異世界生物怪奇譚21.5:薄い本
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
これは私とツバキがトリュフを収穫に行っている間の出来事。
最初は険悪な感じだったエルザも、あっさりとナギに懐柔され、私よりナギに懐いていた。
そして、神を信仰していたエルザは私を信仰するようになり、そこからナギを信仰するようになり、さらにナギからあるものを布教される。
それはもちろん、"男"と"男"が書かれた薄い本だった。
二人しかいない、広い邸宅のある日のこと。
エルザがいつものように、邸内を掃除していると、ナギがそれに声を掛ける。
「エルザー!ちょっと、こっち来てやー!」
早く早くと手招きするナギの姿に、首を傾げながらエルザはそれについていく。
そうして、エルザはナギの部屋へと連れていかれたのだった。
ナギの部屋は、ツバキが居なくて油断しているのか、実に荒れ放題で物が散乱している。
そして、椅子に座らされると、ナギから二冊の本を手渡された。
「なぁ、どっちがええかなぁ?こういうシチュもええけど、こっちも捨てがたいと思うねん。」
字は読めるものの、こういう本は読んだことがないエルザ。
いまいち事情が掴めず、恐る恐るナギに訊ねる。
「あのぉ、これ読んでも良いんですかぁ?」
「もちろん!貸したげてもええで!」
そう言われ、片方の本を手に取ると、ゆっくりとページを開いていった。
「えぇ!?」
「これ・・・良いんですかぁ?」
「わぁ!そんな!・・・すごい・・・。」
次々とページを捲り、その度声を上げるエルザ。
それをニヤニヤしながら、黙って眺めるナギ。
小一時間掛かって最後のページまで辿り着くと、ナギは何も言わずもう一冊を手渡す。
「おぉ・・・」
「これはなかなかハードな。」
「すごい。こんなのヤメェダさまにもされたことないのに。」
また、さっきの本とは違うリアクションに満悦のナギ。
あれ?お兄やんにもされたことないのに?何を?
少し疑問はあったようだが、狙い通り食いついてきたエルザに改めて問いかける。
「なぁ、どっちが良かった?最初のが好みなんやけど、後のもこういうのあってもええなぁって。」
問われたエルザは、少し思案する。
「そうですねぇ・・・。私はぁ・・・。」
数十秒くらい経ったか。エルザが語り出す。
「私は最初の強引に押してくるようなのも良いと思うんですけど、後のヤツみたいに少し弱々しく見せておいて、引き込んだら豹変して一気に押し倒しちゃうのはすごく良いと思うんですよね!優しくしてあげようとしたら、罠に嵌められていて、主従が入れ替わっちゃうみたいな!でも、ちょっと展開が安易かなぁって。私としては一気にガバっと変わるんじゃなくて、気付いたら攻守が入れ替わってて、おかしいと思うんだけどそれに流されて溺れちゃうみたいな、ゆるやかに嵌っちゃうほうが好みと言うか。でもでも、一気に来られるのもそれはそれで良いですし、私もどちらも捨てがたいですぅ。」
長文だった。本編通して一番の。
ふむふむと、ナギが頷く。せやな、と置いて呟いた。
「えぇよな。でも、作者がどっか行ってもうたみたいで、続きが出ぇへんねん。エルザはこういうの描けたりせぇへん?」
エルザは神妙に考え込んで、自信無さげに返す。
「そうですねぇ。修道院にいたころに絵は描いたりしてましたが、私にこんなすごいものが描けるんでしょうかぁ・・・」
それを聞いたナギはエルザの手を取る。
「とりあえず、やってみよ。筆とか染料はウチが買うてくるから、描いてみて。その分、ウチも掃除手伝うから。」
普段は労働を拒否するナギも、新作に飢えていたのか、変に乗り気だった。
そして数日後。
「ナギ様ぁ。やっと描けましたぁ。読んでいただけますかぁ?」
待ちに待った知らせに目をキラキラさせて飛びつくナギ。
表紙をしばらく眺めると、ページを静かに開いていく。
時折、前のページに戻りながら、何も言わず読み進めて行った。
最後のページまで辿り着き、パタンと閉じてエルザへと視線を移す。
「エルザ!めっちゃすごいやん!ストーリーもグッと来るし、絵も臨場感と生々しさがあって完璧やん!」
そういわれたエルザは、あまり褒められ慣れてないのもあり、髪を指でくるくるしながら恥ずかしそうに答える。
「えー・・・そうですかぁ?ナギ様に褒められて、嬉しいですぅ。」
「嬉しいなんてもんじゃないで!本屋に持っていって、刷ってもらお。こんなええやつ、もっと読んで貰わなあかんて!」
そう言うと、その本とエルザの手を引っ張って書店へとナギは駆けだしていた。
さらに数日後。
刷られた本は書店の軒先に並び、多くの人(主に女性)がその列に並んでいた。
その中にひと際背が高い女性が並んでいる。
猫背で、目には隈が浮かんだ女性が。
その女性は、順番が回ってきて本を手に取ると頬を緩めて呟いた。
「私が書いたやつじゃないじゃん。同志が出来るのは嬉しいねぇ。描いてくれた作者はどんな人なんだろう。」
そう言い残すと、女は本を片手にバーイリンの街を歩み出した。




