バルティ③
深夜の冷たさの残る空気の中、フード付きのマントですっぽりと姿を隠したラウリーヌはリオンと共に馬に乗り処刑が行われる広場へと駆けていた。
「だめだ、これ以上は近づけない。」
街は大金持ちである大貴族の処刑を見ようと、異様な興奮に包まれた人々が押し寄せ、道という道は人で埋めつくされていた。
おそらく、ジョスランは既に処刑場近くまで護送されているだろう。
「降りるわ。」
「だめだ。こんな人混みの中、近づけるわけがないだろう。」
「大丈夫よ、教会の裏から回れば……!」
「あっちは封鎖されている。」
リオンは身を捩るラウリーヌの体を左手でぐっと抱え込み、右手で手綱を引いて裏通りやら人家の庭を抜けて広場に面したある建物に近づいた。
「ここは俺たちの隠れ家の一つだ。……暴れるな。もう諦めろ。」
階段を上がって二階に上がり広場に面した窓を開けると、膨れ上がるように集まった人々の中から怒号のような声が広がっている光景が広がる。その多くは聞くに耐えない、よく知りもしないジョスランを貶める言葉だった。
ラウリーヌは唇を噛み締め、外に飛び出そうとしたところをリオンに押し留められた。
広場の向こうの教会の前には舞台のようなものが作られ、設置された無機質な絞首台が周囲に灯された松明でぼんやりと浮かび上がっている。
普通、高位貴族の処刑は尊厳を守るために貴族牢の中で毒杯をあおる。謀反など重罪を犯した場合はギロチンだが、それは苦しみを長引かせないための配慮でもある。
絞首刑は、高位貴族としての尊厳も踏みにじり見せしめにするものだ。暗黒時代のように城壁にぶら下げられ晒されることはなくなったが、それでも最大限の辱めである。
ラウリーヌは血が滲みそうなほど手を握りしめた。
寒々とした絞首台とは対照的に、少し離れた建物の二階バルコニーは白い布と花で飾られており、肩肘をついて物憂げなローランド国王と怯えながらも気丈に座っているキャレル王妃、表情の読めないアンジェル王妹がいる。
そこだけ異空間のように美しいが、ラウリーヌの目には悪魔が座っているように見えた。
広場に集まった人間たちの声はどんどん大きくなっていく。地鳴りのように沸き起こる声は空気を震わせるようだ。
(うるさい……。うるさいうるさい! 殺してやる……! 私のジョスランを……ジョスランを辱める奴ら、許さない!)
ゆっくりと空が明るくなる中、広場に鐘の音が響き渡る。早朝だというのに観衆の興奮は最高潮に達していた。
ラウリーヌの後ろに立ったリオンは冷めた気分でその光景を見ていた。
(王になってこの民衆を治めろと? うんざりするな。)
絞首台に、後ろで手を縛られた長身の黒髪の男が引っ張られて上った。どうやら布で目隠しをされており、左足を引きずりながらゆらゆらとおぼつかない足取りだ。
「……ジョスラン……! ジョスラン! ジョスラン!!」
窓から放たれるラウリーヌの絶叫は観衆の怒号に呑まれていく。
紙を広げた執行人が巻かれた紙を広げて読み上げ、男の首に縄がかけられた。
「見ない方がいい」と窓から離そうとするリオンを振り切り、ラウリーヌは精一杯腕を伸ばし、絶叫した。その声は民衆の叫び声に溶けていくが、それでもラウリーヌは愛する人に届くよう、心の底から叫び続けた。
「嘘よっ、待って、待ってジョスラン! 私も行くから! 置いていかないで……っ!!」
男の足の下にある板が取り外された瞬間、ラウリーヌは崩れ落ち、少し濡れたハンカチを持ったリオンがそれを抱き留めた。
「ごめんね、ラウリーヌ。君に彼を追いかけられたくはないんだ。」




