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妻と愛人達(前)

妊娠に関するセンシティブな表現が有ります。ご注意下さい。

父上の見舞いに足を運んだユーレ。翌日もそしてその翌日……今日も俺はユーレの身体の中。俺自身の身体は大丈夫なのか? とユーレも思ったらしい。女医の従姉妹・サーヤ殿を呼んで診て欲しい、と頼んでいた。ちなみに、その診察にはユーレも立ち会っていた。娘のカーナは学園に在学中なので、長期休暇で無い限りは、余程の事が無いと帰って来ない。……俺が階段から落ちて意識が無い事は余程の事じゃないのか? と思うが、愛人の存在を知っている娘は、俺の存在自体が汚らわしい、という事らしい。


ユーレがカーナに俺とユーレが階段から落ちた事、ユーレは大丈夫だが、俺は意識が無い、とまで手紙で記したのに、返信には“お母様が意識が無いなら急いで帰るけれど、お父様なら別にいいわ。寧ろあちこち遊び歩かないから、その分お金が減らなくて良いんじゃない” という事が書かれていた。ユーレを通して見たのだから間違いないが、此処まで娘に嫌われているとは知らず、ショックだ。


ちなみに、俺の身体はただ眠っているだけの状態らしく、名医と名高い人の娘であるサーヤ殿でも「目覚めるのを待つだけ」 らしい。身体が何ともないなら良いが、何故こんな不可解な現象が起きて、しかも何日も続いているのか、俺はさっぱり解らない。


「奥様、お目覚めですか」


「ええ、エレン。おはよう」


「おはようございます、奥様」


「エレン。今日はセバスと共によろしくね」


「もちろんでございますとも! 奥様1人にあの女狐達の相手をさせるものですか!」


そう、今日は俺の愛人達が来る日。いや、金をもらいに来る、だな。……本当に俺は何も知らなかった。


「子ども達が心身健やかに育っているかをメイド達にもお願いしておいてね。いつものように簡単なものでいいから」


「ええ。しかし毎月申し上げますが、必要無いのでは?」


「そういうわけにはいかないわよ。旦那様の子なのだもの」


エレンに苦笑してユーレが答えている。


(そう。私は男の子を産めなかったのに、もう産めない身体だというのに、旦那様は他所に愛人を3人も作り、おまけに3人共に息子を産んでいる……。こんなに悔しい事なんて無いわよ。


お義父様からカーナを産んだ時に言われた言葉も忘れていないから、余計にお義父様には旦那様の息子の存在など知られたくないわ! だけど……子どもに罪は無いのも事実。虐待なんて事になっていたら、とんでもないもの、ね……。本当に旦那様には手間を掛けられる。昔は憎くて仕方なかったけど。愛人が3人になった時には愛情は消えた。憎しみも怒りも恨みも悲しみも苦しみも無くなり、旦那様に対する情など消えたわね……。カーナが跡を取れる成人を迎えるまで、よ)


ユーレの内心はこんなにも虚しいものだったのか。俺の行いで傷ついた事も有った、悲しんだ事も有った、と振り返りながら、それすらユーレは過ぎ去ったもの、過去にしている。残ったのはユーレの空っぽな心。

そしてカーナへの愛情だけ。


父上に対する気持ちは複雑みたいだ。カーナを産んだ時に掛けられた言葉、と思い出した時はどす黒い憎しみの感情が吹き抜けた。その一方で父上に先日お会いした時は、穏やかで父上を何処か尊敬しているような心境でも有ったようだった。


……カーナを産んだ時の言葉。

俺は、それを知っているのだろうか。知らないのだろうか。どうしてかその頃のことが思い出せない。確かにカーナが生まれた時の可愛く大切に思う気持ちは、今でも思い出せるのに。大切に思う気持ちが有った事が……思い出せない。

だから俺は、カーナに嫌われてしまったのかも、しれない。


ユーレはそれからいつものように……俺が知ってる限りだが……朝食をパンとスープで終わらせた。残っている食材を無駄にしないために使用人達で食べなさい、と伝えて。ユーレ自身はパン1個とスープ1皿を朝と夕に食すだけ。愛し合って結婚したわけじゃなくても、かつては家族としての愛情も有った妻がこんなに食べられない事を、俺は知らなかった。結婚当初はもっと食べていたはずだ。腕や足を見る度に鏡に映るユーレを見る度に、痩せてしまった……と痛感する。


「奥様、愛人達が子どもを連れて参りました」


セバスに言われて執務室から応接室へ向かうユーレの心は相変わらず空っぽ。


「あらぁ奥様、こんにちは!お元気してましたぁ!」


ユーレが応接室に入った途端に声を掛けて来たのは、一番長い付き合いで8年になるナナ。俺との間に7歳の息子が居る。妻が2人目をお腹に宿した時に欲の吐け口で飲み屋で勤めていたナナと一夜を共にし、相性が良かったので何度か夜を共にしたら子が出来た。


(この女は相変わらず図々しいわね。愛人の自覚を持って私が話しかけるまで黙っていれば良いのに。ああ、そうね。黙っていられないから、私があの子を妊娠中にやって来て、子どもを認知しろ! と喚いて私が断ったら突き飛ばして来て……お腹を庇えなかった私が悪いのかもしれないけれど、あれが原因であの子は……。そして私は産めない身体になった、というのに)


なんだと⁉︎ 俺は、そんな事を知らない! そんな! 不注意だったという話じゃなかったのか⁉︎


「ナナさん、キラさん、ノーラさん。1ヶ月ぶりですね。お子さん達は順調に育っているようで何よりです」


キラとはナナとの関係に少し飽きた所にちょっとイイ身体の女だったので誘ったら乗って来て、そのまま……。一回で出来たんだった。ノーラは3人目の愛人で、ナナの同僚だった。ナナの目を盗んでノーラから近寄って来て……。俺はもしかして、他人から見ると最低な部類なのか? 客観的に見ると最低だと思う。


「もちろんですとも! それでいつ認知してくれるの⁉︎」


ノーラが甲高い声で詰め寄る。


「ですから、毎回言ってますが、旦那様とは話し合いが出来ていませんし、旦那様から聞かされていません。あなた方から話し合いをするように言って下さい、とお願いしたはずですが?」


淡々とユーレが答える。認知をしろ、と毎回詰め寄られている……? そういえば、一時期ノーラが口煩くて、妻が認めない、とか適当な事を言ってしまったな……。


「毎回そう言うけれど、奥様が認めていないだけ、と知ってる、と私も言ったはずです」


「旦那様から話をされてもいないし、そもそも此処には滅多に帰って来ない事は、あなた方が良くご存知のはず。帰って来ない旦那様に認知の話など出来るわけがないでしょう」


「そうよねぇ。奥様はお飾りで捨てられる寸前だもんねぇ。可哀想……」


可哀想、と言いながら満面の笑みはキラだ。こんな醜い本性を抱えていたのか……。


「お飾りで捨てられる、わけが無いでしょう? あなた方は本当にご理解なさらないのね。認知されない子は、どれだけ旦那様にそっくりな外見をしていて、誰もが親子だと思っても、婚外子なので跡取りにはなれません。私がお飾りで捨てられる女だと言うのなら、皆様がきちんと、旦那様と私に、子どもを認知してもらってから言って下さいな」


冷静さを失わないユーレ。だが、此処まで冷静さを失くさないのは、それだけユーレが我慢をして来た証、だろうか。


(本当に旦那様はご趣味の宜しい女性達ばかり選ぶこと。私をこれだけ馬鹿にする女ばかり。普通、愛人は正妻に遠慮するものなのに遠慮も出来ない女を選ぶというのは、旦那様はこのグーデルタ男爵家をお取り潰しにしたいのかしら。愛人達に騒がれてみなさいな。我が国は貴族男性が愛人を持つ事は認めているけれど、その愛人に貴族生活を脅かすような真似をされれば、上位貴族から睨まれるじゃないの。


あくまでも愛人を持つのは暗黙の了解であって、堂々と宣言する事は愛人に好き勝手にされて手綱も取れない無能の証なのに……。正妻を蔑ろにする愛人は、正妻が嗤われるんじゃないの。愛人を大人しくさせられない旦那様が馬鹿にされるのに。その辺、解っていらっしゃらないのでしょうね。カーナが爵位を継がないので有れば、見切りを付けたいくらいだわ)


愛人を持つのは貴族の男にとっては地位や名誉みたいなもので、持たなかった父上を少しだけ男として情けない……と思っていたが。愛人を持っても愛人に好き勝手されている俺の方が実は周囲から情けない、と見られるのか……。ユーレが金を払って黙らせているから、醜聞になっていないだけで。そうか、醜聞になるわけだ……。


娘に嫌われるはずだ。こんな父親を持つなんて嫌だろう。俺だって、父上が愛人関係で母上を悩ませるようだったら嫌になっていた。俺は……カーナの事などまるで考えていなかった。ユーレの事を何も考えないから、カーナの気持ちも思いやれなかった……。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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