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【追撃】

「わ、わかったよ。まあ落ち着いてよ」僕は両手で何かを押さえつけるジェスチャーをしながら、めぐみの興奮を鎮めるよう促した。


「……そんでニコゴリ、あんたはどうしてたのよ」両目を腕でぬぐうと、今度はめぐみが聞いてきた。


「僕は」しかし紗織さんのことはまだいえない。「となりのエリアですごい洪水にあっちゃってね。こっちだって死んだかと思ったよ。じっさいに死んでてもおかしくなかった。驟斬鬼のおかげで助かったようなもんだよ」


「え? 何それ。洪水ってどういうこと?」


「あ、だからこの屋敷のたくさんのエリアは別々にインフラ制御されていて……」


 やめた。めぐみは目を白黒させているばかりだ。


「それよりこの電車、ちょっとスピードが速くないか? ひょっとしてここの鉄道も各駅やら特急やらに分かれてんのかな」


「知らないよ。あたしが乗ってからしばらくしたら、そのうち電車が勝手に暴走して止まらなくなったんだよ」


 めぐみはふたたび興奮してきた。


「どうしてまた……」


 やっぱりそうなんだ。そうに違いない。屋敷ぜんたいの制御バランスにガタがきているんだ。水没や洪水がいくら別のエリアだからといって同じ屋敷内であんなことが起こったんだ。リスク分散ったって限度があるだろう。


「……ニコゴリ。紗織さんは見つかった?」不意に聞かれた。


「それは……」唐突だったので僕は言葉に詰まった。


「どうしたのよ」


 やっぱりまだめぐみの興奮度が激しいので今はまだダメだ。

 しかたがないから強引に別の話をすることにした。


「あ、そうそう忘れてた。僕、この屋敷の中で迷子になってた中学生の女の子を助けたんだ」


「え? 中学生?」


「怪物にさらわれてたのを、さっきやっと取り戻したんだ」


「どこにいんのよ」


「となりの車両に寝かせてあるんだ」僕はいった。「ちょっと様子を見てくるよ」


 これでうまく話をはぐらかせた。つもりだった。


 と、その時、急にドスーンと電車に何かがぶつかってきたかのような衝撃が走ったのだ。


 「!」


 めぐみは窓ガラスに頭を打ちつけ、僕はバランスを失って通路に転倒した。


 電車はまだそのまま走り続けている。


「な、何?」頭を押さえながらめぐみがきょとんとする。


 もう一度、同じ衝撃がドスーンと来た。


 倒れていた僕は一瞬宙に浮き、座席の下あたりに体を強くぶつけた。


(うっ……)


 紗織さんとの戦闘で傷ついた体がふたたび悲鳴を上げる。


(紗織さん……? この衝撃は紗織さんが……?)


 まさか。

 いや、もしや。


 僕はよろよろ立ち上がると、となりの車両向かって歩き出した。未弥が心配だ。


「どうなってんの……」僕の背後でめぐみのおびえた声が聞こえた。


 と、ドスーンと三度目の衝撃が来た。僕はよろけたが、今度は転倒せずにすんだ。電車もまだそのまま走っている。でもこのぶんじゃ脱線、衝突は時間の問題かもしれない。 


 僕はガラリととなりの車両の扉を開けた。


「未弥!」


 未弥は、起きていた。


 意識が戻ったみたいだった。こちらに背を向け、車両の突き当たりの窓から外を見ている。


 僕は走り出し、


「未弥、大丈夫なのか!」大声で呼びかけた。


 ゆっくりと未弥が振り向いた。ポカンとした表情をしている。


「ニコゴリ……さん?」


「未弥……きみは何を見てるんだ」


 僕も同じように窓の外を見ると、すぎ去っていく廊下の景色の中、何者かがものすごいスピードで電車を追走しているのが見えた。


「紗織さん……」僕は反射的に窓から顔を離していた。


 それは間違いなく紗織さんだった。人間ではありえないスピードで、走る電車をピッタリとマークしている。

 さっきおもいきりはねられたにもかかわらず、ダメージはみじんも感じさせない。顔はあいかわらず無表情、まるでサイボーグか何かを思わせる殺人マシーンだった。


 電車が受けた衝撃は風切の空気砲のせいだ。だとしたらここにいるのは危ない。紗織さんがまた走りながら風切を高々と掲げた。次の衝撃が来る。


「未弥、ここは危険だ! 離れるぞ!」


 僕は未弥の腕を掴むと、めぐみのいるとなりの車両向けて走り出した。


「ニコゴリさん、私、今までどうなってたんですか?」


「えっ?」


 今、それ聞く? 死にものぐるいで逃げてる最中なんだけど。


「今は取り込み中だからあとで!」


 ドーン、と衝撃が来た。


 一秒か二秒明らかに電車が宙に浮いた。僕と未弥の手は離れ、僕はドアのあたりに全身を叩きつけられた。


 通路にドサリと倒れた僕は、顔を上げた時に電車の照明が薄暗い非常用の明かりに変わったのを知った。


 未弥は通路の前方にうつぶせに横たわっている。


「未弥!」


 僕はヨロリと立ち上がると、倒れている未弥の脇に手を回して、その体を引きずるようにめぐみのいる車両に連れ込んだ。




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