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【暴走】

「ちょっと、その子大丈夫なの?」驚いた顔のめぐみが僕に聞いた。


「おまえこそ、今の衝撃平気だったのか」


「平気なわけないでしょ」ヒステリックにめぐみが言った。薄暗がりでよく見えないが、確かに彼女の額が少し腫れて血が滲んでいるようだった。


「っていうか何なのよこれ。この電車、誰かに狙われてんの? ニコゴリ、あんた何か知ってるんじゃないの?」


 まさか紗織さんの攻撃を受けてるんだ、とはいえない。


「誰かがうしろからこの電車を脱線させようとしてる」


「誰かって誰よ! 何のために。あんた、何かしたの?」


 めぐみのその言葉を聞いて、僕はハッと気がついた。


(そうだ、これは僕のせいなんだ。僕のおかげでめぐみと未弥は巻き添えを食ってるんだ)


 この電車への攻撃をやめさせるには、僕が電車から飛び降りなきゃいけなかったんだ。僕への攻撃命令は、もはや紗織さんに完全にインプットされている。でなきゃいつまでも僕のことを執拗に追いかけてきたりはしない。あいつが本当に狙っているのは僕だけなんだ。


「何黙ってんのよ、どうしたのよ」


「めぐみ……聞いてくれ。敵が狙ってんのは僕だけだ。僕は電車を飛び降りる。悪いけど未弥の面倒見てやってくれないか」


「飛び降りるって……どれだけスピードが出てると思ってんのよ!」


「このままじゃおまえらも殺される。僕がこの電車からいなくなればおまえらは助かるんだ。早くしないと手遅れになるかもしれないから別れの挨拶は省略させてもらうよ」


 そういうと僕はめぐみに背を向けた。決断が鈍らないうちに、こういうことはさっさと行動に移さないといけない。飛び降りるとしたらさっきの最後部の車両の扉しかない。窓から身を乗り出して電車から転げ落ちるよりかはまだ助かる可能性が多少なりとも残っている、気がする。


「ダメよ」うしろから声がして、僕の腕はめぐみにグイと掴まえられていた。「行かせない」


 振り向くと、めぐみは今まで見たことのないような真剣な表情で、まっすぐ僕を見据えている。


「事情はよくわからなけど、行っちゃダメ」


「でも」何かいおうとしたその時、また次の衝撃が来た。


「ああっ」


 僕とめぐみ、そして気を失っている未弥は、それぞれがバラバラにはね飛ばされ、車両内のどこかに体をぶつけ、そうしてまた三人とも床にドサリと倒れた。電車そのものはそれでも依然として奇跡のように走り続けている。紗織さんから逃げるように暴走し続けている。


「めぐみ、未弥、無事か」僕はうつぶせになっていた顔を上げて声をかけた。


「あたしは無事よ」めぐみの声が聞こえる。


「未弥」


 返事がない。


 どこだ未弥は。どこにすっ飛ばされたんだ。


「うーん……」


 呻く声がかすかに聞こえる。


 ふらふら立ち上がった僕は、ドアの下に倒れている未弥を見つけた。


 未弥は痛そうに頭に手をやっている。


「大丈夫か」その場にしゃがみ込むようにして聞く。


「はい、大丈夫、です」


「おい」立ち上がった僕はふたり同時に呼びかけた。「次の衝撃に備えて何かに掴まってるんだ」


 いい終わらないうちに容赦なく次の衝撃が来た。


 鈍い雷鳴のような音が響き、車両が一瞬宙に浮くと電気がまたたくように点滅した。


 すでにめぐみは座席横の仕切に両手で抱きつくようにしていたが、僕と未弥は無防備だった。僕はとっさに未弥を抱きしめると、ふたりで床の上をゴロゴロ転がった。僕はまたしてもどこかのでっぱりに背中を強打した。


「うっ」


 僕の腕の中で未弥が不安そうな顔をしている。


「ニコゴリさん……」


「平気、だよ、これくらい」何とかそういったものの、苦痛に顔をしかめていたのでぜんぜん説得力がない。


 ともあれ早くこの電車から飛び降りないと、自分のせいでこのふたりにまで被害が及ぶのはとても耐えられない。命の危険は承知の上だ。だいたいこのまま電車に乗ってたって同じことなのだから。


 僕は未弥に、めぐみと同じように座席横の仕切に抱きついているように指示すると、ひとりでまた、となりの車両に向かおうと歩き出した。


 するとめぐみが飛び出してきて、また僕の腕を掴んだ。


「行くなっていってるでしょ」


「でも」


「今飛び降りたら、あんた死ぬよ」





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