夜の城①6
娘の名はアネットといい、踊り子をしている。
『夜の城』が名前を隠して経営する酒場で踊り、その場にいる上流階級をもてなして情報を得る仕事をしているのだ。
成長するにつれ、もてなす以上のことを要求する客も出てきた。
そんな客をあしらうたびに思い浮かべるのは『夜の城』の絶対的君主であり、輝く容姿を持った美貌の男。
彼のことを想うと多少のことは我慢できた。
『夜の城』の女たちはもれなくリオンに恋をしているが、アネットもリオンに恋焦がれていた。
ある夜、リオンが酒を飲んで物憂げにいたところを勇気を出して声をかけた。
一晩をともに過ごし幸せを噛み締めていたところにリオンの冷めた呟きが降ってきた。
「同じ金髪でも違うんだな……。目も薄い茶色だが琥珀色ではないし……。」
リオンのため息に愕然としていると、彼は立ち上がって部屋から出て行った。
その後、何度か部屋に呼ばれたが、彼の心にあったのは自分ではなく、今この塔にいる女。
なにもなかった部屋を美しい調度品とファブリックで整え、他の誰にも触れさせない彼にとって特別な女。
アネットの心に妬ましさと羨ましさと、暗い憎しみが膨張していった。
*
リオンはラウリーヌの願いをのらりくらりとかわした。どのみちシリル監獄などというものに盗賊団ごときは手も足も出ない。
ラウリーヌの世話は全て自分がすると宣言したリオンであったが、立場的にラウリーヌのそばにずっといることもできず、アネットの言うように湯を使う時や着替えなどはラウリーヌから拒否されたこともあって、ジャンの妻アンヌに頼むことにした。
アンヌは王宮の王弟一家が住んでいた宮の侍女で、貴族の令嬢の世話にも長けている。
ラウリーヌも母親ほどの年齢のアンヌには気を許したようだ。
*
「アンヌ、塔のお嬢さんのところに行くの?」
螺旋階段に繋がる扉の前で、アネットはアンヌを待ち構えていた。
「ええ。でも悪いけどリオンさまと私以外は近づけないわよ?」
「わかってるよ。……で、どんな人なの?」
「……とても綺麗な人だとしか言えないわね。」
「もしかして……金髪に琥珀色の瞳?」
アンヌは目を見張った。
「やっぱりね。ふうん、そう。」
少し高級な店で踊っていた時に貴族たちの噂話を耳にしたことがあった。
南部の大金持ちで変わり者の公爵が婚約者を連れて十五年ぶりに宮廷に参内したと。相手は純金かと見紛うほどの金髪と琥珀の瞳をした、黄金に輝く妖精のように美しい女性だと。
貴族の名前は確か……。
「ベルジュラック公爵……。」
「もういい? アネット。」
「あ、うん、引き止めてごめんアンヌ。じゃあ。」
アネットは高揚した気持ちで『夜の城』を出た。
そう、ベルジュラック公爵は明後日処刑される。街で号外を配る男が大声で叫んでいた。
アネットは字が読めないけれど、道端にひらひらと捨てられていた号外を拾い、本屋で街の情報誌を買って中に取れないように貼り付けた。




