懐かしの
翌朝。
まだ、完全に日が昇る前。空は薄暗く、気温は低い。
悠は、いつも通りの時間に起床し、普段からしている修練を始める。
まず、魔力を体中に循環させ、効率や密度を高める。魔力を巡らすと、体の中から温まってポカポカしてくる。
次は、足運びや歩法の練習だ。
悠は、戦闘において、最も重要になるのが機動力だと考えている。なので、一歩ずつ集中して踏みしめる。
最後になり、やっと剣の鍛錬の時間がやってくる。
この頃には、悠の額には大粒の汗が浮かび、息もあがっている。また、最初は薄暗かったが、空は明るさを増している。
––––––シュッ! シュッ!
刀の風を切る音だけが静寂の中聞こえてくる。時折、襲ってくるモンスターを一刀のもとに斬り伏せていく。
昨晩の見張りは、ソルスにしてもらった。そのお陰か、今日はぐっすり眠る事が出来た。
王都に着いたら、とびきり美味しい肉串を食わしてやろう。
暫くして、朝のメニューを終えると野営地に向け、歩いていく。
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「……それにしても長いな…。」
「…まあ、私達は平民だから待ち時間が長いのは仕方ないよ!」
そう
俺達は今、王都へ入るための手続きをしようとしている。だが、思ったよりも人が多く、なかなか行列は減らない。
「………何でこんな人が多いんだろうね。」
何時もは元気いっぱいのアリシアでさえ、この調子だ。俺なんて、今にも寝そうなくらい並ぶのに疲れた。
「…戦争が近いから、商人や、腕に自信がある冒険者が王都に集まってるんじゃないかな。」
「そうなのかな。」
「へぇ〜、ご明察の通りだよ。久しぶりに会ったけど、順調に成長しているんだね〜!」
「え……。…お前、誰だ?」
「………も、もしかして、覚えてないのかな〜?」
「…ユウ、あの記憶に残らなさそうな顔の人って誰なんですか?」
「……俺は知らんぞ。てか、どっかで会った事あったっけ。」
見た感じは、俺より一回り年上に見える。顔は、平凡と言えるが、どちらかと言えば、整っている部類に入るだろう。
いわば、『中の上』というやつだ。
「……本当に覚えてないんだね。」
「改めて、ボアの村で会った事あるから初めましては言わないよ〜。商人のマルスだよ〜!」
切り替えの早さは一流。流石は、王都へ進出する商人なだけはある。
ん?
この切り替えの早さはどこかで––––
「……あ。あのカモか!!」
「……へ、へぇ〜、僕の事をそんな風に思ってたんだ〜。」
マルスは引き攣った顔で笑うという器用な事をしながらも、スマイルを維持している。コイツは根っからの商人なのだろう。
「まあ、そんな事はおいといて、何の用だ。」
「……顔見知りがいたから話しかけたまでだよ〜。」
「……あんたも暇人だな。で、王都に店でも出すのか?」
マルスの表情に、一瞬だけ哀しげな表情が浮かぶが、直ぐに何時もの笑顔へ戻る。
「違うよ〜。……急に父が亡くなったから、僕が父の商会を継ぐ事になったんだ〜。良かったら暇な時にでも、見に来てね〜。」
「……残念だったな。…天国の親父が安心出来るくらい、しっかり頑張れよ。…あと、時間ある時に見にいくからな。」
「ありがと〜。商会は、王都の3層目の東側にあるよ〜。」
「分かった。楽しみにしとく!」
その後も、順番が来るまでマルスとアリシアで話し続けていた。
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王城【玉座の間】
煌びやかに装飾された玉座の間。その荘厳な雰囲気の中、一番上座に座る、男が跪いて頭を垂れているローブの者に問いかける。
「–––強大な魔力の波動を感じた。というのは誠なのか、オリバーよ。」
オリバーと呼ばれたローブの男は、真剣な表情を浮かべたまま喋りだす。
「…はっ! 宮廷魔導士の名にかけて、偽りはございません。」
「…皆の者、どう思う。」
「早急に討伐を!!」
「いえ、討伐は早計と思います!」
「国にとって危険でないのなら放置すべきです!」
様々な意見が飛び交うが、上座に座る男が一喝すると、急激に辺りは静まる。
「…余としては帝国との戦の為に戦力は温存しておきたい。それに、善悪は別としても、強大な魔力を持つ者を味方にするのと、敵にするのでは、帝国との戦の結果が大きく異なってくる。」
「しかし、如何様にして強大な魔力の主を探し出すのですか。」
「無礼ながら、発言させて頂いてよろしいでしょうか!!」
オリバーは、上座に座る男に、許可を求める。
「うむ、言ってみるがよい。」
「ありがとうございます!」
「王都にある、闘技場を使用して、魔法だけで闘う大会を催すのは如何でしょうか。」
上座に座る男は、口元の髭をさすりながら、少しの間考え込む。
「……ふむ、悪くはないの。じゃが、かの者が必ず出場する可能性はないぞ?」
「王よ、私は、何か景品を出せば解決する問題かと愚考いたします。」
その一言に、室内に騒めきが広がる。
「たかが、1人の魔法使いを引き入れる為に金をいくら使う気だ!!」
「そうだ!! 王国も金が溢れている訳ではないのだぞ!」
「もう少し考えてから発言せよ!」
「よい、余が許可しよう。」
王の一言で、その場の雰囲気が変化する。王の仕草や、眼光、一言にさえも覇気が宿っているかのようだ。
先ほどまで、騒ぎ立てていた貴族らしき輩も、今では知らん顔をして座っている。
「オリバーよ、そなたの主導にて、魔導大会を開催せよ。期間は一ヶ月以内じゃ、それ以上延びると帝国に抜け駆けされかねんからの。」
「オリバー、おぬしに王命を下す。」
「魔導大会にて、件の魔法使いを見つけ出し、我が国に引き込むのだ。…頼んだぞ。」
「王命、しかと受け賜わりました。このオリバー、命に代えても果たしてみせます!!」
オリバーは、恭しく頭を垂れ、王命を受ける。周りの貴族からは、もう野次は飛んでこない。
そのまま、一礼すると扉を開け退出していった。
すみません。話が思ったより進まなくて、王都に入るのは次回からになります!




