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叔父の襲来

「こんなにツケが……」


ユーレは呟いてソファーの背凭れに身体を委ねた。セバスがカジノまで赴きツケについて金額を聞いて報告を上げた所。愛人達が来た日の夜だった。


(倒れたいわ……。あの馬鹿旦那、な・ん・で、こんな金額になるまで遊んでいられんのよ! どうでもいいとか言ってられないわ! これじゃあお金が続かない。どうせ、今もまだ目覚めないから殺してしまおうかしら)


ヤバイ。俺(の身体)が殺される!

いや、俺もカジノからのツケの金額を聞いて目眩がしたけど。俺って馬鹿だなって思うけれど。俺を殺したらユーレが捕まる!


「いっそ、殺してやろうかしら……」


「お、奥様! お気持ちは解りますが落ち着いて下さいませ! そんな事になれば、誰がカーナお嬢様をお守りするのですか」


セバスに窘められてユーレが黙った。良かった。俺は殺されずに済んだ。


「そうね……。取り敢えず、あまりに支払いを延ばしていればそれだけ利子がついてしまうわね。少し、考えるから3日待ってくれるかしら」


「かしこまりました。本当に、本当に奥様には苦労のかけ通しで……。旦那様が目覚めたら殴ってでもこの屋敷に縛り付けて仕事をさせますから!」


セバスの必死の訴えに、ユーレは投げやりな気持ちで頷いている。ユーレの心の中は俺への愛情などどこにも無い。空っぽ。それどころか俺が仕事などするわけがない、とセバスの言葉の中ですら信じていない。そんな気持ちにさせたのは、俺とはいえ愛情も信頼も消えているユーレに、何故か泣きたくなった。


その翌日の夜だった。


「奥様」


「フォノ様がいらしたのね?」


「……はい」


セバスが口惜しそうな顔で頷く。叔父上は本当に金をせびりに来ているのか。


「同席をお願いね」


「かしこまりました」


(はぁ……。フォノ様はきっとまた、カジノについて突っついて来るのだわ。……でもあの方は、多分私の味方。だってナナの襲来の時以降から旦那様に愛人が出来る度にお金をせびりに来ながら教えてくれた。ナナの情報にキラの情報にノーラの情報。カジノ通いを教えてくれたのもフォノ様だった。言い換えればこのお金は情報料なのでしょう)


叔父上が、俺の愛人達やカジノ通いをユーレに教えていた……? 何故。


叔父上が待つ応接室へ入ると、父上によく似た容姿だが、明らかに身を持ち崩している雰囲気の叔父上がニヤニヤしながら座っていた。


「義叔父上様、ようこそいらっしゃいました」


「そんな事、これっぽっちも思ってないくせに歓迎の言葉をありがとう」


「いいえ? それで、本日は何のご用ですか? 先日いらっしゃいました時に準備をしておいて欲しい、と仰っていた物の件ですがお話も分からないのに準備は出来ませんの」


ああ、俺とユーレが階段から落ちる前日の日記に書かれていたな、叔父上が来た、と。


「そう言うけれどね。ユーレさんには必要だと思う話が有るんだよね」


(やっぱりカジノの借金の件? それとも別のこと? でも、そもそもここ数日は階段に落ちて意識を失っているせいで、うちに居るのよね、旦那様)


「なんでしょう?」


「カジノに結構なツケが有るって話さ」


(ああ、やっぱりそれなのね。この方がカジノ通いを教えてくれた時に、借金の事までは考えていなかったのかも。最近になって、フォノ様はご存知になったのかもね)


「昨日確認致しましたわ」


「昨日?」


「はい」


「ふむ……。ちなみに金額は……」


叔父上が知る俺のツケの金額と、セバスが聞いて来たツケの金額が一致した。ユーレは金額が合っている事を確認。叔父上は少し焦っているようだ。


「ですが、教えて頂きましたから、仰っていた金額を準備致しますわ」


「奥様⁉︎」


ユーレが金を支払う事を聞いて安心する叔父上。セバスは何故支払うのか? と焦る声でユーレを呼ぶ。


「いいのよ、セバス。準備して」


セバスが納得していないような顔ながらおそらく金庫へと向かう。


「何故、支払ってくれる?」


「前々から思っていましたの。もしや、フォノ様は私の味方では? と。愛人達の事やカジノ通いの事で脅しているようですが、実は私は知らなかった事なので、脅しているようで知らせてくれているのかも、と」


「気付いていたのか……。ナナだがね」


「はい」


「元は俺の女の1人でね。俺に弄ばれたと思ってスカラグに近づいた。俺と兄上の顔は似てる。当然スカラグも似てる。それでスカラグを弄ぶつもりだった所へ、ナナはうっかり妊娠した。そこでスカラグに認知してもらおうと此処に乗り込んで来たが、生憎スカラグが居なくて君が応対した。君も妊娠している事はスカラグから聞いて知っていたものだからね、君の子がダメになれば……と凶行に及んだらしい。……その一件の後にナナと偶然再会して聞いた。だが、俺が謝罪をしても仕方ない。そして、それを聞いてもやっぱり俺はクズだから、お詫びでスカラグの行動を君に報告しながら、金をせびっていた」


叔父上が俺の行動をユーレに話していたのは、ナナの一件が有ったから。金をせびりに来ているのは許せないが、そもそも浮気した俺が悪いし、ナナがやった事を知らない俺が叔父上を咎められるわけがない。それが出来るのは、ユーレだけだ。


「ですから、情報料でしょう?」


「……そうか。君はそう捉えていたのか。ではもう一つ、この情報は確定していないからまだ話すつもりは無かったが」


「何か」


「君、最近、アズロ伯爵と知り合わなかったかい?」


ユーレが息を呑んだ。


「よく、ご存知で」


「アズロ伯爵は俺と同類でね。昔から色んな所で顔を合わせていた。尤もそれなりに伯爵の仕事をきちんとこなす遊び人だからね、周囲は多目に見てるが」


「そうですか……」


「そのアズロ伯爵だが、少し前に新しい愛人を探している、と言っていた。これは彼から直接聞いたわけじゃないが、遊び人仲間が噂していたのさ。彼の愛人の傾向はね。未亡人や何も知らない箱入り娘なんかじゃない。きちんと夫のいる女性で、尚且つお金に困っている女性さ」


「つまりそれは、お金を支払うのと引き換えに夫を裏切れ、と……」


「そう。それも、夫のために身を削って支えている健気な妻、だな」


「その理想の愛人に私が向いている、と?」


「君の場合健気な妻では無いかもしれないね。スカラグに対しての情は見えないから。でも周囲から見れば遊び人の夫に文句も言わない健気な妻に見えている」


「では、私がターゲット、なのですね」


「多分ね」


俺はユーレがアズロ伯爵の愛人候補として目をつけられたと知って怒りたくなる。きっと俺の身体だったら怒りで全身が震えていただろう。


「あまりにも資金繰りに困ったらその時は頼るかもしれませんね」


ポツリと溢した言葉は、叔父上には届かなかっただろう。叔父上が不思議そうに此方を、ユーレを見るが首を振って話を終わらせた所でセバスが金を出して来た。叔父上が金を受け取り出て行くのが見えたが、俺の思考は空回りだ。


金が無くなったら頼る?

それは、つまりアズロ伯爵の愛人になる、ということか?

そんな馬鹿な! ユーレは俺の妻だぞ! 夫の居る身で20歳程年上の男の愛人なんて……!


だが、好き勝手して来た俺が、それを言う資格など何処にも無い。どういう偶然か、神の悪戯か、他の要素か解らないが、偶々こうしてユーレの中に入り込んでしまっていたから、アズロ伯爵の件を知れた。だが、こんなことが無ければ、俺は変わらずに愛人達の元に入り浸り、カジノ通いをして借金を作り続けていた。仕事も放置していて、ユーレが必死に領地と領民を守ってくれている事にも気づかなかった。


そして、金策に困ってアズロ伯爵の愛人にもなっていたかもしれない。


その俺に、怒る権利なんて有るのか。


ユーレが元々王城で医官を務める一族の出で、一族の優秀な者が王城の医官を務め、それなりに優秀な者達の本家が上位貴族を対象にした医官に、分家筋は下位貴族や平民を対象にした医官を務めるような皆が頭の良い一族だからこそ、ユーレは慣れない領主代理に奮闘出来ただけ。


ユーレ自身も結婚前まではユーレの父上の手伝いで平民達を相手に医官見習いをしていた。医官になるための試験に合格して見習いとして働き、実務を経験して医官への道を進む予定だった。ユーレの父上が気を利かせて俺とユーレの結婚を結んでいなかったら、ユーレはきっと医官になっていた。元々彼女は頭が良いのだ。だから、慣れなくても領主代理に奮闘出来た。


俺は……運が良かっただけだ。こんなに仕事も放置して遊び呆けて借金を作って……。領民達や代官が王城に訴え出ていたら、爵位返上、領地没収で貴族から除籍されて平民になっていてもおかしくなかったのに。


俺はそんな事にも思い至らず、こんな状況になるまで、自分の過去を振り返っても来なかった……。そんな俺が、金策に困り援助を求める代わりに愛人になろうとするユーレを、怒れるのだろうか。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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