ディアボルス号②
晴れ渡った空に青い海原。そこに漂う一隻の大きな帆船の船首に、一人の長身の男が立つ。黒髪がさらりと潮風になびくき、青い空に笛の音が吸い込まれていく。
「ディアボルス号」と名付けられたその船の指導者である黒ずくめの男は、深く青い瞳で空の一点を見つめ右腕を差し出すと、そこにどこからともなく飛んできた美しい鷹が止まった。
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「王都では盗賊が派手に動き回っているらしい。『夜の城』か?」
「いや、手口は今までとまったく違うようだ。『夜の城』は荒っぽかったが、財産がまるで消えるように盗まれるらしいよ。しかし狙われているのはかつての王太子派の貴族ばかりみたいだな。」
ジョスランとレノーがクリフから送られてきた調査書を読んでいた。
船内の、食堂としても使われる広い部屋の隅にある止まり木には鷹が羽を休めており、クレマンが様子を見ている。
「旧王弟派の主だった貴族たちは粛清されたし、旧王太子派の貴族はローランド国王の即位後重用されているから豊かであろうことは理解できるが、盗賊がそればかり選んでいるのは不自然だな。没落した王弟派が指揮しているのだろうか?」
「さてね。最近羽振りのいい大商人もターゲットみたいだけどね。クリフに探らせてみよう。」
「そうだな。」
ジョスランはしばし思案して呟いた。
「こちらもそれに乗らせてもらおう。今は社交シーズンで地方の領主館の警備は薄いだろうからな。元王太子派の本邸を狙うんだ。盗賊の被害に遭った貴族をなぞっていけばいい。」
「先立つものはお金だもんねえ。それに『夜の城』に揺さぶりもかけられるし。」
鷹のチェックをやり終えたクレマンが椅子に座った。
「例の物は見つかったか?」
「バルティにある教会の中に宝物として納められているらしい。」
ジョスランは二人を見た。
「記憶通りか。昔、貿易仲間が言っていた通りだな。ヴィドルバンの失われた至宝がジスラール首都の教会にあったとわかれば、皇帝も怒るだろうな。
クレマン、先日お前が作ったものを試してみよう。」
「やった!」
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数日後の深夜、王都にある教会の中は花の香りで満ち、夜通し祈りを捧げる聖職者や警備兵たちが深い眠りについた。
そして誰にも気づかれることなく物音ひとつしない宝物庫から、一振りの剣が消えた。
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水平線の向こうには、うっすらとジスラール王国の海岸線が見える。祖国を離れてから少し伸びた髪の毛を海風になびかせ、ジョスランは右手薬指にはまるサファイアとトパーズの指輪を見た。
(あの地下牢で、この指輪が取られなかったことは僥倖だ。
……すまない、ラウリーヌ。もう少し、力を蓄えるまで無事でいてくれ。)
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ジスラール王国でラウリーヌを探すクリフの調査は大詰めを迎えていた。
王都における捜索場所が『夜の城』に絞られてから徐々に郊外へと範囲を広げていたが、新たな盗賊団が現れ仲間を紛れ込ませてから少しずつ情報が流れてきたのだ。
手口は変わったが、やはり都を騒がせている盗賊団は『夜の城』関連だった。
『夜の城』の奥深くに隠された支配者の存在。
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レノーとクレマンはディアボルス号の船室で干し肉をかじりながら地図を見ていた。内陸部にある標的はジスラールに残った者に任せて、海沿いはこちらが担当する。
「それにしてもなー、あの大金持ちだったジョスランが盗賊の真似事とはね。食事もクラッカーに干し肉にチーズ。」
クレマンが嫌そうに干し肉をひらひらさせる。
「仕方ないだろう。海沿いの別邸に秘密裡に隠してあった金塊を南部のサージェス伯爵に送ったんだから。お前も頭痛薬でも作って売れよ。」
「へいよ。」
盗賊をしながらもジョスランはベルジュラックが持っていた商会を一旦解散させ、クリフが偽名を使って代表となり看板を掛け替えた。商売も引き続き行なっているが、実際に仕事をしているのはいずれも以前から商会に勤めていた信頼できる手練れであり、クリフがラウリーヌの捜索や裏の仕事をしていてもしっかり商売をしてくれているだろう。
このディアボルス号の水夫たちも、かつてベルジュラック所有の貿易船で働いていた者たちだ。
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「カエルム、頼んだぞ。」
ジョスランは大空に鷹を放った。艶やかで大きな翼を広げた鳥はジスラールの街並みに向かって消えていった。




