王都
「へえ、これが王都か。」
あれから数時間待ち、先ほど王都に入る事が出来たからか、悠の何気ない一言がとても感慨深く聞こえる。
「…ユウ、すごいね!!」
アリシアは、長時間並んでいたせいなのか、ぐったりしていたが、何時の間にかケロッとしている。
「ああ、久し振りの都会だな。」
「ユウは都に来た事があったの〜?」
「いや、夢の中で来たのを勘違いしたのかもしれん。」
「そっかあ〜。それじゃあ、僕は行くね〜!」
別れを告げ、今日の宿を探しに歩く。
王都は、円形に造られていて、中は3層で隔てられている。1番広い面積を誇るのは、外周に造られた1層だ。主に、地位の低い平民や、スラムがあり治安は、お世辞にも良いとは言えない。
2番目に広いのは、今現在、悠達のいる2層だ。ここは、商人や鍛冶師などで賑わっていて、冒険者ギルドなど、役所関連も充実している。治安は1層に近付く程悪くなるが、基本的には安全だと思える。
また、2層には、国民の楽しみの1つの、闘技場がある。ここでは、2日に1回、戦争奴隷、いわゆる戦奴と呼ばれている者達だ。
彼等は、日々鍛錬して殺し合いや、モンスターとの戦闘を見世物にされている。だが、有名な選手にもなると、貴族にスカウトされ高い金で買われ、不自由な生活はしないでもよくなる。なので、戦奴も毎日が命懸けだが、普通の奴隷よりは恵まれていると感じている。
3層は、貴族達や豪商の住む場所だ。王城を除けば1番中心部にあり、何かあった時も安全だと言える。また、3層に入るには身分証が必要で、選ばれた人しか入る事は許されていない。
これは、王国法で定められていて、破ると重い罰を与えられる。
「ユウ!! ここが良いと思う!」
そう言ってアリシアが指差すのは、少し高そうな宿だった。看板には、料理に関する事が記載されていて、アリシアの目線は完全にそこへ向いている。
(…まあ、金にも困ってないから、たまには贅沢も悪くないな。)
「…アリシア、今日の宿はここにしよう。」
「ほんと!? やった〜!」
今にも鼻歌が聞こえてきそうなテンションで宿に入っていく。その後に、悠も続けて入る。
店の中は、どこか和を感じさせる雰囲気だった。
まるで、九州にでもありそうな旅館だ。受付に聞くと、ここでは温泉に入る事が出来るらしいのだ。日本人として、温泉、という言葉には心が惹かれる。また、『夜桜と月亭』という名前も日本を思い出して良いと思った。
そのまま、金を払って別々に行動を始める。
また、部屋に入ってイブを出してやると、アリシアと王都見物に行くと言っていた。
………手を繋いで、王都の商店街へ繰り出す2人の姿が、親子の様に見えたのは、ここだけの秘密だ。
「それじゃあ、召喚士の登録に行くか。」
そうなのだ。
ソルスを何時でも使える様にするには、召喚士登録をする必要があったのだ。この世界では、力が無ければ、無惨に奪われる事も十分あり得る。だから、登録する事は王都へ来て、1番重要な用事だったのだ。
暫く道を聞いたりしながら歩くと、召喚士登録の役所が見えてきた。見た感じでは、石造りの二階建てで、扉には軽く装飾が施されている。流石は王都の役所だ。
悠は、役所の中へ迷わず踏み込んでいく。
中に入ると、ユニーク属性の魔法という事もあって、使える人は少ないと思っていたが、予想に反して多かった。
推測になるが、例え1000人に1人しか扱えなくとも、国民が多くなると、それだけ扱える人も増えるのだろう。
悠は、カウンターの列に並び、改めて周りを見渡す。
辺りには、申請にきたであろう人や、掲示板を眺めている人もいる。
その中で、1番人が密集していたのは、掲示板だ。
……申請が終わったら見てみよう。
「こんにちは、召喚士の申請でしょうか。」
「ああ、時間はどのくらいかかる?…あと、金はいるのか?」
「基本的には、登録費として、銀貨5枚を頂いています。時間ですが、現在は少し混み合っておりますので、専門の職員が空き次第、召喚獣を記録させて頂きますので、最長2時間程だと思います。」
「分かった、それで頼む。」
悠は銀貨を5枚カウンターへ並べ、整理券をもらいカウンターを離れる。
掲示板の人混みは少し減っていて、後ろからでも、見えるだろう。
人混みの後ろに近付き、貼り付けられてある羊皮紙を眺める。その中で特に異彩を放っていた物があった。
ーーーーー王命ーーーーー
1.闘技場にて、魔法だけで闘う大会を開催する。また、大会名は【魔導大会】とする。
2.参加資格は魔法を扱える事、15歳以上の者。
3.掲示板に張り出されてから3日以内に申し込む事。また、大会は1週間後に開催する事とする。
4.優勝者には、景品として爵位と領地を下賜する。
ーーーーー宮廷魔導士 バトラー・セインツーーーーー
(へえ、面白そうだな。今のアリシアと俺の実力を正確に測るのにはうってつけだし……参加してみるか。)
開催本部の場所を覚えて、その場を離れる。
暫くは、役所の中を歩いて回ったが暇になったから椅子に腰掛け、目を瞑る。
夢と現実の世界を彷徨っていると、職員らしき人に体を揺すられながら声をかけられる。
「–––した、ユウさん。お待たせしました–––」
「…!?…悪い、いつの間にか寝てたみたいだ。」
「大丈夫ですよ。それでは参りましょうか。」
しっかりとした服装に身を包んだ職員に案内され、役所の裏へ回る。
役所の裏には、召喚獣を召喚する為のグラウンドが整備されている。
「それでは、ここに召喚獣を召喚して頂けますか?」
「分かった。……召喚・聖竜!!」
悠が召喚すると、レベルが上がり成竜となったソルスが現れる。竜種なだけあって、尻尾を含めた体長は、5メートルほどになっていた。
「ひ、ひぃぃぃ!?」
職員は、あまりの迫力に腰を抜かしたのか地面に尻餅をついている。
「……大丈夫ですか?」
「…だ、大丈夫です。見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません。」
すかさず、立ち上がり、勢いよく頭を下げる。スーツのような服と相まって、その姿はとても絵になっていた。
「いや、全然大丈夫ですから。…早いとこ記録をお願いします。」
「分かりました。」
そう言うと、スーツの男は持ってきていた書類に何やら書き込み始める。暫く後に書き終えたのか、顔をあげた。
「…記入が終わりましたので、送還して頂いて結構です。」
「分かりました。……ありがとうございます!」
その後、申請は滞りなく進み、最後に注意事項を説明されて終了した。
悠は、夜桜と月亭へ向け、活気のある王都の道を歩いて行く。




