バルティ⑤3
「……ラウリーヌ、愛している。私と共に生きてくれるか?」
ラウリーヌの心の中に歓喜の熱が灯る。
「嬉しい……。でも。」
言いかけて口を噤む。
「リオンを見捨てることはできない。」
わずかな間、沈黙が落ちた。
「リオンは、私の望みを叶えようと国王陛下に挑んでいるわ。このまま離れるわけには……。それに明日、国王の名前で召喚されているの。私とリオンは王宮に行かなくちゃいけない。」
ジョスランとの再会の衝撃で忘れていたが、明日は国王と対峙するために参内しなければならないのだ。ラウリーヌは焦るように眉に皺を寄せた。
「どうしよう、『館』に戻らなくては。」
ジョスランは握っている手の指を滑らせ、ラウリーヌの右手薬指に嵌っているサファイアとトパーズの指輪を親指で撫でた。
「君を害そうとする奴のいるところに戻すのは気が進まないな。……しかしローランド国王を廃することは私の望みでもある。」
ラウリーヌはジョスランを見た。そう、ローランド国王はジョスランから全てを奪い命も奪った。
「宿敵であるし、彼は国民に目を向けておらず国王として不適格だ。だが、イーヴもまだ青い。」
ラウリーヌは頷いた。着実に国王を追い詰めているものの、リオンは感情に素直なせいかまっすぐ突き進んでいくところがある。そしてプライドが高く人の意見を取り入れない。
「力になりたいと思っている。」
「それは……。」
ラウリーヌは目を伏せた。二人が手を組めば事態は本格的に動き出すだろう。だがリオンがジョスランを受け入れることはないと確信している。
「一度、イーヴには会っている。」
「えっ? いつ?」
「つい先日だ。」
「リオンは、なにも言ってなかったわ。」
リオンはジョスランが生きていることを知っていた。
確かに違和感はあった。なぜだか焦ったようにばたばたとソビシュ伯爵邸に出掛けたリオンを思い浮かべる。
眉間に皺を寄せて考えていると、ジョスランの手が優しくラウリーヌの頭を撫で金色の髪を一房掬った。
「あの日カンパニュラの花を供えてくれたね。」
「見てたの!?」
やはりあの香りは、あの人影は気のせいではなかった。
「自分の命日に姿を現したら、君の心臓が止まるかと思って。」
くすくす笑うジョスランをじとりと睨む。
「あの日の前夜にジスラールに帰ってきたばかりだったんだ。……今の君が幸せかどうか見たかった。クリフたちから報告は受けていたんだけどね。」
ジョスランはラウリーヌの髪の毛に口づけた。
「君のためには諦めた方がいいのかと考えていたが……嬉しかったよ。まだラウリーヌの心に私がいると知れて。」
ラウリーヌはジョスランの胸にとん、と額をつけた。
「ひどい。あなたはひどい。でもどうしようもなく、……愛してる。」
「うん。」
*
一時も離れていたくはないがそうもいかない。
「一度、『スコルピウスの館』に戻らなくちゃ。私があなたとリオンとの橋渡しをするわ。」
「私も行こう。」
「血を見そうだわ。」
「顔を合わせた方が話は早い。時間もないからな。ゴーチェと連絡は?」
「リオンが会わせてくれないの。ソビシュ伯爵邸にも一人で行ってしまったし、関わらせてくれない。」
ジョスランはラウリーヌの頬に唇を寄せた。ラウリーヌはくすぐったさに肩をすくめて小さく笑う。
(何重ものベールでラウリーヌを隠していたか。さて、どんな顔合わせになるか……。)




