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きっと、そばに  作者: ミソラ


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夜の城①5

『夜の城』の一室、リオンは大きな肖像画の前に立っていた。亡き父母と十三才のリオンが描かれている。


「まだ残っていたのか。」

 

 リオンがサージェスに発つ直前に描かれたものだ。

 絵の中の父母は美しく凛々しい中にも慈愛を含んだ表情をしている。


「はい、それからこれも。」

 ジャンは紺色のビロードの布に包まれたペンダントをリオンに渡した。


 王家の者であることを示す鷲の紋章を象った金のペンダント。

「お父君の遺品でございます。」


 リオンはするりと服の中から自分の首に下げられた同じペンダントを取り出した。

 両方の鷲の目には王弟一家の色であるルビーが嵌められている。


 リオンは二つのペンダントトップをじっと見つめ、抗えない人生を思い知った。


 *


『夜の城』では新入りのリオンを若輩者と侮り、闘いを挑んでくる者もいた。

 幼い頃より剣の鍛錬を受け、サージェスでは国境を守る騎士たちに師事していたリオンにむやみやたらと剣を振り回す者たちが敵うわけもなかったし、ジャンをはじめとした『夜の城』の幹部たちががリオンに傅き、崇めるように守っているのを見て、徐々に態度を改めた。


 リオンも「国王に対抗するにはそれなりの覚悟が必要」と、さらに剣や武器の鍛錬や政治経済の勉強を始めた。

 もっともこれはリオンにとって時間稼ぎであった。

 

「王権奪取」など見果てぬ夢だ。だがその夢が生きる糧となっている仲間たちから夢を取り上げる事はできない。


 さりとて国王から狙われている事実は変わらない。

 娼婦や暗殺者まで使い、王族や貴族の動きを探った。


 でもいつか、サージェスに戻りラウリーヌに会いたい。そのためには『夜の城』で絶対的な存在にならなくてはならない。


 リオンは『夜の城』の王として君臨する。


 そう思いながら年月が過ぎていく中、ラウリーヌが婚約者と共に王都に上がってくるという情報を得た。


 *


 ラウリーヌの婚約者、ジョスラン・マルユス・ベルジュラック。

 南部を支配する諸侯であり、貿易で莫大な資産を築いた男。

 体が不自由で公の場にも滅多に姿を現さず、様々な噂が飛び交う男。

 

 体を壊す前は従兄弟ローランドの側近候補として参内していたらしいが、リオンと顔を合わせることはなかった。そのくせジョスランの父はリオンが南部に移る時は支援を申し出た。

 

 だからローランドを庇って毒に侵され、南部のベルジュラックの屋敷の中、座るのもやっとな姿しか思い出せない。


 内乱の後、煽りを喰らったゴーチェの領地を支援し、その見返りとして美しいラウリーヌと婚約した。


 愛のない婚約、そう思っていたのに。


 目の前にいる、思い出よりさらに美しく成長したラウリーヌは、やっと再会した自分よりも婚約者のことばかり。


 リオンはラウリーヌに甘い毒の言葉を囁いた。

 

「わかったよ、ラウリーヌ。君の大切な婚約者殿の情報を集めてきてあげる。もちろん、屋敷の人間やメリザンドのこともね。君はそれまでここで大人しく待っているんだ。」


 *


 リオンがラウリーヌの部屋から出ると、まだあどけなさを残した顔に派手な化粧を施した美しい娘が立っていた。


「リオン、その部屋にいる人はだぁれ?」

「……。」

 リオンが娘の脇を通り抜けると、娘はリオンにまとわりつくように一緒に階段を降りる。

 

「ねぇ、よかったらあたしがその人の世話をしてあげる。いいところのお嬢さんなんでしょ?」

「余計なことはするな。彼女の世話は俺がやる。」

「リオンが? で、でも女同士じゃないと難しいこともあるよ。」


 螺旋階段を降り切ったところでリオンは冷たく言った。

「この塔には誰も近づけさせない。お前も二度と近づくな。」

 娘はびくりと後ずさった。

「……っ、リオン、あたしは……。」


「少し相手をしてやったぐらいで図々しい。死にたくなければ言われた仕事だけしていればいい。」

 リオンはそう言って螺旋階段に続く鉄の扉を閉め、がちりと錠をかけ去って行った。

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