閑話
––神域––
宮殿の様な場所の中では、天使らしき翼の生えた人が忙しなく動き回っていた。宮殿は、古風な作りになっていて古めかしいと感じる。
1階は、天使達の仕事場になっていて、色々な天使が出入りしている。男で、スキンヘッドに厳つい顔の天使や、女で一昔前の、黒ギャルの様に体を焼いている天使。
その中で、黒髪を七三分けにして、黒縁の眼鏡を掛けている、理知的と表すのが適切な男の天使がいた。
男は、傍に書類を抱え足早に進んでいく。
暫くして辿り着いたのは、表札に【イデア】と書かれている扉の前だった。
数度ノックをして、気の抜けた返事がきたのを確認してから、扉を開く。
「…失礼します、中央神界から参りました。主天使のルシフですが、転生神ジュリア様は、いらっしゃいますか」
ルシフと名乗るインテリ天使は、事務的な口調で要件を伝えるべく、尋ねる。
「はいは〜い!…どうしたの〜?」
暫くして、容姿端麗な、ブロンドヘアーの美女が現れた。顔立ちは、10人すれ違えば、全員が振り返る程の美貌を備えている。また、トーガを下から押し上げているプロポーションも、神の奇跡としか言いようが無いほどに素晴らしい。
「…ジュリア様が中央に調べて欲しいと依頼されたのを覚えていらっしゃらないのですか」
黒縁眼鏡の下からジトッとした瞳を女神に向けながら、喋っている。だが、事務的な口調は、一切くずしていない。
「あぁ! すっかり忘れてたよ〜。……それで、何だっけ?」
テヘペロをしながら、謝罪しているが、天使は、さして気にしている様子を見せない。
「…ジュリア様。神が天使などに謝罪は必要ありません。…用件ですが、『イデア』のダンジョンコアの事でございます。」
「そうだったね〜!…それで、あのダンジョンコアが作られた経緯は分かったの?」
「はい、分かりました。あのコアは、遥か昔、イデアに転移した大剣豪が死後、魔力だけが彼の地に留まり、凝り固まって出来たと推測されています。」
「また、コアと同化していた悪魔は元は中級でした。ですが、コアにより、特殊なスキルを取得したり、ステータスが上昇していたと、考えられます。悪魔が『イデア』で顕現出来たのはコアのお陰でしょう」
その言葉に女神は何度も頷きながら、ハッと顔をあげる。
「……あっ!思い出したよ〜。かなり昔に地球から転生者を何人か連れ込んだの、すっかり忘れてた〜!」
「…女神様。要らぬ心配だとは思いますが、進言させて頂きます……もう少し神としての自覚を持っていただきたい。」
ルシフの瞳に、一瞬だけ剣呑な色が宿る。直ぐに、ソレを感じさせないのは流石だと言えるだろう。
「分かったよ〜、ルシフは怖いんだから〜。…それじゃあ、ありがとうね〜!」
「はい。それでは、失礼します。」
そう一言だけ告げると、速やかに退出していく。
「……あの子。その内……。いえ、まだ放っておきましょう。」
残された室内では、先ほどとは打って変わり、転生神の顔は朗らかな表情から、一転して、無表情だ。
何かを予期したかの様に瞳を閉じ、暫くして開けると、元の柔らかい表情に戻っていた。
「…この事は胸の内にしまっておきましょう」
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扉を出た黒縁眼鏡の男、ルシフは独り言なのか、何かを呟きながら歩いていく。
「……あんなのが神だと。俺の方が、絶対に神に相応しいのに…。」
その表情は、侮蔑を浮かべたり、憤怒を浮かべたりと、コロコロと転じている。やがて、宮殿に近づいてくると、何時ものインテリな雰囲気に戻る。
「……今は待ちましょう。……やがて、主神を討ち私が世界を支配します」
その表情には、ルシフの傲慢さは少しも出てはいなかった。




