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きっと、そばに  作者: ミソラ


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サージェス①

 ジスラール王国南部にあるサージェス伯爵領は森と湖を有し、主な産業は林業と牧羊と織物だ。領内で生産される伝統的で技術的に難しい複雑な紋様の織物が昔から珍重され、ジョスランの商会が海外にも販路を広げたおかげで豊かな財源を誇っていた。


 サージェス伯爵家は代々銀色の髪の毛を受け継ぐ。祖母を同じくする侯爵家の従姉妹が先代国王の弟の妃となり、その間に男子が生まれた。

 

 イーヴ・リオネル・ジスラール。


 王太子派と王弟派の闘いの引き金となった人物である。


 時の王妃は子どもができず、国王が見初めた身分が低く後ろ盾も弱い側妃が第一王子ローランドを産んだ。国王は側妃とローランドを溺愛し、国内のパワーバランスを無視して側妃の後ろ盾となる貴族を重用した。

 そのうち政治もおざなりにしていく国王への反発も起きていた。

 

 そこで真面目に謙虚に政務を行い、侯爵家出身の妃との間に男子がいるエクトル王弟殿下が王位に就くことを望む声が上がってきた。


 国王と側妃の間にローランドが生まれたのは、イーヴが生まれて二か月後だったのも要因の一つ。イーヴの後に生まれたのが男児だったことが王弟派の焦りを生んだ。


しかし、成長するにつれてイーヴとローランドの才覚の違いは歴然としてきた。


 そんな折、国王が病に倒れる。十三才だったローランドに国王代理はできないため王弟エクトルが代理に就いた。するとますます待望論が高まり、派閥争いに発展した。


 派閥争いが過激さを増す中、息子の安全を危惧した王弟夫妻は息子と同じ銀色の髪を持つサージェス伯爵にイーヴを託した。

 南部の豊かな土地で身の安全を守ってほしいと。


 かつて、王弟派の手の者によりベルジュラック嫡男のジョスランは寝たきりになってしまったが、ジョスランを狙ったものではなかったしサージェスも従姉妹の息子をなんとか守りたいと願った。


 先代ベルジュラック公爵の手も借りてイーヴはサージェス伯爵の息子「リオン」と名前を変え、南部にある領を治めていた伯爵の父と代替わりだとして王都を後にした。


 その直後、国王が崩御し一年に及ぶ内乱が起こる。南部一帯の領主たちは中立を宣言し、リオンを守った。


 王都ではまだ年若い王太子ローランドと後ろ盾のない母后を傀儡としやすいと踏んだ北部と西部の諸侯、そしてローランドの妃キャレルの里であるヴィドルバン帝国の後押しを受けた王太子派が勢いを増し王弟派を圧倒した。

 

 王弟派は敗北し、王弟夫妻は毒杯をあおって亡くなった。

 イーヴは帰る場所を失い、ローランドは十五才の若さで国王に即位した。


 イーヴは両親の死を気丈に受け止め、南部に残りリオンとして生きて南部の発展のために勉強すると、メリザンドの寄宿学校に向かう途中で行方不明になった。


 攫ったのはローランドの手の者か、または別の者か。その時、南部は最大の危機に見舞われた。

 サージェスを名乗っているとはいえ王族が攫われたのだ。相手が誰かわからない中、危うい綱渡りを強いられた。


 その後、攫ったのは国王の手の者ではないと判明したが、ただでさえ戦後処理に追われた宮廷からは放置されることになった。

 イーヴが生きようが死のうが王家には関係ないと判断されたのだ。


 *


 そして今、新たな危機が南部を襲おうとしていた。


 社交シーズンが始まってしばらく経った頃、王都に出向いていた南部の貴族たちと、レノーの放った早馬でベルジュラックが陥れられた知らせを受け取った、南部に残っていた者たちは混乱に陥った。


 社交のため王都にいたサージェス伯爵はすぐにベルジュラックのタウンハウスに確認に向かい、そのままジョスランの母であるテレーズを伴って急ぎ領地に戻った。

 その際、ベルジュラック家の家令コームは「我らのことはご心配なく」と冷静に頭を下げたので、落ち着いたら連絡をするように言い含めた。


「サージェス伯爵、ジョスランとラウリーヌは……。」

「わかりません。しかし今は国王に感づかれる前に領地に戻らなければなりません。今は……ご容赦を!」


 *


 その他、主だった領主たちは急ぎ領地に戻り対策を練った。

 ジョスランがいない今、中心となるのはサージェス伯爵家になる。


「ゴーチェ子爵は?」

「ラウリーヌ嬢が何者かに攫われたと王都に残っています。あっ、キーファー殿。」


 青い顔をしたラウリーヌの兄、キーファーがサージェス伯爵の屋敷にやってきた。

「大丈夫か? キーファー。」

「はい……。」

「もう、なにがなにやらだな。」

「はい。なんの前触れもなく、です。」

「とにかく、南部の意思を統一しよう。我々は内乱の折、中立を守った。王家は内心ではそのことを未だに許していない。だからジョスランの功績を歪曲し謀反と見做したい。財政難に喘いでいる今、過去の恨みをこの機会に晴らすのと同時に財を奪おうとしている。」


 サージェス伯爵はがくりと頭を下げじわりと汗を垂らした。

 中立に立ったことを恨んでいるのかもしれない。だがローランドの命を守ったのは他でもないジョスランではないか。


「私は……、王家に屈したくない。」


 サージェス伯爵は絞り出すように言った。


 南部はかつてベルジュラック公国と呼ばれ、サージェスたちはその家臣の末裔だ。忠誠心はベルジュラックに捧げている。


 キーファーは奥歯を噛み締めた。


「私も同じです。舞踏会の夜から、宮殿では国王陛下がラウリーヌに興味を示していると噂されていました。もしかするとラウリーヌは陛下に囚われているのかもしれません……。」


 *

 

 その後、ジョスランは処刑された。

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