四強披露宴
魔導決闘祭、準決勝前夜――四強披露宴が開催される特別な夜だ。
学園の中央庭園は赤、青、緑――色とりどりの魔導灯で照らされ、木々には魔術で作られた小さな光がクリスマスツリーのように飾られている。
「すごーい、あんなのも魔術で作れるんだ!」
「私もやってみたい!」
初参加の1年生たちは、飾りを見て目を輝かせる。
四強披露宴に参加するのは生徒や学園関係者だけではない。
「すばらしい魔術技術ですね」
「ぜひ我々の研究にも参加してほしいものです」
国を支えている名家、軍の関係者、王国の魔導師、魔導研究院の関係者――様々な人が、庭園に集まっている。
庭園の中央には長いテーブルがいくつも並べられ、その上にはたくさんの料理が並ぶ。
香草で焼かれた魔獣肉。魚介のマリネ。一口サイズのサンドイッチやパイ。果物を使ったお菓子。
それは普段の学園生活では見ることのない料理ばかりで、各々が気になった料理を手にし、気になった相手に声をかけて会話を楽しんでいる。
そこで主役になっているのは、生徒会長・海崎メグリだ。
「四強入りおめでとうございます会長!」
「ありがとう」
「明日の試合も絶対に勝ってくださいね!」
「もちろんだとも」
――応援する生徒。
「久しぶりだね海崎くん」
「こちらこそ、ご無沙汰しております」
「受け入れ態勢は整っているがやはりまだくるつもりはないかい?」
「非常にありがたいお話ですが、卒業までは学生でいるつもりです」
――親しげに話しかける国の関係者。
海崎メグリは、どこにいても主役だった。
「先輩は行かなくていいんですか? 四強のひとりですよね」
「俺が行っても誰も喜ばないだろ」
「まるで喜んでもらえるなら行くみたいな言い方ですね」
四強披露宴は生徒全員が強制参加で、イズルは仕方なく参加していた。
「パーティの主役なのにわざわざ端っこにいるなんて悲しいですね」
「人のこと言えないだろ」
「私は好きでここにいるからいいんです。 だけど先輩は違うじゃないですか」
「俺も好き好んでここにいるんだ」
人目に入れば、炎帝炎帝と良くない声ばかりが聞こえる。そんな状況で好き好んで目立とうとは、イズルは思えなかった。
できれば目立ちたくない。人前に出ることなく、この時間が終わってほしい。
そう願う気持ちの方が圧倒的に強かった。
だが――その願いは叶わない。
魔導灯の明かりが弱まり、庭園が薄暗くなった。
それを合図に、ざわめいていた庭園も少しずつ静かになっていく。
中央の壇上には、司会を務める教師が上がる。
「皆様、お待たせいたしました。 これより――魔導決闘祭・四強披露宴を行います!」
会場のあちこちから拍手が起こった。
四強披露宴はただのパーティではない。学園にとっては、実力を外部に示すための重要な場だ。
だから――司会を務める教師の声にも熱が入る。
「まずは3年生、九条レオン」
生徒会副会長・九条レオン――生徒会長に次ぐ実力者だ。
派手な魔術はないものの、状況に合わせて戦える機転のよさが高く評価されている。
「……レオン先輩か」
「やっぱり残ったんだ」
壇上へ上がったレオンは、観客席を見渡す。そのしぐさはとても落ち着いていた。
そして最後に来賓席を見ると頭を下げる。
「九条レオンは風魔術使い。 変幻自在の魔術でここまで勝ち上がってきました」
再び拍手が起こり、レオンの四強入りが祝福される。
「では九条――試合に向けて抱負を」
「その瞬間にできる最大限に全力を尽くすだけです」
「頑張れレオン先輩!」
歓声が起こった。レオンはそれに大きく反応することなく、もう一度だけ頭を下げると壇上を降りる。
降りながら、視線は再び観客席を見渡し、最後には次の対戦相手――愛沢月乃に向けられた。
「あんなことを言っておきながら、勝つ気まんまんだな」
「関係ありませんよ」
強い敵意を向けられたというのに、月乃は興味を示さない。
彼女が興味を示すのは、イズルただひとりだ。
「私は先輩に勝つんですから」
レオンが壇上から降りると、会場は次の選手の紹介を待つ。
壇上に立つ教師の顔は少しこわばっていて、イズルは察した。
「では次は――2年生小夜啼イズル」
聞こえた名前に、先程までの盛り上がりが嘘のように静まりかえった。
「炎帝か……」
「勝ち残ったのかよあいつ……」
「なんで棄権しねえんだよ……」
聞こえているのは、祝福とは程遠い――イズルの四強入りをよく思わない声ばかり。
「先輩、呼ばれていますよ」
「この空気で行かなきゃだめか?」
イズルがなかなか動かずにいると、魔導灯が会場の隅にいるイズルを捉えた。
「行くしかないのか?」
「行かないとずっと照らされたままですよ」
「そいつは嫌だな」
イズルはため息を付くと、ゆっくりと壇上へと向かう。その足取りはとても重い。
壇上から感じる会場の空気は、どんよりとしていて重い。
そんな空気を吹き飛ばすべく、教師は叫んだ。
「操る炎は大火力。 強力な水魔法すらも蒸発させるほど。 2年生の中からは唯一の四強入りです」
教師が実績を読み上げていく。その必死の熱気も虚しく、周囲の反応は冷ややかなままだ。
「あいつが四強って、銀狼がいないからだろ?」
生徒の一人がそう言った。
銀狼――それはイズルの元パーティメンバーの一人だ。
そして、イズルだって分かっていた。
――本来四強に入るべきは彼であること。
――彼が壇上に上がっていたら、会場は大盛り上がりだったであろうこと。
(やっぱり俺じゃだめなんだな……)
その証拠に、歓声どころか拍手のひとつも聞こえない。
イズルは今すぐにでも逃げ出したかった。だが四強は、壇上で必ず一言言わなければいけない。
なんとかして言葉を絞り出そうとするが、口が動かない。とっとと何か喋って、この場から降りたい。
そう思うのに、体が言うことを聞いてくれない。
そんな時だった。ひとりの少女が壇上に上がり、イズルの隣に立った。
「先生、次は私の番ですよね?」
呼ばれてもいないのに壇上に立ったのは─―四強のひとり・愛沢月乃だった。
だがそこには、イズルとふたりきりの時のような明るさも、話しているときの柔らかな笑顔もなかった。
そこにいるのは、無表情で淡々と話す――人形のような少女だ。
「ルナ・プリンセスだ」
「冷たい表情がよすぎる」
「人形みたいで可愛すぎる!」
突然の月乃の登場に会場は沸いた。教師としても月乃の登場は大歓迎だったのだろう。
それ以上イズルに話を振るのをやめ、次の紹介をはじめる。
「えー、彼女は愛沢月乃。 1年生ながら四強入り。 戦う姿は舞のよう――扱う氷は絶対零度」
歓声が上がった。その中心は男子たちからだ。
ルナ・プリンセス――愛らしい顔立ちながら、無表情な人形。
そんな少女は、男子生徒から強く人気があった。
「では意気込みを」
「そんなものはありません。 私は私のために勝ちます」
表情だけでなく、言葉もさえも冷たい。だがその反応さえ、男子生徒の歓声を煽った。
「いいぞー、最高だ!!」
「優勝してくれーーー」
月乃は歓声には応えず、イズルの手を取って歩き出す。
壇上から降り、庭園から離れていく。
「抱負的なやつ言えなかったな」
「言いたかったんですか?」
「それはない。 というか、ありがとう」
「先輩はちゃんと感謝してくれるから好きですよ」
薄暗い中でも、月乃が笑ったのがイズルには分かった。
「やっとふたりきりになれましたね、先輩」
月乃の声音は、壇上にいた時とは別人のように弾んでいた。




