異世界生物怪奇譚21:トリュフ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
貴族の邸宅で始まった、4人での同居生活も気付いたら早一か月。
めんどくさい事になるのではないかと思っていたが、思いのほか順調だった。
エルザは、最初はナギやツバキに敵意むき出しで、どうしたものかと思っていたが、三日も経たずにナギに懐柔され、私よりむしろナギに懐いていた。
逆にツバキは私といっしょに仕事に行くことが多く、いつの間にかナギより私にといった感じで、従者(信者?)が入れ替わっていた。
そんな頃、私とツバキはいつものように、依頼で出かけていた。
今回はトリュフの採集。
キッチンのダイヤモンドとも言われるトリュフは、ここナイラーヘイムルでも珍重され、小粒なものでも金貨で取引されるほどだった。
トリュフ採集の依頼はとても人気で、以前にも何度か受けようとしたが、空きがなく受けられず。
今回は、予定していた人員がたまたま病欠で来られないということで、運よく採集に行ける事となっていた。
そうして、準備を終えると家に二人を残して、ツバキと仕事に出る。
見送りにナギとエルザが出てきた。
「お兄やん、ツバキ行ってら~。お土産待ってんで~。」
「ヤメェダさま、ツバキさん。行ってらっしゃいませ。」
うん、家族に見送られてというのは良いものだ。
この二人だけを置いていくというのは心配だったが、今までは特にトラブルもなく。
今回は長めに家を開けるのだが、なんとか大丈夫だろう。いや、大丈夫かな?
街の入口で馬を借り、西へと進んでいく。
トリュフが採れるのは西の隣国の森で、以前行ったブドウ畑の近くである。
依頼が終わったら、帰りに寄って行こうかな?ローサは元気にしているだろうか。
エルザの話をしたら、みんなどんな顔をするんだろうか。
そんな事を思いながら、山を越え西へ西へと街道を進んでいった。
そしてバーイリンを出て数日。
トリュフが採れる森のある村へと辿り着いていた。
辺りは森ばかりで、大して畑もないのだが村は大きく、ちょっとした町くらいだった。
トリュフを採りに来たり、交易の中継点として人の往来が多いのだろうか。
深々とした森には似つかわしくない、活気のある村で馬を止め、宿へと入っていく。
宿に入るまでの間、あちこちから集まってきたであろう、季節労働者や冒険者とすれ違うのだが、少し様子がおかしい。
こういう季節労働に来るのは九割九分男性で、女性が混じるのはブドウの収穫くらい。
それも混じると言っても、せいぜい一割居るかどうかなのだが、三分の一ほど地元民ではなさそうな女性がいた。
まぁ、トリュフなんて力は要らないし、女性の方が注意深くて見つけやすいとかあるのかなぁ、と思っていた。
村に着いた時には日が傾いてきていたので、手短に村長や依頼主に挨拶を済ませると、さっそく宿で夕飯をいただく。
料理はまぁ、この辺のヤツという感じ。
肉はあるが素朴な塩味といったくらいで、パンやスープも特筆すべきことはない。
しかし、この地方の宿には何回か泊まったが、とても楽しみなものがあった。
そう、ワインとチーズ。
良質なワインとチーズがあり、美味しいのはもちろん、種類も多い。
大き目の宿だと何種類かから選ばせてもらえたり、日替わりでいろいろ出してくれたり。
おつまみのチーズも、他だと適当に数センチ角に切られたものがドンと一つ出てくるだけなのだが、この辺りの地域では何種類か小さくカットされてアソートで出てくる。
依頼料などとは別で、トリュフの依頼を受けたかったのはこれも理由だった。
私は青カビのチーズをチビチビと齧りながら、ゴブレットをゆっくりと傾けていたのだが、ツバキさんはザルなので次々とデキャンタを空にしていっていた。
あの小さな体のどこにアルコールが吸い込まれていってるんだろう。
そんな事を考えながら、別のテーブルを眺めるとやはり違和感がある。
普通はこういう季節労働に女性が来る場合、旦那の付き添いで付いてきたのか、もしくはなんらかの事情で故郷を追われたはぐれ者が多い。
しかし、あっちのテーブルもそっちのテーブルも、むしろ女性がリーダー的に振舞っているような。
そんな事を考えていると、
「ヤマダぁ。他所なんて見てないで、美味しいんだから飲みなよ。ほら。」
半分ほど空いた私のゴブレットに、ツバキがなみなみとワインを注いでくる。
酒癖はそんなに悪くないんだが、やたらと飲ませようとしてくるところだけはツバキの悪癖だった。
翌朝。
少し酒が残ってるのか、軽い頭痛と重さの残る頭を叩き起こして、集合場所へと向かっていった。
私たち以外にも何組かいたが、それらのグループには全て女性が含まれている。
まぁ、私たちも男女二人で来ているので、変なのは変なのだがやはり気になってしまう。
そうして、依頼主から説明や注意事項を聞き、籠を渡され各々森へと入っていった。
私の記憶が確かなら、トリュフは豚や犬を使って嗅覚で探していくもので、闇雲に探してもなかなか見つからない。
ただ、付く木は種類が決まっているし、近くにリスや虫が居れば目印になるかもしれない。
朧げな記憶を引っ張り出しながら、地面の落ち葉を払い、トリュフを探していた。その時。
パチン!パチン!ピシャ!
別のグループの方から、何やら破裂音のような何かを叩く音が聞こえる。
それに叫び声というか話し声のようなものも。
何かトラブルが起きたのか?仲間割れ?
まだ何も入っていない籠を片手に、ツバキと音がした方向へ向かった。
そこには。
「この豚ぁ!ちゃんと探しなさい!」
パシン!
いつの間に着替えたのか、露出の多い革張りの服に身を包んだ女性が、四つん這いで地面を探す男に鞭を振るっていた。
「ブ、ブヒィ~。女王さまぁ、もっと、もっとくださいぃ。」
・・・何のプレイを見せつけられているんだろうか。
怪訝な顔でそれを眺めていると、こちらに気付いたのか女性が話しかけてきた。
「どうですか?トリュフ採れました?こっちはまだなんですよぉ。」
そう言い終わると、振り向いて鞭を振るう。
「おい!この豚!他所に負けないようにちゃんと働け!」
私はお互い頑張りましょうね、と引き攣った笑みで挨拶をして、元居た場所へと戻っていった。
そして、地面へ膝を付いて落ち葉を払っていると、ツバキが。
「ねぇ、ヤマダ。私たちもアレやった方が良いよね。きっとそう。いや、絶対にそう。」
従者モードではなく、いたずらモードのツバキの声だ。
恐る恐る振り返ると、どこから取り出したのか、柔道の帯のようなものの両端を掴み、パシンパシンと音を立てている。
その顔は、とても楽しそうで嬉しそうで。
いや、ツバキさん。アレをやっても別に効率が上がるわけでは・・・
そして、日が暮れる頃にはなんとか4つのトリュフを見つけていた。
他のグループよりは少なかったが、人数を考えれば悪くはないだろう。
どうやって見つけたかって?
・・・頑張って探した。そういう事にしておいてください。
そこから5日が経ち、あらかた今年の範囲は終わったので帰路へと着いた。
帰り道ではブドウ畑の修道院に寄って、ばっちり美人に成長したローサに会い、エルザの失敗談でみんなを笑わせ、ツバキはワインの樽を空にして。
修道院を出ると、また馬に揺られバーイリンへと山を越えてゆく。
何故か痛い、背中と尻の痛みに耐えながら。




