異世界生物怪奇譚20:レモン
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
蜂蜜を受け取りに行き、バーイリンへと戻ってくると、何故か家にナギとツバキがいた。
突然の事態に驚いていると、ナギが笑顔で話し出した。
「久しぶりお兄やん。本を買・・・お兄やんに会いに来たで。こっちにしばらくおるつもりやから、お兄やんとこに泊めてな。」
あの、お土産の薄い本のせいか。残念ながら気に入ってしまったようだった。
しかし、泊まるとは言われても、そんなに広い家ではないし、ベッドも一台しかない。
宿の世話はするから、とやんわり断ろうとすると、ツバキが遮ってくる。
「少し片づけたら、ベッド置けるじゃないですか。私も手伝いますし。」
思わぬ追撃だった。
面倒なトラブルが起きそうな気もするし、出来れば断りたかったが数的不利もあって分が悪い。
ベッドの購入代や、お礼もしてくれるとの事だったので渋々了承していた。
とはいえ、今すぐベッドを用意できるわけでもないので、今日のところはと、別で宿を取って貰う事にした。
翌日。
ナギとツバキと三人でベッドを買いに行っていた。
ナギがやたらとデカい天蓋付きのベッドを買おうとしたり、ツバキが私のベッドでいっしょに寝るから要らないとか言い出したり、ひと悶着あったがベッドを買い自宅へ戻る。
今で言う1DKくらいの我が家に、ベッド三台はパズルゲームのようになっていたが、なんとかギリギリ収まっていた。
ナギがキャッキャとベッドで跳ねてる横で、ツバキが掃除や片付けをしていて。
思えば、ナイラーヘイムルに来てから、旅の途中で誰かと宿を共にすることはあっても、誰かと暮らすという事はなかった。
家に帰れば家族がいて、というのも悪くはないかもしれないと思っていた。
この時は。
ナギやツバキが来ても、私の仕事が無くなるわけではないので、依頼や商会に顔を出したりで日中出たり、行商のために数日家を空けたり。
ツバキはこちらでの滞在費の足しにと、私の仕事に同行したり、別の依頼に出たりする中、ナギお嬢様は遊びまわっていた。
最初は本屋や喫茶店に行くくらいだったが、だんだん行動範囲が広がってくると、薄い本好きのコミュニティのお友達がたくさんできていたり、近所の子供たちの人気者になっていたり。
それだけならまだしも、何故か貴族のお嬢様に招かれ邸宅に遊びに行っていたり、騎士の訓練に混ざって剣を振っていたり、旅の楽団に混ざって歌って踊っていたり・・・
行動力とコミュ力の化け物だとは思っていたが、ここまでとは恐ろしい。
そして、この生活にもそれぞれ慣れてきた頃、問題が表面化してきていた。
そう、部屋のキャパシティが限界に達しつつあった。
元々狭いのだが、ナギは次から次に薄い本やら謎の雑貨を買ってくる。
ツバキもツバキで、メイド服は可愛いけど替えも欲しいしと、どんどん服が増え、ただでさえ狭い部屋がドンキの店内のようになっていた。
さすがにいい加減なんとかしないとマズいと思っていた頃、それは起こった。
普段はナギが家に居て、後から私やツバキが帰ってくることが多いのだが、その日はたまたま仕事が早く終わり、先に帰ってきていた。
椅子に座っていると部屋内の行き来の邪魔になるので、ベッドの上でゴロゴロしているとナギが帰ってくる。
「ただいまー、お兄やんツバキ。美味しそうやったから、レモン買ってきたで~。」
そういって帰ってきたナギの腕には、大きな袋に山盛り積まれた大量のレモンが。
また、そんなに買ってきて。食べきれないし何処に置くんだ、と思っているとナギはその袋を床に降ろし、レモンを一つ手に取る。
そして上着を脱ごうと、机の上に山のように積まれた薄い本の上に、そのレモンを置いた瞬間。
ドカン!
レモンがいきなり爆発し、部屋が衝撃に包まれる。
私は部屋の奥の方のベッドの上だったので比較的マシだったが、それでも何回転かゴロゴロと吹き飛ばされ壁に張り付いていた。
部屋の中が煙で包まれる中、ナギは無事かと辺りを伺うと、ツバキが覆いかぶさるように床に押し倒されていた。
多少、小さい怪我や服が破れたりはあったようだが、幸いにも命には別状はなかった。
ただ、部屋は無事ではなかった。
壁には大きな穴が開き、机は木片に成り果て、うず高く積まれていた荷物は、瓦礫の山となっていた。
しかし、レモンが爆発するなんてどうして。
命を狙われるような覚えもないし、レモンが特殊な魔力アイテムだと聞いた事もない。
何か変わった事はなかったか?
ナギが帰ってきてからの行動を思い出す。
レモンの袋を床に置き、一つ取り出し、上着を脱いで、積まれた本の上に・・・
積まれた本の上に?
・・・そっちじゃなくていいだろ!それは実際には爆発しないだろ!
苦い匂いで昔の恋人を思い出すくらいでいいじゃないか・・・
命は無事でそれには安堵したものの、部屋の惨状に途方に暮れていると、ナギが珍しく落ち込んでいた。
「ごめんお兄やん。こんなことになってまうやなんて・・・」
ナギがしょんぼり俯いていると、ツバキがその肩を支えながら言う。
「ナギお嬢様、大丈夫ですよ。お身体が無事で良かったです。」
そして、ツバキはこちらを向いて続けた。
「手狭になってきていましたし、広い家に移りませんか?災難だったとは言え、良い機会だったと思えば。」
そうなんだけど、そうじゃないというか。
これを機に帰るのかと思ったら、二人はまだまだこちらに居るつもりのようだった。
ずいぶんと開放的になってしまった我が家の窓から外を見ると、大きな音がしたこともあり、野次馬がちらほらと集まっていた。
その日はひとまず宿を取ったのだが、宿屋の主人は既に我が家が爆発していたことを知っていた。噂はかなり広まってしまっているようで。
しかし、新しい家と言ってもどうしよう。明日、商会に頼んで、どこか手ごろなところを紹介してもらうか。
そんな事を悩みながら夜を過ごした翌日。
どこから回ろうかと思っていると、宿屋まで二組の身なりの良い人たちが訪ねてきていた。
ナギの家が爆発したとの噂を聞きつけて、わざわざ来てくださったそうで。
こっちは貴族の若いお嬢様で、使っていない邸宅を是非使ってくれと。
そっちも貴族で年配の老紳士だった。部屋もたくさん余っているし、食客として来てほしいと。
どちらも嬉しい申し出だったが、ナギやツバキが帰った後の事を考えると食客は心苦しかったので、そちらは丁重にお断りをさせていただいた。
そして、貴族の若いお嬢様はナギの手を取って飛び跳ねながら喜び、老紳士は肩をガックリと落として帰って行った。
引っ越しもとんとん拍子に進んでいき、その日のうちには最低限新居で寝泊まりできる状態になっていた。
数年使われていないので汚いのですが、と言われていたが庭木は綺麗に手入れされており、邸内は多少埃は積んでいたものの、軽く掃除すれば十分住めるほどだった。
その掃除も貴族家の使用人たちがほとんどやってくれて、私とツバキは少し手伝うくらいだった。ナギは貴族のお嬢様と遊んでいた。
不意の事故から、何故か立派な邸宅に住むことになってしまったのだが、とにかく広い。
貴族の本邸に比べればぜんぜん小さいのだが、一般庶民が住む家にしては十分過ぎるというか余してしまう。
ベッドルームが5つに、客間に応接間、食堂にキッチン、地下室や使用人部屋もあるし、離れに浴室と倉庫まであり・・・
豪華な家に住めることは嬉しかったが、手入れや維持費は頭が痛い。
特に手入れは問題で、汚して返すわけにはいかないのだが、専用に使用人を雇っているわけでもないので、これをどうするか。
そう悩んでいると、誰かが邸宅に訪ねてくる。
「ヤメェダさまぁ!お話はクラウヅさんから聞きましたぁ。災難があったと・・・」
これは渡りに船だった。
今まで悪魔にしか見えなかったが、今はエルザが天使に見える。
ニコニコと満面の笑みでエルザを招き入れ、使用人として働いてもらう事にした。
そうして、謎のハーレム?生活が始まるのだった。




