表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第5章【9月・夏の夢(決戦)】
47/124

【5】












 結果的に、姉は朝からシードケーキを焼いていた。オーブンの前であくびしていたが。ルーシャンはさんざんお前はシスコンだ、と言われてもうシスコンでいいよ、と思っているが、メイもなかなかブラコンだと思う。嫌なわけではない。


「ねえ、城で食べようよ。今日のティータイムでさ」

「別にいいけど」


 ニーヴと朝食を作りながらルーシャンが言うと、メイはケーキの焼け具合を見ながらうなずいた。


「ジーンも呼んで、ティータイムにさ」

「お前はなんでそうジーン推しなの」


 ケーキをオーブンから取り出して覚ます用意をしながらメイは言った。ルーシャンは「え?」という。

「姉さん、ジーンが好きでしょ」

「まあ嫌いではないな」

「王都で何かあったんじゃないの」

 親密度が増している気がするのだが。昨日も聞こうと思ったが、メイに会話の主導権を握られてしまったので聞けなかった。結果的に、ニーヴと恋人同士になれたわけだが、ジーンにヘタレだと言っておきながら、自分も人のことを言えないな、と思った。


「人間的には好きな方なのだろうな。だが、お前が求めているのはそういうことではないだろう」


 ちゃんとわかっているのだな、と思いながら紅茶の茶葉の種類を尋ねたメイに、「ミルクティー」と答えた。メイがアッサムの茶葉を取り出す。時間がないので簡易的な方法だが、ちゃんと湯を沸かして温めたミルクを入れてくれる。


 簡単な朝食を食べ、メイが作ったケーキや、ついでにクッキーなどもバスケットに詰める。そのまま三人で城に向かうことにしたが、ニーヴが何やらもぞもぞしている。メイが持っていたバスケットを取り上げる。持ってあげるのかと思ったら、左手にあったそれを右手に持たせた。


「あ、持ってあげるわけじゃないんだね」


 思わずツッコむ。ニーヴはにこっとして、左手でルーシャンの右手を、右手でメイの左手を取って二人と手をつないだ。とても楽しそうである。二人と手をつなぎたかったらしい。小さい子みたいで可愛い。すれ違ったお姉さんにも、「ニーヴちゃん、両手に花でご機嫌ね!」などと言われている。ニーヴもまんざらではなさそうだ。


「あんたたち、その状態でここまで来たの?」


 メイの家から城の入り口までそこそこ距離はあるが、歩いていけなくはない。メイとニーヴは健脚なので、むしろルーシャンがちょっと大変なだけだ。

 エントランスで待っていたのはシャーリーである。メイを待っていたらしい。メイはちょっと遠い目になった。

「ほら、あんたは仕事。ルーシャン、ニーヴ、お姉ちゃん借りてくわね」

「どうぞ。姉さん、アフターヌーンティー、忘れないでね」

「はいはい」

 シャーリーに引っ張られていくメイがバスケットを持ったままだ。執務室のある、彼女が持っていた方がいいだろう。


「ニーヴは今日の予定は?」


 ニーヴは基本的に戦闘員なので、鍛錬をしていることも多いが、書庫の整理を手伝っていたり、送られてきた情報を地図に書き込むのを手伝ったりもしている。万年人手不足なのだ。そして、今日は書庫の日らしい。

「じゃあ、お茶の時間に姉さんのところでね」

 こくん、とニーヴがうなずくのを見て、ルーシャンは医療区画に向かった。現在、この城の中にいるけが人の中で最も重症なのがジーンとメイであるが、ふたりともけろりとしているので、比較的仕事が緩やかである。


 だが、メイはそうはいかなかったらしい。ちょっとワクワクしながらメイの執務室を尋ねると、執務室は書類の海だったし、メイは朝出てきたときと服が変わっていた。背の高い彼女は男物を着ていることも多いが、華奢なので肩などが余ることがある。まさにそんな感じで、それはメイの私服ではないだろう。さすがに。途中で着替えたのだ。

 なんでも、さすがのメイも処理能力が追い付かず、叫んで窓から飛び降り、裏庭の池に頭から突っ込んだらしい。もはや奇行、変人というより狂人である。着替えたのはそのためだ。


「姉さん……姉さんの頭が処理落ちするって、すごい状況だね……」


 さすがのルーシャンもちょっと引いた。姉の奇行にではなく、姉の頭脳が処理しきれない事態にある、ということに引いた。それってやばいのでは。

「もう一人、せめて私の半分程度、同じ考え方ができるやつが欲しいな……」

 遠い目で言った。そんなメイが分裂したみたいなやつがいたら嫌だ。

「姉さんは一人でいいよ」

「そういう問題じゃない」

 一応姉の体を確認して、どこも怪我などはなさそうだ。飛び降りた窓はそこの窓だろう。ここは三階だが、城なのでそもそも天井が高い。そこから飛び降りたのに無傷ってどういうこと。昔から木に登って飛び降りてはいたけど。

「要するに煮詰まってるのよ。アフターヌーンティーにするんでしょう。場所を移しましょ。私もご相伴にあずかっていいのよね?」

「もちろん」

 てきぱきとメイが今朝持ってきたバスケットを持ち、シャーリーは言った。ルーシャンも否やはない。日々、姉が迷惑をかけているので。執務室を出たところでニーヴと合流した。

「そういえば、ジーンって城にいる?」

「どっかにいるわよ。そのうち兄さんが連れてくると思うわ」

 さすがシャーリー。メイをよくわかっている。ルーシャンはニーヴと手をつなごうとしたが、彼女はもじもじと避け、メイと手をつないだ。メイもニーヴに甘いので振り払わない。というか、メイは年下と女性に甘い。


 場所を移して、広い廊下に出されているカフェエリアの丸テーブルを二つくっつけて座る。シャーリーがお茶を貰って来てくれた。食堂もあるが、こちらの方が雰囲気があるので。


「あら。相変わらず上手いものね」


 シャーリーが、メイがナイフを入れる彼女作のシードケーキを見ながら言った。メイは淡々とさらに分けてくれる。煮詰まっているのは本当のようだ。


「姉さん、水に突っ込む以外のストレス発散方法考えなよ。あ、おいしい」


 久々の姉の手作りケーキに顔をほころばせつつ、ルーシャンが指摘すると、メイはフォークを持ったまま言った。

「いや、あれは自分で考えてもおかしかった。はあ……」

 シャーリーはニーヴと「おいしいわね」とケーキをほおばっていたが、一応、自分の上司?を擁護した。

「いや、王都に行く前に比べたらだいぶ落ち着いてるわよ。だから油断したのよね……前なら飛び降りる前にとっ捕まえてたわ」

 私は三階から飛び降りれないもの、とシャーリー。まあ、そうだろうな。


「やあ、楽しそうだね。私たちも混ぜて」


 トラヴィスが本当にジーンを引っ張ってやってきた。どうぞ、とルーシャンがメイが何か言う前に許可を出した。尤も、普段庭をかけてテンションの低いメイは何も言わなかったかもしれないが。

「シードケーキだよ」

「俺、甘いものは」

 メイの雰囲気が剣呑だからか、ジーンが及び腰だ。トラヴィスは妹のシャーリーにケーキをサーブしてもらって食べる気満々である。


「そんなに甘くないし、姉さんの手作りだよ」


 食べないの、とルーシャンが問うと、ジーンは「食う」と即答した。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


相変わらず、メイの奇行を考えるのが難しい。

恥ずかしがるニーヴ。そして、ぶれないジーン。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ