む。


 しばらく歩き、茂みに隠れるように簡素な馬車があった。

「……これに乗れと?」


 アンジェルは眉を顰めた。

「申し訳ありません。国から出るまではご容赦ください。国境の緩衝地帯に出たところで別の馬車に乗り換えてアルエスタへ向かっていただきます。この御者と騎士が道中守りますゆえ……。」

「あなたは?」

「私は……陛下の元へ戻ります。」

「なんですって? わたくしの警護は?」

「……申し訳ございません。」

 ランベールは胸に手を当て頭を下げた。

 

 びしっ。

 

 ランベールの美しい顔の頬に一筋の赤い線が入った。アンジェルの綺麗に整えられた爪がランベールの皮膚を裂いたのだ。

 ランベールは表情を変えず頭を下げる。


「相変わらずね。お前はいつもそう。わたくしがなにをしても表情を変えない。……つまらないこと。」

「……ご無事をお祈り申し上げます。アンジェル王妹殿下。」


 アンジェルはランベールに背を向け小さな馬車に近づくと、待っていた一人の侍女と共に乗り込んだ。そしてランベールに一瞥も与えず、馬車は走り出した。


 ランベールは馬車が小さくなるまで見送り、指で頬の傷に触れた。うっすらとついた血を見て、小さくふっと息を吐く。

 

 それから再び馬車が去った方角を見て、井戸の中の階段を下り宮殿の方へ戻っていった。


 *


 その頃、玉座に座ったローランドと不遜な態度で正面に立つリオンは見つめあっていた。


 リオンはこつりと一歩前へ出た。


「覚悟を決めろ、ローランド。お前にはもう味方はいないんだ。」

「この座は私の力で得たものだ。……お前の父親を倒してな。」

「違う。」


 リオンはもう一歩、ローランドに近づく。

「お前は利用されたんだ。我が父より御しやすい神輿として、先ほどのヴァリエ公爵たち貴族に担ぎ上げられたにすぎない。お前は国王となってなにをした? 国のためになにをした?」

「私が『国』だ。私が存在するからこそ、このジスラール国も存在している。」


 リオンは乾いた笑いをこぼした。

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