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魔王の宿屋へようこそ!  作者: 風鈴くぅ
宿屋開業編
7/21

06話 料理でGO!(後編)

 逃げようとした俺は簀巻きにされ、さらに目隠しまでされてしまった。目の見えない俺が、料理の現場を中継しよう。


 開始直後、両者から野菜を引きちぎる音が聞こえてきた。包丁を使わず手で千切った方が、ドレッシングとの絡みが良くなると言うからな。うん、順調順調。時々マンドラゴラの叫びのような声が聞こえてくるのは、気にしなくて良いだろう。良いはずだ。


 気が付けば、血なまぐさい。今度は肉料理か。肉が引き千切られる様な音がして来た。「ママンさよなら」「助けてくれぇ」とか聞こえる気がする。・・・そんな事あるはず無いが、美少女達が生きた動物を引きちぎる光景が脳裏に浮かぶ。


 次は火を使った料理か。おやおや、火竜(ファイヤードラゴン)のブレスのような、ゴーっと言う音は何だろう。辺りが燃えるような、きな臭い匂いもしてきた。はっはっは。どんな火力勝負な料理をしているのかね?中華の鉄人も真っ青な火力だよ?


 おや、次は盛り付けかな?べちゃ!ベチャ!と何か湿ったモノを壁に投げつけている様な音が・・・。もしかして盛り付けか?見えなくて良かった。見てたら気絶していたかもしれない。


 あぁ神様!今まで信じてなくて御免なさい。どうかこの最悪のイベントが終わっても、命がありますように・・・。などと神様に祈りつつ、人生18年分を振り返っていた頃、調理終了のゴングが鳴った。いつの間にかキョクセンが復活している。なかなか丈夫なヤツだ。


「両者そこまで!なかなか刺激的で独創的でパンチもキックもありそうな料理が並びました!両選手の解説を聞いてみましょう」

「料理とは破壊よ!すべてを破壊して、そこから構築していくのだわ!まさしくアートよ!」

「いいえ、料理とはインパクトです!これまでの記憶をふっとばし、新たな味の世界に旅立てるようなインパクトこそ必要なのです!これぞ味覚の世界旅行や~なのです!」


 外野もざわついている。これは予想以上かもしれない。すべてが終わる頃、俺の胃袋は破壊され、記憶をふっとばし、味覚は一新されるそうだ。平和的に終わらせる事は出来ないのだろうか。勇者様!世界を平和にして下さい!


「おいおい料理って動くもんだったか?」

「色の3原色を超えた、新しい色が発見されたかも・・・!?」

「これを口に入れれるヤツ、まさしく勇者だな!どれだけの覚悟がいるんだ?」


 ガヤが聞こえてきた。どうやら俺が勇者だったらしい。べつに覚悟なんかないです。味覚の追求とか暑苦しいもの、俺は持ち合わせていませんから。


「それでは特別審査員(ヒナタ)、意気込みを聞いてみましょう」

「モゴー!ンモゴー!」

「意気込みは十分のようです!それでは開始しましょう!」


 俺の猿轡が外された。()()()()()()()()なのは優しさだろうか。悲鳴も哀願も猿轡に阻害されていたが、今なら腹の底から言える。”助けて”と。声を出す為に口を大きく開けて息を吸った。


「がぼっ!ががぼぼっ!!」


 その瞬間、口の中に土臭い繊維質の何かが押し込まれてきた。気管に入って咳き込むが、後から後から押し込まれてくる。口から出なかった席が鼻水と一緒に鼻から出てくる。


「ああ~っと!最初はサラダからだ!両者、目の見えない特別審査員(ヒナタ)に食べさせてあげる優しさだぁ!他の審査員は全て辞退されましたので、特別審査員のみの栄誉です。覚悟を決めてお食べなさい!」

「サラダにはコレだけじゃ無いのです!この採れ立て新鮮のマンドレイクの活け作りで勝負をかけるのです!」

「ちっ!そんな手があったとは!出し抜かれたわっ!」


 スイセンの手にはウネウネ触手を蠢かすマンドレイクが握られている。その頭部からドレッシングを直接ぶっ掛けて、俺の口に捩り込んで来た。マンドレイクが奇怪な雄たけびを上げる。


「クケェェェェェ!!キケェェェェ!!」

「俺は、飛んでいるのか・・・?」


 俺の意識が飛んだり、正気に戻ったりと忙しい。何とか唾液と一緒に口から吐きだし、死なずにすんだ。


「おいぃぃぃ!確かマンドレイクって有毒だろ?誰か口を濯ぐ為の飲み物を持ってきてくれ!」

「あらイケナイ!すぐにお持ちしますね!」


 口に熱々のスープが流し込まれた。溜まらずに吐き出すが、次から次に流し込まれる。息が出来ない。


「出汁はどうかな?カジカ型魔獣を一晩煮込んだのだけれど。仕上げは東方から取り寄せたMISOと言うもので仕上げたのよ?あなた東方出身でしょ?故郷を思い出すかしら?」


 話しながらどんどん口にスープを流し込む。

 俺の舌はもう爛れてしまって、味を感じる事が出来ない。


「分かった!ぐぇほっ!分かったから。ごほごほっ!美味いから。美味いからぁ」


 我ながら情けない声が出た。これは最早、命乞いだった。


「あ~ら、ヒマリさん。何かしらこの、塩気の強すぎるMISOスープは?宅の坊ちゃんを病気にして、財産を奪うおつもりかしら?」


 何か変なスイッチが入ったスイセンが、にじり寄って来たのが分かった。何か怖い。


「宅の坊ちゃんは昔からコレが大好きだったのよ!ぽっと出の泥棒猫が、故郷の味とか言い出さないでくれませんか?」


 無味無臭、だけどドロドロした液体が流し込まれてきた。しかもぬるい。熱すぎるのも嫌だが人肌のヌルヌルも最悪だ。味覚が死んでいるので。毒かどうかも判断付かないが、死ぬ気で飲み込んだ。今のスイセンに抗うのが怖かったからだ。


「ほ~ら、()()()()もありますよ。たっぷり召し上がって下さいね!」


 返事が出来ないほど高速でスプーンが動いた。目隠しが無ければ、きっと残像も見れただろう。そんなスイセンの頭を、ヒマリがポカリと叩いた。止めてくれたのか、ありがとう!


「スープでお腹いっぱいにしちゃ、メインディッシュが入らないでしょ!?私の勝負は今からよっ!」

「・・・はっ!?私、今まで何を・・・。マンドレイクの叫びを聞いてから、なんかボゥっとしてしまって・・・。」

「そんな事より!メインディッシュよ!目で楽しむ物を用意したから、目隠しを外すわよ」


 スッと視界が明るくなった。涙で滲んだ視界に、さっきまで口に入れられた物が入ってきた。

 枯れ草と言うか、藁のようなサラダ。茶色の液体に何かの骨が浮かんだもの。緑の葉っぱをすり潰した様な、原色緑のスープ。地面に転がって痙攣している一口齧られたマンドレイク。


「そんな物より、これよ!コレを見るのよ!」


 赤い大きな布で覆われた一角。それを華麗に捲り上げた。現れたのは・・・。


「ぷぎぃ、ぷぎーぃ」

「子豚(風の魔獣)の香草丸焼きよ!」


 子豚のような魔獣が、口内に香草を、簀巻きにされた全身にも荒縄の間に香草を大量に突っ込まれていた。涙を流しながら命乞いしている。これはアウトでしょ?


「こんな凄い物を最後に用意してあるなんて!流石ですねヒマリさん。それに比べて、私のメインディッシュは普通すぎて・・・。でもまだ敗北した訳じゃありません!肝心なのは味ですっ」


 膝を突きかけたスイセンが、目に涙を貯めながらこっちを向いた。味の大事さに気づいたのは良かったけど、一日ばかり遅かった気がするよ。


「まっててね、今食べさせてあげるから。それでは点火式!」


 子豚風魔獣の足元にくべられた薪に火が入れられた。もう拷問だ、見てられない。誰か目隠しを再び俺にしてくれないか?


 秋の寒空に、子豚の悲鳴が響く。もう俺は涙で前が見えなくなっていた。


 そんな時、ズドーン、ズドーンと地響きが近づいてきた。しかも左右から。そのままでは此処で地響きがぶつかってしまうのでは、などと考えていた。


「ブモモモモーン!」

「グケェェェイ、ギケェェェェイ!」


 3メートルもある大きな猪型魔獣と、3メートル程の立派なマンドレイクが俺の左右に立っていた。猪型魔獣は右手の斧をさっと一振りで、簀巻きの子豚の荒縄を断ち切った。子豚が猪に泣きついている。マンドレイク(小)もマンドレイク(特大)に縋って泣いている。

 きっと親子なのだろう。良かった良かった。それでは俺もここいらで退場します。ついでに俺の縄も切ってくれないだろうか。そう思っていた居たとき、子豚とマンドラゴラ(小)がそれぞれの親に何か言っている。俺も被害者だと伝えてほしい。


「ぷぎぃ、ぷぎぷぎ」

「ブモ?ブモモ!?ブモモモーン!!」

「クケェ、クケクケェ」

「グキ?グギグギ?ギケェェェェイ!!」


 猪型魔獣とマンドレイク(特大)が、怒りの篭った目で睨み付けた。どうやら俺が首謀者だと告げ口したらしい。


「あは、あはは、それじゃ私は仕事に戻るね」

「わ、私は次のミーティングの用意をしますね。装備もメンテしなきゃ」

「わはははは!子供に手を出したら親が怒る、当たり前の理屈だな!でも速めに帰れよ。晩飯が無くなるぞ」

「美女以外の用事で僕に頼るな。これでも急がしいんだ」

「ヒナタ様。店の備品を壊したら、宿泊費に上乗せしますぞ。くれぐれも店に迷惑かけないように」

「ヒナタさん、がんばってください!さすが勇者様だ!」


 他の奴等もそれぞれに言い訳をしながら、俺に責任を押し付けて去っていった。俺は簀巻きのままで逃亡した。ゴロゴロ転がって。くそ、何が、何ががんばって下さいだ・・・。もう誰も信じない。


 数日後、ボロ雑巾の様な男がマンドラゴラの群れの中で、首だけ出して埋められているのが発見された。引き抜く時にはとても哀しげに叫んだと言う。



ところどころに某勇者なロボットアニメから引用した台詞が入っています。気づいた方は素敵です。

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