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妻と愛人達(後)

「まぁ、そう言って余裕なのも今のうち、よね。旦那様は此方にお帰りになられないわけでしょ? カジノに入り浸るか、私達の所を行ったり来たりするか、だもの。早くその場所を私に譲ればいいのに」


ナナが顔を歪ませて正妻の座を譲れ、と言う。今まで俺には愛人で良い、と言っていたのに……。ユーレには妻の座を譲れと脅していたのか。


「ちょっと! ナナさんに飽きたから、スカラグは私の所に来たのよ! スカラグの正妻は私よ!」


キラがナナに突っかかる。キラだって妻になりたいとは言わなかった。言ったのは3人の中で若く、付き合いが短いノーラだ。


「違います! スカラグさんの妻は私!」


やっぱりノーラが喚き出す。


(はぁ。ここのところは、私に対して自分の立場が上、というアピールよりも互いの正妻の座争奪戦になっているわね。ある程度になったらセバスにお金を渡してもらいましょう)


ユーレがチラリと扉脇に控えるセバスとエレンを見る。セバスが微かに頷いたのを見て、ユーレが視線を愛人達に戻す。いつものこと、のように何の反応も無い。


「ちょっと! 他人事みたいな顔をしているけど、愛されていないお飾り妻であるアンタが、1番ムカつくわ! さっさと妻の座を寄越しなさい!」


「そうよ!」


「私達と違って男の子を産めなかったくせに……!」


ナナの妻の座を寄越せ、という言葉もキラの同調にも反応しなかったのに、ノーラの言葉にはユーレは憎悪の心情を抱いた。殺意が湧いていた。ああ……ユーレはこんなにも跡取りを産めなかった事を気にしているのか。


(怒ってはだめ。解ってる。だけど、一番苛立つのよ! かつてお義父様にも言われたわ。カーナをやっと産んだ私に、男じゃないのか、と。次は男の子を産むように、と。そんな事を言われた私が2人目を授かって嬉しかったのに、愛人が現れて……っ。あんな事になってしまったというのに。知らないからと言っていいことでは無いのよ!)


父上が、かつてユーレにそんな事を言っていたのを俺は知らない。……いや、聞いていたけれど忘れている可能性も有る。何故なら父上の発言は基本的に跡取りは男だから。女しか産まれなかったなら仕方ないが女が跡取りだ。それも、当主が愛人を囲ってその愛人に男が生まれた場合、当主と妻が認知をすれば養子として引き取られる。この場合、女は跡取りから外れる。


だから、父上は次は男の子を、と当然のように言ったが……。カーナの存在を無視したような発言でも有る。ユーレは未だにその事を忘れていないのだろう。

一方で、余命宣告をされている父上の姿を見て、心穏やかに過ごせるよう願うユーレの気持ちも嘘では無さそうだ。……複雑なのだと思う。俺はそんなユーレの気持ちを何一つ知らず何一つ寄り添っていない……。


(落ち着きなさい、ユーレ。此処で怒れば向こうの思う壺。私が男の子を産めなかった事を気にしてつけ込んで、跡取りとして認知させようとしてくるわよ。何度も何度もナナにもキラにもノーラにも言われて来たこと! 全てはカーナのためよ!)


「そうね。私は男の子を産めなかったわ。でも旦那様があなた方の息子を認知していない上、私も()()()()()愛人の存在も息子の存在も聞かされていない以上、あなた方の存在は知らないことになっているの。たとえ、現状ではあなた方の存在を知っていても、ね。


貴族に面倒な仕来りが有るのは解っているでしょう? 愛人の存在もその子どもの存在も、当主が妻に打ち明けて初めて、妻はその存在を知るの。どれだけ愛人が妻の元に乗り込んで来ても、妻が……私が、旦那様から聞かされていない以上、あなた方は居ない存在。日陰者の身なの。あなた方の息子が私に認知されるのは、旦那様から愛人の話を聞かされてから、なのよ。何度も申し上げたはずよ」


ユーレの淡々とした声音に愛人達が黙っていく。ああ……ユーレはずっとこうして愛人達を黙らせていたのか。俺が好き勝手して、愛人達のフォローを何一つしないから。


応接室のドアがノックされ、メイドがやって来る。


「奥様、3人共、虐待等有りませんでした」


コソッと耳打ちされた内容にユーレは頷く。


(今月も子ども達は大丈夫そうね。あの子達を認知する気は無いけれど、カーナが正式に跡取りになれるまでは、養育費を出してあげるわよ。子ども達は親を選べないものね)


「子ども達は健やかなようね。セバス」


「はっ」


ユーレがセバスを呼べば、セバスは袋を3つ愛人達の前に置いた。途端に目の色を変えて袋から視線を逸らさない愛人達。


(結局、お金が欲しいだけなのだから、私に嫌味なんて言わずに大人しく出されるのを待っていなさいよ、全く)


ユーレが呆れたように溜め息をついてから、袋が出てから視線が固定されたままの愛人達に言い放った。


「さぁ。それを受け取ったなら、帰って下さいな。そして来月までに旦那様に認知をしてもらいたい、と話してみたらどうです? 尤も話しても、此処に帰って来ない旦那様だから私が話を聞くのは、いつの事やら解りませんけれど、ね」


悔しそうに舌打ちをしながら袋を抱え込むナナ。

睨み付けて「必ず認知させて正妻の座をもらうから」 と捨て台詞を吐きながら袋を離さないキラ。

「いつまでも正妻の座にしがみついて哀れなお・く・さ・ま」 などと煽りながらも袋から視線を逸らさないノーラ。


愛人達の醜悪さを俺は見せつけられる。いや、当人達は俺がユーレの身体の中に居るとは知らないから、俺に見せつけているわけではないのだろうけど。セバスとエレンに追い立てられるように応接室を出て行った3人。


「はぁ……。帰ったわね……」


気を張っていたのか、ユーレは応接室のソファーに全身を預けながら深呼吸していた。


「奥様、大丈夫でございますか」


「ああ、セバス、ありがとう。大丈夫よ」


「エレンにお茶を淹れるよう、話してあります」


「そう。ありがとう。あなた達にとっては、カーナより愛人達の息子の誰かが跡取りの方が仕え易いかもしれないけれど。私にも正妻の意地が有るの。カーナが望むなら、グーテルダ男爵家はカーナに継がせたいわ」


「何を仰いますか。カーナお嬢様は、このグーテルダ男爵家の次期当主。たった1人の跡取りでございますよ」


「ありがとう、セバス」


愛人達の前では泣く事もなく、毅然とした態度だったユーレが、今はセバスの言葉一つで泣き出している。本当に俺はユーレの事をきちんと見ていなかった。


……もし。自分の身体に戻れたとして。ユーレとはやり直せるのだろうか。2人目が出来るまでは確かに有った絆を取り戻せるだろうか。それとも、もう遅いのだろうか。何も。何も解らない。知らないという事は愚かなのだと思い知らされる。好き勝手していたツケを誰が払うのか、なんて考えた事も無かった。


「奥様」


「ああ、エレン、ありがとう。ごめんなさいね。泣いてしまって」


「宜しいのですよ。奥様は1人で抱えてしまっているのですから。全く、坊ちゃんは本当にどうしようもない。これだけ奥様に面倒をかけておいて奥様が冷たいから話し合わない、とか。奥様が冷たくなるのも当たり前でしょうに。帰って来ないで遊びほうける自分を省みるべきですよ!」


「まぁエレンったら……」


(その通りなんだけどね。私がそれに同調するのは当主の妻としてはいけない。はしたない事、よ。それから……)


「セバス。フォノ様に支払うお金も準備出来ている?」


「大丈夫でございます。それから我等使用人及び領民への給金支払いも大丈夫でございます」


「そう、良かったわ」


(あのドレスや宝石でそれだけ賄える程の金額になったのかしら……。ああ、でもそうね。元は本家のサーヤの物だったわ。サーヤがコレあげるね、と言ったから貰った物ばかり。本家の見る目は確かだから物が良かったのかもしれない。それからカーナの学園の学費の分を何とかしなくてはならないわね。借金が無いだけマシかしら……。借金)


ハッとしたようにユーレがソファーから身を離す。


「「奥様?」」


セバスとエレンがどうした? と焦る声を上げる。


「セバス、旦那様が出入りしていたカジノの場所は知っている?」


「はい。1箇所だけなので」


正しくは、俺が入れる格のカジノが一箇所だけだが。


「では、そのカジノに行って来て! もし、ツケで遊んでいるとしたら、準備をしておかないと、大変よっ」


「か、かしこまりました!」


あ……ツケで遊びまくっていた、な。金などどうにでもなると思っていたが……仕事をしていないのに、なんで俺はそう思ったんだろう。……ああ、そうだ。ユーレの出費が妻として使える予算を超えているから、金が有るのだとばかり思い込んで……実際は、違った。帳簿も真面に見ないで、俺は何をやっているんだろう……。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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