↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導学園で孤立していた俺はなぜか後輩に追いかけ回される。そしてやがて、後輩は急に離れていく。  作者: 夜納木ナヤ
魔導決闘祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/9

後輩との帰り道

「おめでとうございます先輩! ベスト16入りですね!」


試合を終えたイズルに、月乃は話しかけた。


「早いな。 そっちも試合だったんじゃないのか?」

「先輩の試合を見たくて瞬殺してきました」

「瞬殺したって、自分で言うやつはじめて見たぞ」


瞬殺を自称するだけのことはあり、月乃の試合時間は短い。


イズルは何度か月乃の試合を見ようとしたが、会場に着く頃には終わっていて、戦っているところを見ることはできなかった。


「さあ先輩、一緒に帰りましょう!」


月乃は上機嫌にそう言うと校舎に向かって歩き出す。


「なんかいいことでもあったのか?」

「先輩がお弁当の肉じゃがを美味しいって言ってくれたんです!」

「何時間前のことだよ……確かにうまかったけど」

「えへへ……」


イズルの反応に月乃の頬はさらに緩んだ。


「いつものところ集合ですよ!」


しばらくすると校舎が見えてきて、月乃は駆けていった。


「忙しい奴だな」


イズルも荷物を取るために教室に入った。まだ座学が始まっていない学校のリュックはとても軽い。


「うげっ、炎帝」


たまたま来たクラスメイトはイズルを見て逃げていった。


「別に好かれたいわけじゃないが、そこまで露骨にしなくてもいいだろ……」


イズルが教室を出ると声が聞こえてきた。


「ねえ君、どの部に入るか決まってる?」

「今悩み中です」


上級生による下級生の部活勧誘だ。


(懐かしいな……)


イズルも去年はいろいろな部活に誘われた。結局、勧誘された部には入らなかったが。


「せんぱーい!」


廊下を歩いていると声が響いた。あふれんばかりの笑顔を浮かべて走ってきたのは、月乃だった。


「待ち合わせじゃなかったのか?」

「早く会いたくてきちゃいました!」


えへへと声を漏らしながら月乃はイズルの前で立ち止まった。


「あれは……部活勧誘ですか」

「そうだな。 愛沢は部活決めたのか?」

「色々誘われていますが、入る予定はないですね。 それと月乃です」


月乃はそのまま歩き出そうとして止まった。


「あーでも、先輩が所属している部活には入りたいです」

「それなら帰宅部確定だな」


厳密に言えば、イズルは部活に入っている。


だがその部活は――イズル以外の全員が現在休学中で、現在は活動をしていない。


「帰宅部で学校と寮を往復するぐらいなら、なにか部活動した方がよくないですか? たしか作れますよね?」

「前に会長にも同じこと言われたな……」

「むー、あの女。 先輩を誘惑しようとはこしゃくな」


月乃は誰もいない場所に向かってパンチを繰り出した。


「会長と話したことがあるのか?」

「ありませんよ。 ですが先輩を狙う相手はみんな敵です!」


月乃はそう言うと鋭く目を細めた。その姿はまるで、外敵を排除し要素する猫のようだ。


「狙うって……会長が俺に興味なんかあるわけないだろ」

「先輩は無防備すぎるんです」

「なわけあるか」


話が長くなりそうだと感じたイズルは、月乃の言葉を無視して歩き出す。


月乃は少し慌てたようにしながらもその隣に並んだ。


「先輩は寮に帰ったら何をするんですか?」

「そうだな……普通なら明日の試合に向けて休むとかなんだろうな」

「ではお手伝いしましょうか? 今なら膝枕つきで場所の指定は自由。 お持ち帰りも可能です。 とってもお買い得ですよ!」


お店のつもりなのだろうか。月乃は手でハートマークを作るとウインクをした。


「男子寮は女子禁制だぞ」

「では屋外をご所望ですね!! なかなかマニアックな……」

「そういうことじゃねえよ……」


待ち合わせ場所だった第二演習場をそのまま抜け、さらに先へと進んでいく。そこはイズルがよく使う帰り道だ。


寮までは遠回りになるが、そのおかげで他の生徒はあまり利用しない。


少し前まではイズル専用の帰り道だったが、最近は隣にひとり加わった。


「さっきのお弁当のお話で思ったんですが、先輩は夜ご飯はどうしているんですか? 食堂で見かけたことがありません」

「食堂は人が多いからな」


食堂では、寮で暮らす生徒のために夕飯が用意されていて、ほとんどの生徒が利用している。


イズルも以前は食堂で食べていたが、孤立してからは一度も食堂に足を運んでいない。


しかも食堂は、集まって勉強をしたり、交友を深める場所として開放されている。


人を避けたいイズルが行くにはハードルが高すぎた。


「先輩は夜は何をして過ごしているんですか?」

「特に何も」


「先輩は夜は何を食べているんですか」

「あるものをその時の気分で」


月乃は立ち止まると、不満そうに頬を膨らませた。


「もしかして先輩、私とお話したくないんですか?」

「いや、そんなことはないが」

「本当ですか?」


月乃は急に黙ると、そのまま先に歩き出す。その小さな背中を見つめながら、イズルはどうすべきか考える。


質問の答えを改めて考えてみるが、わざわざ口にするようなことも浮かばなかった。


夜の過ごし方は、部屋で魔術書を読むか、第二演習場で魔術の練習をするかの二択だった。


他の生徒がみんなで集まって勉強をしたり、魔術を教え合うのと何も変わらない。


「夕飯はそうだな……適当に素材を焼いている」

「さっきの答えとあんまり変わってないじゃないですか……」


月乃はため息交じりに言うと、頬を少し緩ませた。


「先輩がご所望なら、夜ご飯も作りますよ?」

「それはやめてくれ。 2食も世話になったら味が分からなくなる」

「それは嫌なのでやめておきます」


遠回りのはずの道も話をしながら歩くとあっという間だった。


男子寮と女子寮の分かれ道。イズルは止まることなく進んでいく。


「先輩、また明日ですよ」

「ああ」


立ち止まった月乃は、離れていく背中をじっと見つめる。


「先輩……また明日ですよ」


声が漏れた。その声はイズルに向けたものではなかった。


だが、月乃の見ていた背中は左の肩が少し下がり、返事をするかのように反対の手が上がった。


開かれたそんぼ手のひらは、「またな」と言っているようだった。


「聞こえてましたか……」


月乃は恥ずかしそうに言うと、女子寮に向かって走った。走りながら気が付いた。


「先輩に食べたいものを聞き忘れた……」


それだけじゃない。もっと聞きたいことがあったはずだ。


そう思い返しながら、月乃は寮へと入っていった。


その一方で、まっすぐ寮に向かったイズルは考えた。


普段、夜に何を食べているのか。


「肉にチーズ、それからパンか」


夜に食べているものをノートにメモした。どれも炎で火を通して食べているだけ。工夫していることがあるとすれば、好きな焼き加減になるように火力を調整していることぐらいだ。


「栄養バランスが悪いとか言われそうだな」


月乃に言ったらどんな反応をされるのか想像して、イズルは思わず笑った。


「さて、寝るか」


明日はどんな一日になるのだろうか。1ヶ月前までは不安でしかなかったことが、今は少しだけ楽しみに思えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。