試合の結末
今回は違う視点で描写してみました。
僕はマルス。
以前までは、しがない行商人だった男だよ〜。今では王都の一等地に店を構える商会の長だけどね。
いきなりだけど、今日は魔導大会の初日だ。
何故、僕みたいな大商人が魔導大会なんかに注目しているかって?
そんなの決まってるよ〜。
イチジョウ・ユウ。
この男の敗北する姿を眺めたいからだよ〜。
昔、なけなしの金で買った商売道具を見事に巻き上げられたんだ〜。あの時は行商人だったからロングソード一振りでも懐が痛かったんだよね。
意趣返し、って訳ではないけど僕からロングソードを巻き上げた、あの男の試合を観に行く。
いかに、ゴブリンキングを倒した猛者と言えども、魔法だけの大会では真価を発揮できはしないだろうし、今大会にはゴブリンキングを単騎で倒せる程の猛者が勢揃いしているから勝ち残るのは厳しいだろうね〜。
敗北する瞬間をしっかり見てから良い気分で帰ろう。
会場へ着くと、あの男の試合が始まるところだった。
入場時に購入した、対戦選手名簿を眺める。
「……ん?…没落したアンブラー家からも出場者がいるな〜。」
アンブラー家とは、闇属性の魔法適性のある者同士で交配し栄えてきた貴族家だった。
過去形なのは、今年の初頭に王家へ挨拶へ行く行事をすっぽかして、何かの研究に勤しんでいたからだ。
その行為で王家の怒りを買ったアンブラー家は、最近目立った功績も残していなかった事も相まって、貴族の資格を剥奪されたのだ。
「それにしても、面白い組み合わせだね。」
ジェノス・アンブラーは、幼くして闇属性の上位属性––––暗黒属性––––を発現させた天才だ。
また、類い稀な魔力量に、緻密な魔力操作が出来たから将来を渇望されていた魔法使いだったのだ。
しかし、アンブラー家の特有の性格とも言うべきか、成長していく過程で、不思議(厨二病)な性格になってしまったのだ。
それからは、魔法の実用性や、威力などには拘らず、意味の分からない格好良さを求める様になったのだ。
そうなってからは、表舞台から姿を消していたのだ。
「どこまで成長しているかが今試合のネックになるね〜。ユウをジェノスが超えているか、それともユウがジェノスを圧倒するか。」
試合が始まると、ジェノスと思われる男が、強力な魔法を発動させて大多数の選手を戦闘不能へ追い込んでいく。
その中でも、しっかりと防御が出来ているのはユウくらいだろう。
「流石はユウだね。……でも、アンブラー家の天才はこんな物じゃない筈だよ〜。」
その後は、互いに魔法を撃ち合い続ける。
魔力の飽和により中心部が爆発した後、両者は2、3言なにかを話してから魔力を再度高めあっていく。
しかし、魔力の密度や、量が桁違いに大きい。
両者の具現化した魔力が互いにぶつかり、空間が軋んでいる。
先に仕掛けたのは魔法が完成したジェノスだった。
「深淵!」
漆黒の球体は複数に分裂して、多方向からユウヘ襲い掛かる。
これを全て避けきるのは不可能だろう。
残された選択は、防ぐ事か、魔法を消し飛ばす事くらいだ。
「……これはジェノスで決まりかな〜。ユウはジェノスに及ばなかったか〜。」
帰り支度を始めようとした時に、ソレは起きた。
純白の魔力が放出され、神の楯、を形作っていく。
ソレは、精緻な装飾はされていないが、思わず見惚れてしまう魅力を持っていた。
ジェノスの放った魔法は、楯に触れた途端に魔力まで分解され、ユウヘ吸収されていく。
急激にユウの魔力が膨らみ、右手に高密度の魔力を収束させていく。
「神轟雷雨!!」
右手の五指、全てから白雷が迸る。
数百の、白い閃光が空間へ入り乱れ、神話の世界へ紛れ込んだかの様に錯覚する程の光景だ。
白雷はジェノスの魔力障壁を一撃目で粉砕し、残りの白雷が突き刺さり、貫通していく。
白雷は、一撃、一撃が、必殺の威力を宿しており、ジェノスを貫通した白雷が、アーティファクトの結界へ炸裂し、軋みをあげて、ヒビが入っていく。
時間にして数十秒だと思うが、数時間も先程の光景を眺めている様に感じた。
「………し、し、勝者、イチジョウ・ユウ!!!!!!!」
審判らしき男が、試合の終焉を告げると、数秒後、会場を割れんばかりの歓声が支配する。
「……ユウは化け物だったんだね〜。これは商会をあげて支援しといて損は無いね。………帰ったら早速、会議をしようかな…。」
暫く、唖然としていたが立ち直ると、興奮した観客が溢れている、この場を後にした。




