異世界生物怪奇譚27.5:コヨーテ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
新大陸を北から南へと旅していく途中。
北の雪が残る寒冷な針葉樹林から、乾燥した平原、農村や都市部、岩肌の目立つ砂漠地帯や、湿潤な温帯地域まで、幅広くコヨーテが住んでいた。
環境に適応し、形態や生態を変えるコヨーテ。
そんな生き物の観察記録。
ケース1:北部
北方の港を出て、わずかに進んだところ。
まだまだ肌寒く、木陰や草葉の下には白い雪がちらほらと残っている。
マツやヒノキが生い茂る、街道の林を抜けていると、どこからともなく遠吠えが聞こえてきた。
それを聞いて、私は身構えたが、ポールは耳をピクリと動かしただけで、平然と歩を進めていた。
んー・・・なら、大丈夫なのかな?
ポールが警戒していないのであれば、大したことではないのだろうと、私もそれに合わせて進んでいく。
しばらくして、木が疎らになり、視界が開けてきた頃、今度は足音が聞こえてくる。
重く、鈍く響く音。
軽快な木の葉を散らす音。
二つの混じった音がだんだんと近づいて来ると、ポールが片手を水平に上げ、止まるように無言で指示を出す。
左の木立から、どんどんと音が近づき、巨大なエルクが隙間から見えてきた。
そして、そのエルクが街道を横切ろうとしたのだが、段差に足を取られたのか、私たちの目の前で勢いよく転倒してしまう。
身体を震わせながら、立ち上がろうとするが、その瞬間にいくつかの白い影がそれに襲い掛かった。
白く長い毛の大きなコヨーテが、首に、足の付け根にと次々と噛みつく。
エルクはいくらかもがき抵抗していたものの、力尽きたのかだらんと地に伏した。
群れの仲間か子供なのか、少し遅れて小柄なコヨーテも追い付いてきて、巨大なエルクへと群がる。
道が塞がれて邪魔だなと思っていると、突然ポールが吠えた。
コヨーテたちはエルクから飛び退き、背を低くして警戒態勢に入る。
何をするのかと見ていると、ポールはエルクを大斧で切り分けると、適当に木立の方へ放り投げた。
その、エルクだったものの肉片を全て、投げ終わると、くぐもった低い唸り声を上げる。
何かの合図だったのか、それを聞いたコヨーテは肉片が投げられた木立に散り、街道からはエルクもコヨーテもいなくなった。
「よし。まだ、次の村へは距離があるし、先を急ぐか。」
ポールがそう声を掛け、先へと進むのだが、街道は血だまりの海。
私たちは街道の少し斜めになった端を、恐る恐る避けて進むのだった。
ケース2:荒野
また、しばらく歩いていると、今度は草木の少ない荒れ果てた荒野へと出ていた。
風が吹くと、どこからともなくタンブルウィードが転がってきて、世が世なら早撃ち勝負でも映えそうな、オレンジ色の荒野。
あぁ、こういうのも風情があって良いなぁと歩いていると、またコヨーテがいた。
身体はガリガリにやせ細っているが、顔はテカテカと白く光っていて、目はギョロリと大きい。それに、毛並みは長く、痩せているわりに艶はある。
荒野だから、それに適応するとそういう形態になるのかなぁと思っていると、別の方向からまた別のコヨーテの群れが歩いてきた。
そっちのコヨーテは特にやせ細ってもいなく、見た目は実にオーソドックスな姿。
しばらくして、群れ同士が近づくと、やせ細ったコヨーテの群れが高い声でキャンキャンと普通のコヨーテを威嚇していた。
争いでも起こるかと思って、眺めていたが、普通のコヨーテはそれから離れて何処かへ去っていった。
残ったやせ細ったコヨーテたちは、高い声で遠吠えをし、何か勝ち誇ったようで。
・・・なんだろう。SNSとかに適応したコヨーテなんだろうか・・・。
ケース3:郊外
次の街が見えてきて、もうすぐといったところで、街道の真ん中にコヨーテの群れがいる。
身体は小柄で、耳は垂れ、目はクリッとしていて可愛らしい。
ツバキが一目散にそれに駆け寄ると、しゃがんで頭を撫でていた。
それに続いて、エルザもコヨーテに近寄って、頭や背中を撫でている。
うん。この子たちは可愛いよねぇ、と見ていると、コヨーテたちはクゥーンと憐れみを誘う声をあげながら、地面に転がって腹を見せたりしていた。
ひとしきり可愛がると、そこを後にし街へ進もうとした、その時。
チッ。
ん?何か聞こえたような。
振り向くと、さっきまで可愛かったコヨーテたちが、目つきが悪くやさぐれているようで。
いや、気のせいだったことにしようと、改めて街へ向かおうとすると。
ペッ。
おそらく、気のせいではない。もっと現金的な見返りを要求されていたようで。
ケース4:市街地
街に入ると、そこにもやっぱりコヨーテはいた。
ただ、これまでとは違い、赤、黄、緑、青、オレンジ、紫など、ずいぶんとカラフルで、動きもなんだか軽やかな。
街中を進んでいると、そのコヨーテたちはササッと近寄ってきた。
私たちの前に整列すると、端から順番に音程を変えながら鳴いていく。
逆の端まで辿り着くと、今度はコヨーテたちが身体で輪を作ってそこをくぐり抜けたり、上に重なってそれを飛び越えたりと芸を始めた。
それを見たナギやエルザが、喜んで歓声を上げていると、演目は進んでいき、大きく飛び上がって着地したところがクライマックスだったようで。
その色とりどりのコヨーテたちが、改めて私たちの前に整列して、首を上げていた。
これ・・・なにかあげないといけないやつか・・・。
私はリャマに積んだ荷を開けて、干し肉をいくつか取り出す。
それを裂いて、ナギとエルザに持たせて、コヨーテにあげるように促した。
それを咥えたコヨーテたちは、ペコリと頭を下げると、また他の人間のところへと走っていった。




