【6】
2021年最後の投稿です!
ていうか、今年中に終わらなかった…。
即答したジーンを見て、こういうところはぶれないなと思う。とりあえず、メイの隣に座ってくれた。メイはジーンとルーシャンにはさまれている形になる。ちょっと復活したのか、自分で作ったケーキをほおばり始めた。
「ああ、うまいな」
ジーンがちょっと驚いている。シャーリーが「あんたは食べたことなかったっけ」と口を開く。
「メイはお菓子作りがうまいわよね」
「貴族の道楽だな」
確かに、甘い菓子は貴族が口にすることが多い。
「普通の貴族令嬢は厨房に入らないものだよ。うちは金持ちだったから、余計にね」
入るのは普通じゃない男爵令嬢だったメイだからだ。
「あー、確かに。うちは名ばかりの貧乏貴族だったから、普通に出入りしてたけど」
「えっ。そうなの?」
シャーリーの言葉に、ルーシャンは驚く。彼の向かい側でニーヴが新しい紅茶を淹れ始めていた。茶葉を計っている。
「そうだなぁ。兄弟も多かったしね。正直、実家は私たちが飛び出していって、ほっとしてるだろうな」
トラヴィスまでそんなことを言う。トラヴィスが婚約者を殺されて家を飛び出してきたことは聞いているが、そういえば実家自体の話を聞いたことがない。
「私たちがいたころはぎりぎり踏みとどまっている感じだったけど、今どうなってるのかしらね……」
シャーリーがしみじみと言う。ウィンザー男爵家はメイが爵位を売り払ってしまったためもう現存しないが、コーエン伯爵家はトラヴィスの兄が継いでいるため、存続している。連絡くらい取りあっていないのだろうか。
「王都では見なかったな。一応、主要な貴族の名前は頭に入れていたんだけど、その中にもなかったと思う」
「あー、もう没落したかなぁ」
トラヴィスはあまり気にしていなさそうに言う。それはそうか。だって、もうすぐ子供が生まれるので幸せの絶頂だし。
「ていうか姉さん、貴族の顔と名前一致するの? 人の顔覚えるの苦手だったじゃん!」
ウィンザー男爵家では、新しく入った使用人は名前を呼び間違えられるのが常だった。しかし、メイは
学習能力のある方なので、二度も間違えればそれ以降は間違えなくなる。むしろ、顔を隠していても見つけてくるので、ちょっと怖がられるようになる。
「しない。お前を連れて行けばよかった」
「それは嫌だよ」
「お前たち、似てるな……」
呆れたようにジーンが言ってのけた。そういうのはジーンくらいである。ニーヴが紅茶を淹れて、注いでくれた。
「ありがとう、ニーヴ。姉さんは?」
「飲む。ありがとう」
自分のカップを引き寄せてメイが礼を言った。シャーリーにもお代わりを注いでいる。
「そういえば、レニーから姉さんに会ったって手紙来たよ。会ったんだね」
ウィンザー姉弟の一番下の弟だ。今十五歳で、寄宿学校に通っている。ルーシャンと同じくリッジウェイ夫妻に養子に出されたので、夏休みの今はともに王都の屋敷にいたのだろう。
「ああ、会ったな。大きくなっていた」
「姉さんが最後にレニーに会ったのってあの子が十歳くらいの時じゃん! 僕だって大きくなってるよ!」
「確かに」
この、たまに抜けていると言うか、天然なのかわからない発言が増えてきている。トラヴィスが噴出して、むせた。子供が大きくなるのは当たり前だし、五年もリッジウェイ家を避けていたのはメイだ。
「すごく、身長を気にしてた。姉さんより小さかったって」
「十五歳だろう。五フィート五インチなら、そんなものじゃないか? 知らないけど」
「まあ、平均的だとは思うよ」
「お前らがでかいんだろ。姉ちゃんも兄ちゃんもでかいんだから、自分もって思うんだろ」
レニーに理解を示したのはジーンだった。メイは揺さぶっても何も出てこないので、ジーンに話しかける。
「ジーンもレニーに会ったんでしょ。姉さんが恋人を連れてきたのかって、手紙で」
今度はジーンがむせた。わかりやすいな。その隣でメイはすまし顔で紅茶を飲んでいる。こっちは読めん。
「同僚だと言った」
「いや、年齢の釣り合う男女が並んで歩いてたら、恋人かしらって思うわよ。メイは背は高いけど、顔立ちは柔らかいものね」
シャーリーの言葉に、メイは顔をしかめた。基本的に無表情仏頂面が多い彼女だが、シャーリーの言う通り、女性らしい柔らかな顔立ちなのだ。優し気で、穏やかそうに見える。だからたぶん、無表情なのも周囲に対するけん制なのだろうな、と思う。中身はこれだが、笑うと途端に優し気になるのだ。
「昔は笑う方だったから姉さん、モテたよね……」
「何それ。それは知らん。お前が変態貴族に連れて行かれそうになったのは覚えているが」
「それはやめて!」
ニーヴが興味津々でメイの方に身を乗り出しているのが辛い! 女性陣はこういう話題に強いのか、シャーリーも「何それ面白そう!」と乗り気だ。
「まあ、昔のルーは可愛かったという話だ。こう、女の子のようで」
「これだけ美男子だものねぇ。なんとなく想像できるわ。写真とかないの?」
「探せば出てくると思うけど」
メイはいったい、家財をどこに処分したのだろう。必要なものはリッジウェイ家に預けられているけど。
「美形ってのも、人生大変だな……」
「貴族って結構、そういう変質者的な奴多いんだよな」
ジーンとトラヴィスはルーシャンに同情的だった。過ぎたことなので女性陣は楽しんでいるが。
「僕のことはいいよ。姉さんがモテた話をしよう」
「それも興味ある」
シャーリーが食いついてきた。よほどメイは自分の話をしないのだろう。メイは止めようにも、「そんな話は知らん」ということなので、止めようがないらしい。
「まあ、十代前半のメイは朗らかで愛想がよかったし、可愛い部類だったよね」
トラヴィスが思い出すように言った。そうだ。オーダーに来てからもメイはしばらくは朗らかな彼女のままだったのだ。
「兄さんって、ロリコン?」
これにはさしものルーシャンも噴出した。ニーヴもプルプル震えて笑うのを我慢している。妹に爆弾発言をされたトラヴィスは、妹の頬をつねり上げた。動揺しなかったのはメイだけだ。
「シャ、シャーリー。さすがにそれは可愛そうだ」
「お前にかわいそうな人扱いされたくないぞ、ジーン」
「いや、ジーンは残念な男だ」
「それこそお前に言われたくねぇわ!」
十二人会議のメンバーだからと言っても、特段中身はこんな感じのようだ。ジーンに突っ込み返されたメイが「私が変人だと言うのはわかっている」と真面目に言うので、ルーシャンが姉の肩を叩いた。
「たぶん、そうじゃないと思うよ、姉さん」
変人とか奇行とか、そういうのを抜きにしてメイが残念なのはなんとなく理解できた。そういう姉が好きだから、ルーシャンは気にしないが。
「それと、私はロリコンじゃないからね。幼いメイは可愛かったよね、というだけで」
多分、妻のキャリーと年が離れているからのシャーリーの暴言なのだと思うが、トラヴィスは無罪を主張している。シャーリーも「言ってみただけよ」と笑うので、たぶん、兄妹のじゃれあいの範囲内だ。
「あっ!」
メイが突然立ち上がった。ティーカップを持ったままだ。何かひらめいたらしいが、先ほどから注目を集めているので、かなり目立っていた。
「姉さん、カップ放して」
「とりあえず座ろうぜ」
ルーシャンがメイからティーカップを取り上げ、ジーンがメイを座らせた。というか、ジーンが触れても手を振り払わなかったことに触れるべきだろうか。以前のメイなら、確実に振り払っていた。
「どうかした、メイ」
「いや……先ほどの件だが、シャーリー。人が足りないのは仕方がない。切捨てよう」
「待ってちょうだい。急に仕事モードにならないで」
先ほどまで和やかに談笑していたのに、急に仕事モードになったメイについていけないシャーリー。ルーシャンはニーヴと目を見合わせてテーブルの片づけを始めた。使うのは自由だが、すべてセルフなのだ。
「待って! 私はあんたと違って頭の中に地図なんて入ってないわ! 図面! 図面見ながら話しましょう!」
矢継ぎ早に指示を出されても付いていけないシャーリーがついに叫んだ。ジーンが呆れたように首を振り、トラヴィスは「アーノルドにも確認しなよ」と口をはさんでいる。
「ニーヴ、片付けに行こう」
ニーヴがこくんとうなずく。ずいぶん休憩が長くなってしまった。メイの頭の中を整理するのに付き合っていたのだ、と言ったら許してもらえるだろうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今年最後の投稿でした。次は年明けすぐ、元日に投稿するので、よろしければ覗いてやってください。
皆様、よいお年を!




