動き出す未来
スランプです……。
「ユウ、お疲れ様! とっても格好良かったよ!!」
初戦から激しい闘いを終えベンチに帰るとアリシアからの熱い抱擁が待っていた。柔らかな感触が悠の胸板に押し付けられ、ぐにぐにと形を変えていく。
「…アリシア、気持ちは嬉しいけど人の目がある場所では軽いスキンシップでもいいかな?」
「そうなのじゃ!! 妾だけ置いてけぼりにしてイチャつきよって!」
「すまん!今度はイブともイチャついてあげるから許してくれ!」
「…わ、妾と、イチャつくじゃと! ……恥ずかしいのじゃ……。」
こんな美幼女に意地悪していると何だかイケナイ事をしている気がしてくる。今日はこの辺で勘弁しておこう。
「……ユウ!! 私がいながらイブちゃんにも手を出すんだ。」
「ア、アリシアさん…?」
アリシアの身体から高密度の魔力が吹き出してくる。業火を宿した魔力が周囲一帯に溢れ気温が一気に上昇する。
まるでサウナに入っているかの様な気温だ。
周りにいた観客は高密度の魔力にあてられて朦朧としているのか、足取りが怪しい者がいる。また、魔力にあてられていない者も気温にやられて辛そうにしていた。
「アリシア、安心して。この世界で俺が一番に愛しいと思っているのは……。君だけだよ。」
「……も、もう、ユウったら人目がある所で恥ずかしいんだから!!……で、でも、すっごい嬉しいよ!」
周囲を支配していた灼熱は一瞬にして消え失せ、先程までの残滓を一切感じさせない。
朦朧としていた観客は、到着した救護班の人に医務室へ運ばれていった。
もちろん、アリシアが原因とは誰も言い出せない。
だが、此処は男の俺が責任を持つ所だろう。
「さっきの観客の不調は俺の所為です。侘びの印として金銭を払いたいので、医務室の場所を教えて頂けますか。」
「分かりました。医務室は一階にある事務室に隣接しています。事務室は今朝エントリー登録をしていただいた場所を右折して真っ直ぐ進めば着きます。……この様な騒ぎはこれきりにして下さいね。」
救護班のリーダーらしき人に軽く説教をされたが、これくらいで済んだのは運が良いとしか言いようがないだろう。
そのまま、アリシアとイブを連れて医務室へ向かう。闘技場内部は、石材を使って重厚に造られていて、石材の1つ1つには微細ながらも魔力を感じる。しっかり観察してすると、魔法文字の様な文字が刻み込まれていて、その文字が魔力を持っていると推測される。
……この技術を武器に使えれば凄い事になるんじゃないか。後でマルスの商会に行って聞いてみよう。
医務室内部は清潔感のある白い大理石の様な石材で造られていた。内部は思ったよりも広くベッドが多く並べられていた。ベッドの質も良く、そこらの宿よりは断然フカフカだろう。
アリシアの魔力にあてられた人達へ侘びの印として魔石を数個ずつ配ると、物凄く感謝された。
流石は高ランクの魔石だな。
その後は、被害者に謝ったが、魔石効果なのか分からないが、みんな快く許してくれた。
「次の試合まで時間が空くからマルスの商会にでも行ってみないか?」
「妾は武具や道具など見ても楽しくないのじゃー!!」
「イブちゃん、商会に行ったらクッキーとかがあると思うよ?」
「むぅ〜〜。……クッキーがあるならば行ってやらんでもないのじゃ!」
前世で見た事がある、駄々っ子のようになっていたがアリシアの巧妙なフォロー?により、イブは機嫌が直ったのか鼻歌を歌っている。
………魔王様チョロすぎないか。
「……ま、まあ好きなだけクッキーを食べると良いよ! 何なら、これから先の旅で必要になるイブの防具とかも買っておきたいからな。」
イブの魔法攻撃力は先代魔王なだけあってズバ抜けているが、防御力に関しては、魔族の中でも魔法攻撃力に長け、防御力が劣った種族らしく結界を破られると紙の防御力になってしまう。
なので、せめて良い防具を装備させてやりたいと思ったのだ。
後は、魔法文字について聞く事だな。この力を、上手く活用する事が出来るなら、アリシアやイブの致死率が少しでも下がる。
「よし、みんな行くか!」
「「はい(なのじゃ)!!」」
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「これより〜、新生マルス商会の会議を始めま〜す。では〜、まず、魔道具部門の担当者からお願いしま〜す。」
「……はっ!魔道具部門は売り上げを順調に伸ばしております。各地で魔物が凶暴化したり、突然変異したりして冒険者達からの魔道具の需要は高まっています。安価な低品質の品を大量生産するのも一区切りにして、より治癒力を高めた回復薬を売りに出した方が収益の増加を図れると推測します。」
「へぇ〜、確かに言う通りだね〜、僕もそろそろ低品質で安価なポーションから高品質なポーションへ切り替えるべきだと思ってたんだ〜。そろそろ戦争が始まりそうだし、低品質なポーションだと戦では使い物にならないだろうからね〜。ここで王都でも随一の技術力を見せれば、きっと受注は増えるよね〜。」
「流石は若旦那でございます!あたかも未来を見通すかの如き先見の明には感服いたしました!……では、高品質回復薬の増産に入りたいと思います!」
「期待してるよ〜。」
「次は武具担当の私が報告させて頂きますわ。最近は短剣や槍、片手剣などの軽武器の売れ行きがあまりよくありませんわ。原因として考えられるのは、魔物が強くなっている。という事ですわね。厚く硬い皮膚を、貫通したり切断したりするには重武器がうってつけですから。ですので、武具部門が研究していた、魔法武具が完成次第、大々的に販売しようと考えていますわ!!」
「……驚いたよ。まさか魔法武具が実用段階にこぎつけれるなんてね。」
「うふふ。私達の努力の結晶でしてよ?……それで、武具部門からは魔法武具を実用テスト後に、販売する許可を頂きたいのですわ!」
「販売しても大丈夫だよ〜。……あ、でも実用テストを通過した片手剣タイプの、魔法武具を一振り早急に仕上げてほしいんだ〜。出来るかな〜?」
「そのくらいなら出来ない筈はありませんわ!……ですが、その片手剣を如何様に扱うのでして?」
「…秘密。…と言いたいけど、日頃頑張ってもらってる君達に話さない訳にはいけないよね。……片手剣は先行投資として1人の冒険者にプレゼントしようと思っているんだよ。」
「「「「…っっ!?」」」」
各部門の長達が息を飲む。
それも無理はないと思える。なにせ、王都の一等地へ店を構える大商会の、次世代を担う目玉商品を、1人の冒険者へプレゼントすると言うからだ。
今は王都へSランク冒険者は不在だ。
それは裏を返せば、Sランク以外の冒険者へ目玉商品をプレゼントする事と同義だからだ。
「……会長、いかに会長の知己とはいえ…我が商会の未来を左右する商会をプレゼントするのは如何なものかと思いますわ!!」
「だから、先行投資だって〜。絶対に元は取れるから大丈夫だよ〜。それに、ユウを味方に付けておく方が将来的にプラスだと思うからね〜。最初に味方をする商会が一番多く甘い汁を吸えるんだよ〜。」
「……のびのび商売する会長がそこまで言うなら間違いないですわ。……武具部門の名に懸けて、最高の一振りを完成させますわ!!!」
「頼んだよ〜。」
これは、悠が医務室へ向かう途中に、某商会の会議室で密かに行われた会議の一部である。
この判断は吉と出るのか、はたまた、凶と出るのか。
今のマルスには知る余地もない。
色々と忙しかったとはいえ、ここまで執筆が遅くなるとは……。師走は恐ろしわすですね。




