スコルピウスの館②2
「やっと来たわね。」
宮廷から『スコルピウスの館』の主人に召喚状が届いた。おそらく、有力貴族たちを堕落させた『悪』として呼ばれたのだろう。
ただ、状況を鑑みてか、はたまたあちらも問題があるのか三日の猶予が与えられた。
「アネット。」
「はい、ラウリーヌさま。」
アネットはラウリーヌの従順な下僕となっていた。ラウリーヌから徹底的に教育され、最低限のマナーも身につけた。
ただ、その額には消えない傷が残っている。
「リオンが作ったドレスを並べてちょうだい。宮廷に参内するのに相応しいものを選ぶわ。」
ジョスランの処刑から一年が過ぎた後、リオンはラウリーヌのためにたくさんのドレスを作ったが、結局袖を通したことはない。
いきなり国王と会えるか不明だが、リオンが王族であり南部に対する駆け引きの材料となるなら国王自ら出てくる可能性もある。ならばなおさら隙を見せてはならない。
(こういうのはハッタリも必要だものね。お義母さまやジーナがいてくれれば相談できたのに……。)
『スコルピウスの館』に来る貴族たちの噂話では、南部の不穏な空気は徐々に王都で知られるところになっている。
武器や馬を買い集め、傭兵を雇って領を守る門に集結していると。そして南部貴族の主だった者たちが闇夜に紛れて前ベルジュラック公爵の弟ソビシュ伯爵のタウンハウスに集結してきていおり、その他の者たちは南部を守るために残り、徹底抗戦の構えらしい、と。
リオンもその情報を掴んでおり、やっと南部との連携を考え始めた。
ラウリーヌは窓の外に視線をやる。広い中庭の向こうには、目の前の問題から目を逸らした貴族たちが遊ぶプレイルームのある建物が煌々と光を放っている。
*
「ラウリーヌ、ソビシュ伯爵から返事があった。」
「そう。で、旗印をお義母さまからあなたへ変えてくれると?」
「前公爵夫人だ。」
「呼び方なんてどうだっていいでしょ。」
リオンは不機嫌そうな顔をして続けた。
「……私たちが宮廷に上がる時、南部も行動を起こす。今のところ南部貴族たちの忠誠はベルジュラックに捧げられているから、前公爵夫人の旗印はそのままに、私を後押しすると。」
「妥当なところね。」
南部貴族たちのベルジュラックへの想いは強い。ほんの数年過ごしただけの前王弟の息子より先祖代々共にいたベルジュラックは特別な存在なのだ。
元々ベルジュラック公国として存在していたこともある南部は独立心も強く、また一つの国として成り立つ組織も持っている。
リオンがジスラールの国王になろうがなるまいが関係ない。ただ、押し付けられる形にせよ資金提供を受けたからには協力せざるを得ないし、今指揮を取っているサージェス伯爵にしてみればリオンに情もあるのだろう。
最初、ラウリーヌの望みはジョスランの仇を討つことだけだった。しかし故郷でありジョスランが守っていた南部をどうしたいか。
一年経ちラウリーヌの心情にも変化が訪れている。当初は怒りと哀しみで覆い尽くされていたが、少しは周囲も見えるようになってきた。
『スコルピウスの館』で目を血走らせながら賭け事にのめり込む、かつてジョスランを陥れることに賛同し財産を奪った貴族たちを見たからだろうか。
ラウリーヌは思いを巡らした。
南部の父や兄と直接連絡を取ることはリオンに阻止されている。だが、南部が本気で独立を目指すのならば……。
「リオンは、南部をどうしたい?」
ラウリーヌはリオンの目をまっすぐに見た。
「あなたが『善き王』となるならば南部は独立しなくて済むかもしれない。いえ、かつて四つに分かれていた地域の全ての『善き王』にならなければ意味がない。……あなたの側近がジャンだけではね。」
リオンは黙り込んだ。側近に関してジャンだけでは心許ないことはリオンも痛感していた。父王弟の側近たちはローランドによって粛清された。政治に長け信頼できる者が残っていないのだ。
できうるならば政治に長けたサージェス伯爵やソビシュ伯爵をはじめ、南部にいる優秀な貴族たちの協力を得たい。単なる「後押し」ではなく国を作る協力体制を構築しなければならないのだ。
「参内は三日後。話をまとめるにも急がないといけないわ。私にも南部の人たちと話をさせてちょうだい。」
「許可できないな。南部と話をつけるのは私に任せてもらおう。」




