昇格
部屋の中は、あまり華美に飾り付けられて無く、質素だが品を感じさせる絵画や壺が置かれている。
大きな机に座っていたのは、銀色の髪の少女だった。
あどけなさの残る童顔は、感情を感じさせない程に無表情だ。また、髪は腰辺りまで伸びていて、窓から差し込む光を浴びてキラキラ輝いていた。耳の先が少し尖っている気がするが、エルフなのだろうか。
体のラインが隠れる、ゆったりしたローブを着用しているからなのか凹凸はあまり伺えない。
「…どうぞ、お掛け下さい。」
ギルドマスターから声がかかり、悠とアリシアは椅子に腰掛ける。
「私はフォルの街、冒険者ギルドマスターのフェリス。」
そう一言告げ、ペコリとお辞儀をする。
まるで人形のような美しさに少し見惚れたが、気付かれない程の一瞬だったからか、咎められる事は無かった。
「…俺はDランク冒険者の一条 悠です。」
「私はBランク冒険者のアリシアよ!」
「今日来てもらったのはダンジョン攻略について聞かせて欲しいのと、昇進についてよ」
淡々と要件を告げるフェリスに、拍子抜けしながらもダンジョンでの出来事を語っていく。
もちろん、悪魔については触れないようにしてだ。悪魔絡みだと話がややこしくなりそうな気がしたからだろう。
一通り語り終わると、フェリスは鈴を鳴らした。
暫く経ち、メイドが飲み物を運んでくる。悠とアリシアには、果実水が運ばれ、フェリスにはコーヒーらしき飲み物を給仕する。
メイドは仕事を終えると、一礼してから部屋を退出する。
「どうぞ、オレンの果実水よ。」
「では、遠慮なく頂きます。」
悠は長らく喋り続けた舌を湿らすように少しずつ口に含み味わって嚥下していく。
アリシアは、悠とは対称的にゴクゴクと喉を鳴らして飲み終えると、美味しかったのか目を輝かせている。
「…あら、おかわりが必要なら遠慮なく言って頂戴ね」
フェリスの一言に、アリシアは品を欠いたのが恥ずかしいのか頬を赤らめている。
「それでは、続きを話しましょうか」
「貴方達は、Aランクダンジョン『ヘルヘイム』攻略を成し得ました。この功績により、アリシアをAランク冒険者とします。」
「ありがとうございます!」
アリシアは、満面の笑顔で返答している。その横顔は見ているだけで幸せになりそうな程に、美しかった。
「最後に…一条 悠をDランク冒険者から、Bランク冒険者に昇進させます。」
「……謹んでお受けします。」
内心では、物凄く驚いたが間が空いただけで、表情に出す無礼は避けれただろう。2階級昇進とは、Aランクダンジョンの攻略はかなり評価されたのだろう。
「話はこれで終わりですが、少し余談をしましょう。」
「貴方達は、帝国との戦争に参加する気はありませんか?」
フェリスの紫色の瞳に見詰められる。
悠は少し考えると、答えを出したのか口を開く。
「…いえ、戦争に参加する理由がありませんので今回は参加を見送らせて頂こうと思います」
「え!? ちょっと! ユウ何で、さん『これにて失礼します』
アリシアが何事か喋ろうとしていたが、重力魔法で口を閉ざし、悠は言葉を被せた。
悠は一礼して、部屋を出る。
「何で参加しなかったのよ!」
「今は、戦争に参加するよりも異界の住人を排除する事が優先だよ。」
「むう。」
アリシアは、頬を膨らませ、此方を睨みつけているが、本気で怒っている訳ではないのだろう。殺気や、怒気は伝わってこない。
「…まあ、ユウと一緒に居られるならいっか。」
「ん?」
「何でもないっ! さあ、新たな旅に向けて準備しよっ!」
アリシアは、悠の手を引きながら外へ向け歩いていく。
その横顔には出会った頃の、思い詰めた表情は無くなっていて、燦々と輝く太陽の様に明るいものだった。
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「…面白い子達ですね。」
悠達が立ち去った後のギルドマスター室では、フェリスが書類を見ながら独り言をこぼしていた。
「私の鑑定眼が視てきた中で、あんなステータスの子は1人しか知らないわ。」
そう言うと立ち上がり、壁際に鎮座されてある水晶へ向かう。
水晶へ辿り着くと、魔力を練り上げ、少しずつ注いでいく。暫くして水晶が発光すると、初老の男が映っていた。
「久しぶりね、ウィル。」
「こちらこそだな!フェリスはハーフエルフなだけあって成長してなさそうだがな!」
ガハハと、フェリスの胸元を見ながら笑う。だが、フェリスの無感情な瞳が妖しく光り魔力が溢れ出すと、ウィルは焦ったのか平謝りをしている。
「……次に言ったら、大事な所を消し飛ばすから。」
「…す、すまん!」
冷や汗を流しながら、謝罪する姿は、元Sランク冒険者で、現在のボアの村ギルドマスターには見えないだろう。
「あの子達を鑑定してみた。」
その一言が告げられると、ウィルの表情は引き締まり、真剣な表情に変わる。
「で、どうだったよ?」
「うん、あの子達のステータスは、とてもBやAランクの冒険者には見えない。それに、男の方は、私達とも張り合えるレベルのステータスに、私達を超えるスキルや、女神の加護を持ってた。」
「だから、ユウって子は多分、転生者」
「……やはり、そうか。お前の眼で視たなら間違いねぇ。おい! フェリス、この事は他言無用だ。あいつらが勇者だって事になると魔王も現れる筈だ。そんな事になれば、世界は混乱する。今は、表立って行動する時じゃねぇ!」
「わかってる。王都へは報告に行くから心配無用。至急、帝国との戦争を取りやめて、裏で同盟の準備に入ると思う。」
「分かったぜ、フェリスに任せる。頼んだぞ」
それを最後に水晶は輝きを失い、映像は途切れる。
「……忙しくなりそうな予感。」
フェリスは、ポツリと呟くと急いで書類作成を開始した。
新連載はじめました!
簡単に説明しますと、おっさんの引きこもりニートが、吸血鬼に転生して成り上がる。って感じの物語ですね。
URLを貼っておきますので、よろしければ読んで頂ければと思います。
ヒキニートが転生したら吸血鬼だった。
http://ncode.syosetu.com/n7299dp/1/




