表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界生物怪奇譚  作者: 入舟三叉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/35

異世界生物怪奇譚23:アヒル

ここは異世界、ナイラーヘイムル。

日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。

そんな世界。の少し変わった生き物のお話。


ホップの収穫から、街がビールの濁流に飲み込まれて数日経ち、アルコール臭かった川も、いつもの様子に戻ってきていたある日。

普段は家で料理を作って食べる事が多いのだが、月に数回は近所の食堂にみんなで夕飯を食べに行っていた。

夕飯とは言っても遅い時間ではないので、帰りは沈みかけの淡い夕陽を眺めて帰る。

ふと、橙色に照らされた川を見ると、アヒルの親子が泳いでいた。

白い親鳥に連れられ、黄色いヒナたちと、一羽の灰色のヒナが。


「あれは"みにくいアヒルの子"かな。」と、私がつぶやくとサエグサが答えた。

「そうかもね。大きくなったら、綺麗な白鳥になるのかな?」

そんな話をしていると、エルザが不思議そうに首を傾げる。

「"みにくいアヒルの子"ってなんですかぁ?白鳥さん?」

あぁ、そうか。ナイラーヘイムルにはそういう童話はないのか。

簡単にあらすじを話そうとすると、サエグサが割ってきて語り出した。

日頃から、ストーリーを考え、本を書いてるだけあって、サエグサの語る"みにくいアヒルの子"は、感情豊かにドラマチックに語られ、あたかも叙事詩かのような壮大さだった。

時折、汚い方向に脚色が入るので、ツッコミと修正は必要だったが。


「そうなんですねぇ!綺麗な白鳥さん。楽しみだなぁ!」

「せやな!ちゃんと大きくなってくれるとええなぁ。」

賑やかにエルザとナギが灰色のヒナの成長を願う中、ツバキはヒナの行方を穏やかに眺めていた。


アヒルを見つけてから、二週間ほど経った頃。

また、食堂へ行った夕日の帰り道で、川を眺めているとアヒルの親子が泳いでいた。

気付いたナギが声をあげる。

「あっ!アヒルや!だいぶ大きくなってるやん!」

成長が早いもので、まだまだ親鳥に比べれば小柄で黄色いが、最初に見つけた時に比べればずいぶんと大きくなっていた。

群れの後ろについていく、灰色のヒナもかなり成長していて、大きさだけなら親鳥に近いくらいの大きさかもしれない。

ヒナたちの成長をしんみりと見守りながら、邸宅への帰り道を歩いていく。

サエグサがアヒル×白鳥なのか、白鳥×アヒルなのか、というクソみたいな話をしていなければ、もっと良かったのだが。


さらにそこから二週間ほど。

アヒルのヒナたちはすっかり大きくなり、どっちが親鳥なのかわからないほどに成長していた。

その白い列の後ろには灰色のヒナが続いていく。

だが、おかしい。見た目はヒナのフォルムなのに、親鳥の倍くらいある。

その様子を見て、エルザは喜んでいた。

「白鳥さん大きくなりましたねぇ。良かったですぅ。」

いや、大きくはなったけど、なんか違う。

あれは、白鳥じゃないかもしれない。


そして、それから少し経ち、変わらず生活を続けていると、商会から依頼が入ってきた。

"巨大な"ヒナをなんとかしてほしいと。

まさか、あの白鳥(仮)か?しかし、この前見た時の感じだと、大きいとは言え"巨大"と形容するほどではなかったと思うが。

そうして、ツバキを連れて現場を見に行った。


以前に見かけたところよりは、上流に移動していたようで、そこは川幅は狭く、水深も浅い。

そんな小川にそれはいた。

頭頂高は3メートルほどあるだろうか。浅い川の川底には足が着いていて、もはや泳がずに歩いている。

羽が生え変わってきているのか、色は斑になっていて、それがまた奇妙な姿で。

どうするか。

ツバキも居るし、多少大きいとは言え駆除するのは難しくはない。

しかし、成長を見守ってきたこともあり、それは忍びなかった。


悩んでいると、ツバキが心配そうに提案してきた。

「ヤマダ。湖に引っ越ししてもらったらどうかな?せっかく、ここまで大きくなったのに・・・」

確かに、それは私も同じ思いだった。

いくら仕事とは言え、白鳥(仮)を駆除すれば、ナギとエルザも悲しむだろう。

ただ、これをどうやって近くの湖まで連れていくか。

ロープで縛るか、気絶させて馬車に乗せていくか、なんて物騒な方法を考えているとあることに気がついた。

あんなにデカいのに、律儀に親鳥(たぶん他人)に付いていく。


うまく行くかは賭けだったが、それは成功した。

親鳥(養父?)の首に細い紐を掛け、犬の散歩でもするように引っ張っていくと、ゾロゾロと群れが付いてくる。

最後尾には白鳥(仮)もちゃんと付いてきていた。

アヒルの足なのでずいぶんと時間は掛かったが、なんとか湖まで辿り着き、アヒルたちは水に入っていった。

湖の奥に入ると、水深が足りたのか白鳥(仮)も足を引っ込めて水の上に浮いてくれて。


そこからは何日かおきに白鳥(仮)の様子を見に行っていた。

最後まで成長を見守りたいというのと、どこかへ逃げだしたら困るというのもあって。

アヒルも湖を気に入ってくれたのか、そこに定着し、白鳥(仮)はどんどんと育っていった。

全長はもう、7~8メートルくらいあるだろうか。隣のアヒルが豆粒のように見える。

ずんぐりむっくりしていた身体はどんどんスリムになっていき、首はスラリと伸び、顔も凛々しくなっていた。

色はくすんだ灰色だったのが、徐々に赤くなっていき、いつの間にか鮮やかな赤とオレンジに染まっていた。


「おー!大きくなったなぁ!ピーちゃん、あんな小さかったのになぁ。」

ナギはそれに勝手に名前を付けていた。

「そうですねぇ。マルちゃんが元気に育ってくれて、良かったですぅ。」

エルザはエルザで、違う名前を付けていた。

そうして眺めていると、白鳥(仮)が大きく羽を広げ、羽ばたき始めた。

水面に大きく波が起き、アヒルたちが流されていく。

身体が重く、なかなか飛び立てないのか、バタバタと羽ばたきを繰り返す。

「ピーちゃん!ファイトー!頑張れー!」

「マルちゃん~!頑張ってくださぁい!」

だから!どっちかの名前で統一してくれ!

そうこうしていると、ようやく水面から身体が浮き出した。


完全に空中に身体を持ち上げると、しばらく湖面を波立たせホバリングを続ける。

そして、ひと際強く羽を空に打ち付けると、勢いよく湖を一周した。

全身は燃えるように真っ赤に輝き、羽の端には火の粉が舞う。

辺りをグルっと見回すと、長い尾羽をなびかせ、巨大なカボチャの葉を超え、蒼天へと旅立っていった。


あ、カボチャ・・・

まだ生えてるじゃん。どうしよう・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ