異世界生物怪奇譚24:トマト
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
カボチャを収穫してから、しばらく過ぎた頃。
冬は終わり、春は過ぎ、燦々と日が降り注ぐ夏になっていた。
バーイリンの辺りは、普段は夏もあまり気温が上がらないのだが、今年は太陽が元気いっぱいで、日差しはジリジリと地面を焼いている。
窓という窓を全開にしても、屋内だと蒸し焼きになりそうだったので、各々屋外で涼む。
エルザは暑さに弱いようで溶けていた。
普段のきっちりした修道服を脱ぎ捨てて、庭の大きな木の下で下着姿で転がっている。
サエグサはどこからか持ってきた大きな桶に水を張り、スイカのようにぷかぷかと浮いていた。
ツバキは地面の照り返しが嫌なのか、木に登って猫みたいになっていて。
ナギと言えば、これまたどこから持ってきたのか、ビーチパラソルとデッキチェアを並べ、サングラスのような黒い眼鏡をかけ、片手に色鮮やかなグラスを持って・・・
それぞれ思い思いに暑さを避けようとしていたが、暑いものはどうしても暑い。
少しでも涼を取ろうと打ち水をしたり、流しそうめんならぬ流しカッペリーニをやってみたりしたが焼け石に水で。
そんな中、何か涼しくなるものがないかと私は市場へ向かっていた。
スイカとか、キュウリ、ナスみたいな夏野菜とか、ミントとかレモンみたいなスッキリできるものがあれば良いなぁと探していると、珍しいものを見つける。
真っ赤で、こぶしより少し小さい果実。トマトがあった。
水分が多くて、酸味もあって、暑い夏には最適だ。
井戸水でしばらく冷やして、塩でも振って食べたら最高だろう。
南方の国で新大陸から入ってきたものを細々作ってるだけということもあり、野菜にしては値が張ったが、1ダースほど袋に詰めてもらって家へと持ち帰った。
持ち帰ってからは、井戸に桶ごと漬けて、冷えてきてから引き上げる。
適当に切り分けて、皿に盛り、多めに塩を振って、庭の女性陣に持って行った。
最初に気付いたのはナギだった。
「なにその赤いヤツ!?おいしそ~!」
その声にサエグサも反応する。
「えっ?なに?トマト?いいじゃん、美味しそう。」
ナギとサエグサが皿のトマトをいくつか摘まんでいると、エルザもナメクジみたいに這ってきた。
「なんでしゅかぁ~・・・おいしいのがあるんでしゅかぁ・・・?」
いつもよりゆるゆるで、呂律も回っていないようだった。
そして、エルザも一つ摘まんで口に入れた。
冷やしトマト美味しいよねぇ、と思いながらエルザの様子を眺めていると何かおかしい。
顔がどんどん赤くなり、涙を流している。
なんとか咀嚼出来たのか、ゴクンと飲み込むと腕をバタバタさせながら叫んだ。
「これ!なんですかー!ヒゥ、ヒッ、辛いですぅー!!!」
何を言ってるんだエルザは、と思いながら、エルザが食べた隣のトマトを取って口に運んだ。
モグモグと噛むと・・・
口内が灼熱と激痛に包まれる。辛い。すごく辛い。
吐き出しそうになるのを抑えて、なんと飲み込むも、食道と胃が焼けるように熱い。
顔から、全身から汗が噴き出してくる。
ヒーヒー言ってると、ツバキも木から降りてきた。
「私も一つ貰っていい?」
それはたぶん辛いやつ、と忠告しようとしたが、既にツバキの口の中に入っていた。
あぁ、食べちゃった。とその後のリアクションを想像しながら、待っていると。
「美味しい。もう一つ貰うね。」
恐らくとても辛いだろうソレを、顔色一つ変えずに食べていた。
まだ、事情が掴めていないナギが、また一つトマトを摘まんだ。
「???なにやってんの?これ、美味しいやん。」
そう言って、一気に口に入れ飲み込むと、顔が真っ赤になり、毛が逆立っていく。
「ファー!!!なんやこれ!めっちゃ辛いやん!フー・・・フー・・・」
あ、そうだよね。普通は辛いよね。
その様子を見ていたサエグサは、だいたいの事情がわかったのか、端だけ少し千切るとついばむように口に入れた。
「うぉぉぉ。すごい辛いね。トマトのふりしたハバネロ?www」
そこから、いくつかトマトを切ってみたのだが、シシトウみたいに当たり外れがあるようで。
ハズレは普通のトマトなんだけど、アタリはハバネロクラスの超絶カプサイシンという。
残りのトマトどうしよう、ロシアントマトやるのも嫌だなぁと思っていると。
「まとめて潰して、ピリ辛トマトソースにしたら?全部トマトのアラビアータとか美味しそうじゃない?」
おっ!サエグサもたまには良い事言うじゃないか。
そうして、知見?を得た私はエルザと厨房で、アラビアータ風パスタを作り、それは我が家の夏の定番料理になっていった。
たまに辛すぎることもあったけれど。
そして、何度目かのアラビアータ風パスタを食べ、自室に帰る途中で玄関のカボチャを見て思い出した。
そういえば、角付きの魔族や、魔王は新大陸に居るんだったか。
近いうちに一度、新大陸にも行ってみた方がいいか。
そんな事を思いながら、残暑の生温い夜の寝床へと入っていった。




