魔導決闘祭・準々決勝
日付が変わり─―いよいよ準々決勝がはじまる。
勝てばベスト4入りだ。
学園ではベスト4になった生徒を四強と呼び、その後の学園生活でも優遇される。
生徒にとってそれは特別なことで、誰が四強に残るかという話題で学園内は盛り上がる。
「会長は残るだろ」
「間違いねえ。 というか会長は優勝だろ?」
生徒会長・海崎メグリ─―その圧倒的な実力者の負けを疑う生徒は誰もいない。
「ルナ・プリンセスも決まりだろ」
「だよなー。 ここまで全員瞬殺だし」
「じゃあその相手は?」
試合会場の隅にいるイズルにもその会話が聞こえてきた。
「評判いいな――ルナ・プリンセス」
「先輩からお姫様と呼ばれるのは悪くないですが、どうせならもっと甘酸っぱい感じでお願いします」
「どういう要求だよ」
この日の試合は全部で4試合。すべての試合が闘技場Aで行われる。
「あとは炎帝も残っているのか……」
「そうだな……」
さっきまで盛り上がっていた生徒の間に微妙な空気が流れる。
「けどよ、次の相手はあの水魔術師だ――相性が悪い」
「そうだな、次こそは……」
彼らははっきりと口にはしなかった。それでもはっきりと伝わってきた。
炎帝が誰かに敗れてほしいと。
「先輩、約束─―忘れてないですよね?」
「そうだな」
イズルは静かに答えた。言われなくても分かっていた。
優勝して、この孤立した学園生活を終わらせる。
そのためには、誰が相手であっても負けるわけにはいかない。
試合開始が近づき、壇上に教師が上がった。
「第1試合─―選手は壇上へ」
その合図でイズルは歩き出す。周囲から向けられる冷ややかな視線を全身で感じながら。
「来たか炎帝。 貴様の悪行もここまでだ」
イズルが壇上に上がると、対戦相手の佐藤はすでにいた。
彼は生徒会に所属していて、生徒会長がイズルを気にかけていることをよく思っていない。
「四強は貴様がごときがなっていいものではない。 今すぐ棄権し、学園を去れ」
「お断りします」
一方的に向けられる敵意。こうなることもイズルは分かっていた。
だからあえて何も答えない。
佐藤もその反応を予想できていたのだろう。さらに敵意を強め、声を上げた。
「では貴様を排除する」
その言葉が合図だった。
「試合開始っ!!」
教師が高らかに宣言した。
イズルは鞘を抜いた─―いつものように壇上が炎に包まれ、観客からは悲鳴があがる。
これまでと同じ戦い方だ。
そしてこれまでの相手なら、これだけで勝負は決まっていた。
─―だが相手は四強を目指す実力者。そう簡単に勝負は決まらない。
壇上を包み込んでいた炎が、内側からはじけた。
現れたのは水魔術で作られた分厚い壁だ。
その壁は炎を消しながらイズルに向かって進んでいく。
「炎では、水には勝てぬだろう」
その光景に、観戦していた生徒たちは盛り上がる。
「いいぞー、炎帝なんてやっちまえ!」
闘技場を包む空気は、佐藤の勝利を願う声ばかり。
その声は当然、イズルにも届いている。
(やっぱり……この学園に俺の居場所はないんだな)
周囲の盛り上がりを聞いて、イズルは改めて決意した。
「こんな学園、とっとと出ていくか」
その瞬間─―炎が強くなった。
分厚い水の壁は水蒸気に変わり、みるみるうちに体積が減っていく。
そして─―壁が減った分だけ、炎は佐藤に迫る。
「バカなっ、そんなことがあっていいはずがない!」
その叫びは虚しく、炎は水の壁を完全に消し去って、佐藤を包み込んだ。
「きゃーーーーーー」
悲鳴が上がった。
炎帝の噂を知っている生徒は想像した。黒焦げになって倒れる佐藤の姿を。
「ピーピーピー」
シールドが0になった合図が鳴り響き、イズルは刃を鞘に収めた。
炎はすぐに消え――そこにいるのは、地面に膝をついている佐藤だった。
「バカな、貴様は手加減したのか!? なぜ俺は黒焦げになっていない!!」
佐藤は唇を噛みしめながらイズルを睨みつける。
「別に俺は――」
イズルは答えようとしてやめた。
相手が全力で悔しがっているのが分かったからだ。
(もし俺が負けたとして、あそこまで悔しがれるのだろうか)
壇上を降りるイズルに、勝利の歓声はない。
(やっぱり俺はひとりなんだな……)
今日はもう試合はない。
夜には全校生徒強制参加のイベントがあるが、それまでは自由だ。
気づけば、いつものように第二演習場に来た。
ひとりで過ごすのは慣れていた。誰にも注目されず、ゆっくりと過ごせる平穏。
そのはずなのに――とても虚しく感じた。
「なんのために俺は、この学園にいるんだろうな……」
タッタッタ─―足音が近づいてくる。
とても軽い、飛び跳ねるような足音。
その足音でイズルの平穏は壊れる。
「聞いてくださいよ先輩!」
ひとりで過ごすはずだった時間は、楽し気な声で埋めつくされる。
「瞬殺でしたよ!」
「そうか」
「というか先輩、どうして私の試合を見てくれないんですか! ……あ、やっぱり見なくていいです。 恥ずかしいので」
勝手にひとりで話しながら、勝手に表情がコロコロ変わっていく。
楽しそうに笑ったかと思えば、次の瞬間に勝手に照れている。
様々な感情が、秒単位で流れていく。
(見ていて飽きないやつだな)
暗くなりかけたイズルの心は、追いかけてきた後輩によって照らされたのだった。




