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魔導学園で孤立していた俺はなぜか後輩に追いかけ回される。そしてやがて、後輩は急に離れていく。  作者: 夜納木ナヤ
魔導決闘祭

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3/9

後輩の名は

「やあイズル、順調じゃないか」


壇上を降りたイズルに声をかけたのは、生徒会長・海崎(かいざき)メグリだった。


その通称はパーフェクト・セイバー。


筆記・実技・人望――どれをとってもトップクラスの文句なしの優等生だ。


まだ3年生になったばかりでありながら、すでに国の機関から声をかけられ、卒業後の進路が決まっている。


あの事件の後、イズルは生徒会長に聞いた。


「どうして会長は、毎日学園に来るんですか?」


進路の決まった生徒は、在学しながら働くことも少なくない。


メグリの実力であれば、喜んで迎え入れてもらえるはずだ。


「生徒会長だからさ」

「じゃあもし、生徒会長じゃなかったとしたら?」

「分からないね。 生徒会長になることしか考えていなかったからね」


そう答えるメグリは、本当に誇らしそうだった。


「ボクはね、この瞬間にしかできないことを全力で楽しみたい――それが学園で3年間を全うしようとする理由さ」


イズルにはその言葉の意味を理解できなかった。


少なくともその時のイズルには、この学園に留まってやりたいことはなかった。


すべてを燃やし尽くしたイズルには、もう何も残っていなかったから。


そして、あの会話から1ヵ月以上経った今も――イズルの何も見つけられていない。


「会長の試合はこれからですか?」

「そうだよ。 暇ならぜひ見に来てくれ」

「遠慮しておきます。 人前に出ると目立つので」


この瞬間でさえ、周囲はざわめいている。


なんであんなやつが会長と話しているんだ。

なんでなんなやつに会長が話しかけるんだ。


イズルにはそんな声が聞こえた気がした。


「あんなものはただの嫉妬だよ。 力を持つ者の宿命と言ってもいい」

「俺には力なんてありませんよ」


イズルはそう返事をすると歩き出す。


早くどこかへ行ってくれ――そんな周囲の視線から逃げるように。


試合会場を出て、やってきたのは第二演習場だ。


第二演習場は今は使われていない場所で、校舎からも離れている。


人があまり来ることがないので、ひとりで過ごしたいイズルにとっては最高の場所だった。


「あの女の人は誰なんですか」


そんなイズルの平穏を壊したのは、追いかけてきた後輩――ルナ・プリンセスだった。


「ルナは暇なのか?」

「あの女はルナって言うんですね。 すぐに排除します」


ルナ・プリンセスはファイティングポーズをすると、ステップをしながら、右に左にパンチを繰り出す。


「いや、ルナはお前のことだろ」

「知りませんよそんな女」

「周りがそう呼んでただろ」


イズルの言葉に、ルナ・プリンセスはため息をついた。


「そういうことですか。 先輩って、周囲に無頓着なフリをして、実はかなりのミーハーですね」


イズルは周囲に無頓着なつもりはなかった。


むしろ、人一倍周囲のことに敏感な自覚があった。


だって目立たないようにするためには、周囲がどう思っているのか知る必要があったから。


「つっきーと呼んでください」

「いや誰だよ」

「先輩は会話が下手ですか? この流れなら私の呼び方に決まっているじゃないですか」


ルナ・プリンセスは睨みながら言うと、自分の胸をポンと叩いた。


その胸はとても平坦で、可愛らしい見た目とよく合っていた。


「嫌だぞ」

「なんでですかっ」

「なんでって……普通に恥ずかしい」


イズルはあだ名で誰かを呼んだことはなかった。


1年間を共に過ごしたパーティメンバーでさえ、下の名前で呼ぶまでに1週間以上かかった。


「先輩も普通に男の子なんですね」

「むしろなんだと思ってたんだよ……」

「孤独を好むこじらせ系かと」

「ひどい言われようだな」


イズルはひとりでいたいわけではない。ひとりでいるしかないからそうしているだけだ。


そんなイズルを後輩はじっと見つめる。


「まだ何か言いたいことがあるのか?」

「えっと……そうですね……あのですね……」


今までとは違い、急に歯切れが悪くなる。心なしか、頬も少し紅い。


好戦的な姿は影を潜め、控えめで内気な少女が姿を覗かせる。


包み込む静寂がイズルにはくすぐったく感じられた。今すぐその静寂を壊したいと思った。


だが――イズルにはそれができなかった。


視線を右に左にしきりに動かし、必死に何かと戦っている後輩を前にして、「早くしろ」と急かしたり、「さっきと別人みたいだな」と茶化すことができるほどの気概は、イズルにはなかった。


やがて後輩は決意をしたように、視線をイズルに向けた。


唇が動き――静寂は壊れる。


「お呼び出しします。 1年生愛沢月乃さん。 至急、闘技場Bに来てください」

「うげっ、もうそんな時間でしたか」


静寂を壊したのは、後輩でもイズルでもなく、魔術決闘祭のアナウンスだった。


「それでは先輩っ、また後で」


後輩は大げさに言うと走って行ってしまった。


そのあまりにわざとらしい動きをした背中を見つめながら、聞こえた名前を思い出す。


「愛沢月乃……月乃だからつっきーなのか。 それで、月だからルナプリンセスか」


プリンセスというよりは猫だな。イズルはそう思った。


自分のタイミングで現れて、言いたいことだけ言って、自分の都合で去っていく。


まさに気まぐれな猫だ。


「そういえば、闘技場Bと言っていたな」


特にすることもないから。

暇だから。


――誰に聞かれるでもないのに自分に言い聞かせながら、イズルは歩き出した。

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