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きっと、そばに  作者: ミソラ


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夜の城①4

「イーヴさま、約束通り迎えに参りました。ご立派になられて……。」

 目尻に涙を浮かべる男にリオンは吐き捨てるように言った。

「今の名はリオン・サージェスだ。」

「はい、リオンさま。参りましょう。皆が待っています。」


 話の通じないジャンに失望する。


「なぜ行かなければいけない? 父も母ももうこの世にはいない。私は一貴族の子息として生きていく。」

「何をおっしゃるのです。リオンさまは第一王位継承者というお立場。来年には成人なさいます。お父上の無念を晴らす時が来たのですよ!」


(なにが父上の無念だ。勝手に担ぎ上げ逃げられないようにしただけじゃないか……!)


 学校を卒業したらラウリーヌに婚約を申し込み、サージェス伯爵として平和に暮らすことを夢見ていた。


 リオンは視線を下げ、自分の周りに跪くジャンをはじめとした亡き父の臣下たちを冷めた目で見下ろした。


 *


 ジャンは内乱の後、王弟に従っていた者たちを連れて廃墟となっていた砦に隠れた。

 

 王弟派が倒れ、敬愛する王弟と奥方が毒によって処刑され、自身も謀反人となり追われる立場になった。

 

 だがまだ希望はある。

 

 イーヴ・リオネル・ジスラール。

 

 王弟殿下と侯爵家の奥方の間に生まれた、正統であり現在唯一の王位継承権を持つ少年。


 王太子派も躍起になって探しているらしいが、南部のサージェス領にいる間はまだ安全だ。

 南部をまとめるベルジュラック家は内乱において中立の立場を守りながらイーヴ・リオネルの支援をしてくれている。


 だから力を蓄えて迎えに行くのだ。


 ジャンは貧困に喘ぎ、即位した新国王に呪いの言葉を吐きながら犯罪に手を染める者たちを取り込んでいった。


 いつしか『夜の城』と呼ばれるようになる砦に巣くい、恐れられながらも義賊と慕われる盗賊集団となった。


 *


 長くイーヴ・リオネルの周囲を監視していると、すっかり南部に溶け込みサージェスの養父母を敬う普通の貴族の子息となっていた。

 子爵家の娘と親しく接する姿を見て、もしや王弟殿下や妃殿下をお忘れになったのかと恨むような気持ちにもなる。このままでは素直に戻ってくれないだろう。

 それにいずれ国王の追っ手も迫ってくる。

 

 月日が経ち、機会は訪れた。


 *


「なにも殺すことはなかったんじゃないか。」

 リオンは血だらけで事切れているサージェス家の従者や護衛を見た。

 

「こうでもしなければ難しいと思いましたので。それとも……なんと言いましたか。仲良くしていらっしゃるお嬢さんがいましたね?」

 リオンは心底軽蔑するような目でジャンを見やった。

 

「……卑怯者が!」

「なんとでも。この国を救うためなら些細なことです。……リオンさま、この国は危機に瀕しています。国王とその周辺が復興のためと増税を繰り返し民は疲弊しております。」

「わかっている。わかっているが買い被りすぎだ。私はまだ若く力もない。それに父とは違う。」

「いいえ、あなたは私たちの希望です。」


 リオンは目を伏せて立ち尽くした。話にならない。だが、この狂信的な男たちは決してリオンを諦めないだろう。

 それはサージェス家やラウリーヌに危害が及ぶ危険があるということだ。

 

 リオンは、次に顔を挙げた時には覚悟を決めて馬に跨り、フードで銀色の髪を隠して南部を後にした。

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