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作者失格〜私が作った勇者が、私を殺しに来るまで〜  作者: 三島 勝仁


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第一話


「はぁ、つまんね」


 買ってきた漫画雑誌の頁をめくる手が止まる。

 こんなのでも漫画になるんだもんなぁ、嫌になっちゃうよ。

 話も単調だし、登場人物に魅力がない。目的も明確じゃない。つまらない。

 でも、俺の方がマシだ――とは言えない。

 傍に置いてある冷たいスマホを手に取る。液晶に映し出されたのは、いわゆるお祈りメール。

 貴殿の今後のご活躍を……何度見たことだろうか。何度読んでも現実は変わらないと言うのに。

 これで何度目だ、そんなにつまんねぇかよ、俺の話は。

 バイトから帰って、漫画を読み始めたら雨が降り出した。

 あの爺さんの予報は、ちょっとばかし時間差で当たったようだ。

 

 目線を窓から移すと、そこには部屋の入り口に立てかけたでかい本が鎮座している。持って帰ってきたのはやはり失敗だった。

 家賃4万の1Kの部屋に置くには、デカすぎる本だ。それでなくても、部屋の中は本で溢れている。

 壁一面には本棚があり、それに収まりきらない本が床にまで侵食している。ベッドの下にいかがわしい本を隠す余裕すらない。まぁそんなものはないが。

 もう一度漫画雑誌に目を落とす。確かこのつまらん漫画の原作は、元々はWEBで連載していたものだったはずだ。転生だの転移だのと、流行りなのはわかるが、あまりにそればかりが溢れすぎている。

 つまらん現実の世界より、華々しい異世界で大活躍、か。まぁわからんでもないけど。クソみたいな人生ゲームに強制参加させられて、能力値は並かそれ以下。なのに才能を持って生まれたやつらと渡り合わなきゃならん。

 嫌になってしまう。


 それでも書くしかない。それしかやってこなかったのだ。今更新しく何かを始めて――なんて未知の可能性に時間を使うくらいなら、今持ってる武器を磨いた方が幾分マシだろう。

 ため息をつきながら、テーブルに置いた漫画雑誌とカップ麺の容器を脇に放る。

 そして入り口のそばまで行き、デカすぎる本を持ってくる。それにしてもでかいし重い。まじで邪魔だ。でも、何かしらに使えないかと、テーブルの上に乗せてみる。

 全体的に茶色の皮の本。一言で言えば、アニメや漫画なんかに出てくる魔導書って感じだ。禁書と言い換えてもいいな。うん、しっくりくる。

 そもそも何の皮なのかもわからない。触った感じは、表面はツルツルしているようで僅かに凹凸がある。今にも鼓動が聞こえてきそうな生々しい感じだ。

 そして表紙をめくる――どっちが表紙かは結局わからなかったが――やはり何も書いてない。

 ファンタジーな世界なら、ここで光ったり、悪魔だの妖精だのが出てくるんだろう。だがそんな気配は微塵もない。


「さて、どうしたもんか」


 一人暮らしが長くなるにつれて、独り言が増えた気がする。バイト以外で声を出す機会がほとんどないからか、たまに声を出さないと口が錆びつくような気がする。

 まずは何か書いてみるのがいいだろうか、魔導書っぽい見た目だし、ファンタジー風の何かを書いてみてもいいかもしれない。

 もちろん、転生だの転移だのってのはなしだ。硬派にいこう。その世界で生きる、その世界の住人たちの話だ。異物はいらない。

 主人公は、やっぱり勇者だな。いや、のちに勇者と呼ばれる男だな。過去は残酷な方がいい、故郷を焼かれたとか、両親と死別したとか。うん、そんな感じだ。

 次にヒロインか、まぁぶっちゃけいなくてもいいんだけど、いた方が盛り上がるかな。悲しみや喜びみたいな感情を伝える、訴えかける装置として有効だろう。

 2人が出会い、旅をして、人を救い、仲間を増やす。そして世界の敵と戦う、世界を救う、そして勇者、英雄と呼ばれる。そんな感じでいいだろ。

 あとは世界観か、神、剣、魔法、精霊、悪魔、加護、超能力、ゲーム的な要素も入れたら、スキルとか、特技とかか。どっかで見たことあるような要素ばっかなんだよな、その手の設定はいくらでもあるし、さっき読んでた漫画もそうだ。多少オリジナリティを入れたとしても、大きな枠でみれば"みんな一緒"だ。

 うん、全部なし。華々しさはいらない、泥臭くいこう。

 奇跡や魔法があるなら、努力なんて意味がなくなる。救いが簡単に与えられる世界なんて、信用できない。

 主人公は、凡庸で、ひたむきでなくてはいけない。特別な能力はない。ただ、信念と選択と運のみで世界を救うのだ。それがいい。魔法なんかよりよっぽどかっこいいじゃないか。


 プロットはこんなもんでいい、俺はごちゃごちゃ考えてから書くより、書いてから考えるタイプだ。ダメなら直せばいい、どうせタダでもらった本だ。ページがなくなったらその時捨てればいい。


「ペン、ペン……」


 ない。一本くらいあるかと思ったが、この狭い部屋を5分探してなければ、もうないと思った方がいい。

 あ、そういえば、大学を卒業するときにもらったのがあったような……。

 ベッドを少しずらして、小さな木箱を取り出し、埃を被った蓋を開ける。

 ……思い出したくないものまで出てきた。サークル時代の文集、これは開くまい。だが、ペンは手に入れた――万年筆か、そういや使ったことないな、書けんのか。

 まぁいいや、とりあえず書いてみよう。

 そうして、万年筆のペン先を紙に押し付けると、ピタッと張り付くような、妙な感覚を覚えた。

 そしてインクがジワリと滲んでいき、考えるよりも先にペン先が動いた。


『勇者は凡人であり、凡庸であり、才なき者、選ばれざる者であった』


 うん、いいな、万年筆。俺のミミズがのたくったような文字も、なかなか味があるように見えるじゃないか。

 よし、なんかやる気出てきた。こういう時は勢いで書いてしまった方がいい。このままいこう。


 なるべく残酷に、救いなどない、そんな世界で生きる者たちの、英雄譚だ。

 

 


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