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推しが死ぬ女とすぐ死ぬ推しと  作者: アザとー
気づいた恋心とウヒャー!
35/35

 村人が語ったところによるとーーこの村は数日前、四人組の魔族に襲われて相当量の食料を奪われた。幸い死者は出なかったが、家も何軒か壊され、応戦に出た若者たちが怪我をした。

 折り悪く、今はトウモロコシの収穫期である。重要な働き手である若者を怪我で欠いては収穫作業もままならないと――


 ユーリウスは聞き込みから戻ってきたセバスチャンたちにこのことを話して聞かせた。

「つまり、助けてほしいっていうのは、私たちに収穫のお手伝いをしてほしいっていうことだと思うんですよ!」

 得意満面で胸を張るユーリウスを見てセバスチャンは軽いため息をつく。

「どこの世の中に勇者に農作業を依頼する人がいるんですか、普通に考えたら、頼まれたのは魔族の討伐でしょう」

「そうなんですか?」

「はい、私たちは農作業に関しては所詮素人、手伝えることなんてたかが知れているでしょう。そのくらいなら働き手である村の若者がこれ以上ケガをしないよう、その魔族をとらえて欲しいと、そうは言われませんでしたか?」

「そういえば……言われた気がします」

 真由が横から口を挟む。

「適材適所だよ! ユーリウスさん!」

「なるほど、これが適材適所!」

 バカップル的なこのやり取りを見て、セバスチャンはにやにやと笑った。

「いやいやいや、私がちょっと目を離したすきに、随分と仲良くなられたんですね」

 ユーリウスと真由は顔を見合わせてもじもじ。明らかにバカップルの挙動だ。

「別に仲良くなってなんか……ねえ?」

「そうですよ、私と真由さんは元から仲良しですし」

「ユーリウスさん、セバスチャンさんが言ってるのは、そういう仲良しじゃないと思うよ」

「えっ、じゃあ、どういう仲良しなんです?」

 このバカップルっぷりはほほえましいが、まず話が進まない。セバスチャンは心を鬼にして二人の間に割って入る。

「はいはい、イチャイチャはそのくらいにして、まじめな話をしましょう、で、どうするんですか、ユーリウス様」

「どうするって、何がです?」

「私たちには二つの選択肢があります。まず一つは魔族退治をレスに全てお任せして先を急ぐこと……彼の腕ならば下っ端魔族の四人ぐらい、ひとりで楽勝でしょう」

「もうひとつは?」

「村人からの依頼を受けた勇者として、レスの捜査に協力することです」

「どちらがより良い判断だと思いますか?」

 ユーリウスは少し甘ったれたことを言い出したが、ここは自立を促す良いチャンスだ、セバスチャンはそっけなく答える。

「それを決めるのは私ではなく、ユーリウス様、あなた自身です」

 思えばここまで……セバスチャンは過保護が過ぎた。館の一室に臥せっている病弱坊ちゃんに対し、彼は決断を迫ったことがない。例えば今日着る衣服の選択から食事の内容、もちろん異世界から回復役として異世界人を召喚することを決定したのもセバスチャンである。

 そういう時にユーリウスはどうしているかというと、「セバスチャンに任せておけば間違いないから」と、彼の決定に首を縦に振るだけ。

 しかしこれからは、それではいけないのだ。

 旅とあってはセバスチャンがそばにいないときもあるかもしれない、そうした時にもひとりで決断を下せるようになってほしいと……つまりユーリウスに自立を促すことこそが、セバスチャンにとって一つの目標なのだ。

 ところがユーリウスは、「う~ん」と唸ったっきり黙り込んでしまった。

「さあ、どうするんです、ユーリウス様」とセバスチャンが聞いても、首をひねるばかりで要領を得ない。

 見かねた真由たちが口をはさんだ。

「ねえ、魔族退治しようよ、レスくんひとりで四人もの魔族と戦うの、大変そうだし」

 真由の言葉にレスは不服顔だ。

「あんな格下の四人ぽっち相手に、あなたたちの手を借りる必要なんてありませんよ、むしろ足手まといなので、ついてきてほしくないんですけど」

 ネロリは純真無垢無垢、ただ思ったことを口にする。

「魔族退治しましょうよ! その方が勇者っぽくってかっこいい!」

 ワイワイと盛り上がる外野を、セバスチャンがたったの一言で黙らせる。

「シャラップ!」

 そのあとで彼は、深いため息をついてからユーリウスに言った。

「ユーリウス様、レスは戦闘力的には四人を相手にするのに十分でしょうが、いかんせん魔族であるがゆえに対人面で困ることも多いかと思います。村人たちとの間に無駄な誤解など生まないためにも、ここはきちんと最後まで彼をサポートするべきかと」

 本当はこういった『思考』の部分を自分で決断できるようになってほしい――ユーリウスが十分に賢く戦略家としても優秀であることをセバスチャンは知っている。ただ、この心優しい主は『切り捨てること』ができないのだ。

 いまここで魔族討伐に手を貸せば、旅行きの足を止めねばならない。旅程が増えればそれだけ旅費もかかる、そうした経済的負担を実家にかけてもいいのかと。

 それの魔族を討伐するとなれば危険が伴う、そうした危険にネロリや真由を巻き込むようなことをしていいのかと。

 そうした濃やかな悩みを切り捨てられないのは、つまるところ優しさであるとセバスチャンは知っている。そのやさしさを好ましくも思う。だが、その優しさゆえのこの先苦労することもあるだろうと、それも知っているからこそ、彼はどうしても、厳しいひとことを添えずにはいられないのだ。

「いつまでも私に甘えていないで、さあ、どうすればいいか、これでわかったでしょ!」

 ユーリウスはきりっとした顔で深く頷く。

「今から私たちはレスの作戦のサポートに回ります。作戦上の隊長は、レス、あなたにお願いします」

「御意に」

 レスは早速、懐から一枚の紙を取り出した。

「聞き込みのついでにこのあたりの地図をもらってきたんですけどね、ごらんのとおり、村のぐるりは里山になっている。魔族四人が隠れるにはうってつけだが、探すとなるとなかなかに厄介だろう」

「まさか、この広い山の中をくまなく探すつもりですか」

「いや、ここは里山だ、村人たちがある程度の地形を把握している。逃亡者が隠れて暮らすに都合のいい炭焼き小屋や洞窟をピックアップしてくれたから、それをひとつずつ確認して歩くだけの簡単なお仕事だ」

 そうは言っても地図の上には二十個ほどの×印が書きこまれている。ユーリウスはその印を軽く目で追って数えた。

「23か所、五人ならば四個とちょっとずつ確認すればいいだけですね」

「それだと戦力が分散される。特に見るからに非戦闘員である女性や小僧を一人で行動させるわけにはいきませんね、山にはクマや狼なんかもいるでしょうし、突発的な戦闘になった場合の連携にも不安がある。面倒でも全員で行動しましょう」

「なるほど、つまりみんなでピクニック、ってわけですね」

「そうですね、名付けて『ピクニック作戦』です」

「では早速、山へ行ってみましょう」

 こうして、魔族の隠れ家を探すための山歩きが始まった。


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