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「つまり俺は、この手であんたを葬ってやろうと思ったんだ、そしてあんたの親父も、王様も、はっきりとは言わなかったが、それを望んでいる、だからこそ、俺があんたの御者に選ばれたんだろうさ」
老御者は口角泡飛ばす勢いで大演説をかますが、セバスチャンは少しも慌てない。
なにしろ四人の魔族は逃げ出してしまったのだから、彼一人の戦闘力など屁でもない。あたりに怪しい魔具は散らばっているが、それらを使いこなす知識を彼は持ち合わせていないはず……そう思ってしまったことがセバスチャン最大の油断であった。
セバスチャンは軽く指を鳴らし、老御者を脅す。
「おしゃべりはそのくらいでいいか?」
しかし老御者は、偉そうな態度を崩すことはない。
「そうそう、俺ぁ、あんたのことも気に食わなかったんだよ、新入りのくせに偉そうでさあ」
対するセバスチャンは余裕綽綽、拳をぐっと固めて体術の構えだ。
「で、気に入らないからどうしようというんだ? 頼みの魔族たちは逃げてしまって一人きり、お前の負けは確定しているというのに」
「ふん、それはどうかな」
突如、老御者が大きく動いた。グッと体を沈めて足元に落ちていた魔道具を掴んだのだ。
「難しい道具は無理だがな! このくらいは俺でも使えるんだよ!」
それは一見するとただの投網に見えた。しかし、魔族が魔力を込めて作った魔道具が、ただの投網であろうはずがない。
「マ・ロック!」
老御者が叫ぶ発動の呪文と共に、投網は空中で大きく開いた。
「しまった!」
セバスチャンは身をよじって横飛びに逃げようとするが、もう遅い。広がった投網はセバスチャンを頭から包み込み、その網目のうちに彼を閉じ込めてしまった。
老御者は高笑いだ。
「ははははは! さて、ユーリウス坊ちゃんの賢い執事様なら、これがどんな代物か分かってんだろ」
「魔族が魔魚を獲るのに使う網だ……中に閉じ込めたものの魔力と体力を封じる魔道具……」
「ご名答、わかってんなら大人しくしてな」
この状況を見たユーリウスは、グッと足を踏ん張って剣を振り回そうとした。
「おっと、そうはさせねえよ!」
老御者は部屋の隅に溜まっていた埃を掴み、ユーリの鼻先へばら撒く。
それを吸い込んだ途端、ユーリウスの肺がヒュオッと音を立てた。さらには激しく咳き込み、苦しさに膝を折る。
「くっ……発作……が……」
「ははははは! あの回復女を連れてこなかったのが痛手だな!」
「真由……さん……」
「あんたを回復させるあの女は邪魔だった、だから先にあの女を始末しようとしたんだがな、その必要はなかったな、まさか大事な回復術士を置いてくるなんてな!」
「真由……さんには……手出しは……させない……」
「無理だっつーの、あんた、ここで死ぬんだから!」
セバスチャンは網から逃れようともがくが、もがけばもがくほど急速に体力を奪われてゆく。
「ユーリ……くそっ、この網さえ外れれば……」
いまや優位に立っているのは御者頭である。彼はセバスチャンがもがく様子を見下ろし、満足そうに笑っていた。
「おぼっちゃまのことより、自分の心配をしなよ。俺は今からあんたに、トドメを刺そうと思ってるんだが?」
セバスチャンは投網に力の全てを封じられて動けない。ユーリウスは喘息の発作で胸を押さえて咳き込み、剣を振るうどころではない。
まさに万事休す!
セバスチャンは唇を噛み、網目を透かして老御者を睨みつけた。
「くそっ、こんなところで……」




