サージェス①2
南部はジョスランの捕縛を知った直後から無実と処刑の反対を訴えていたが虚しく処刑は執行されてしまった。
南部は武の土地柄だ。それにベルジュラックに対しての忠誠心は領民の隅々にまで浸透している。
領民たちはそれぞれの領主の館に押しかけた。
ここまでされてなにもしないのか、と。
ジョスランの処刑の後、それを逆手にとられ「反乱の恐れあり」と国王の名のもとで南部への圧力をかける行為が激しさを増してきた。
前公爵の弟であるソビシュ伯爵一家も南部に逃れて来て合流し緊張感が高まっていた時に、二つの知らせがほぼ同時にもたらされた。
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突然、無記名で大量の金塊と金貨が別々に送られてきたのだ。
最初は得体の知れない悪質な悪戯かと思ったが、金塊に同封されていた一通の手紙の冒頭には南部の言葉で綴られた有名な詩が書いてあり、筆跡も見慣れた死んだはずのジョスラン本人のものであった。
それはジスラール王国の古典の叙事詩から引用されたもので、故郷を想いながら闘いに向かう騎士の心情を詠ったものだった。
その内容にはサージェス伯爵や周囲の人間もよく知るジョスランの人柄も垣間見えた。
どうやって処刑を免れたかわからないが、ジョスランなら可能かもしれない。
もう一つ、送られてきた手紙には金貨の詰まった箱がついていた。
『時は来ました。見果てぬ夢を現に。』
その手紙にはサージェスの家紋に使われているアイビーの葉が同封されている。それは手紙の送り主とサージェスを繋ぐことを暗に示しているのだ。サージェス伯爵はそれを見ただけで察した。
一時だけ息子であったリオンからは、うっすらと脅迫めいたものを感じる。サージェス伯爵はため息をつきながら手紙に目を落とした。
『南部の輝きは金貨にも負けず。』
一体どうなっているのか。しばし頭を抱えたサージェス伯爵は、はあっと深いため息を吐いてゴーチェ子爵家に向けて手紙を認め始めた。
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「サージェス伯爵!」
「来たか、キーファー。」
伯爵はキーファーに二通の手紙を見せた。
「……ラウリーヌはリオンのところにいるということですか。」
さすがは古くからベルジュラックに仕えている子爵家の嫡男、話が早いと伯爵は頷いた。
「そしてジョスランも生きている、と。」
「連絡手段は?」
「ない。一方的に送られてきた。」
「では、ラウリーヌに公爵が生きていると伝えることはできないのですか?」
「こちらからは、そういうことだ。」
キーファーは複雑そうな顔でまた手紙と金貨と金塊に視線を落とした。
「……独立でもしろと言うのか……。」
ジョスランとリオン、そしてラウリーヌが生きていることに安堵すると同時に、サージェス伯爵は大量の黄金を前に頭を抱えることになったのだった。
だが、これで心置きなく戦えることも確かだ。
「ジョスランが生きていることは秘匿する方がいいだろう。ジョスランにも計画があるだろうからな。」
「そうですね……。」
ジョスランとラウリーヌの件は、サージェス伯爵、ジョスランの叔父であるソビシュ伯爵とゴーチェ親子四人のみで共有することとなった。
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「あの二人はなにをしているんだ!」
サージェス、ソビシュ両伯爵の頭が痛む日が続いていた。
リオンとジョスランはそれぞれが勝手に国を荒らしまくっている。
「あの二人は連携していないと思っていたが……。」
「面識はないはずだしね。傾向を見るとジョスランがリオンをからかっているようにも見えるな。」
あれからリオンからもジョスランからも連絡はなく、こちらから接触する手立てもない。たぶん、ジョスランはリオンに自分の存在を誇示しているのだろう。
「今頃、宮廷はことの収拾に振り回されていることだろう。あの派手なことが好きな国王がどんなにイラついているか。」
ゴーチェ子爵は鼻で笑いながら呟いた。
国王としては今こそ派手に舞踏会を開いて「問題ない」ことを示したいだろうが王都の貴族どもは舞踏会やら晩餐会どころではないだろう。
ゴーチェ子爵は敬愛する主であるベルジュラックを嵌めラウリーヌを苦しめる国王に怒りを持っている。
それこそ南部の独立も辞さない考えだ。
ふむ、とサージェス伯爵は考える。
守るべきは南部の土地と領民。このままだと反逆者と土地として国王に奪われるだろう。宮廷内が混乱している今こそ好機であることは確かだ。
いつか必ずジョスランは帰ってくる。それまで南部を守り抜くのだ。
「ベルジュラックの名があれば南部貴族と領民はついてくる。……闘ってもいいのでは?」
サージェス伯爵の言葉にソビシュ伯爵は頷いた。




